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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学一年生編
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生徒会選挙④

昼休みの校内放送に知香の出る日が来た。


予めクラスの放送委員からタイムテーブルと当日の質問内容を貰っている。


『ともち、頑張ってね。』


『給食食べられないのがツラいよ。』


雪菜たちの励ましに冗談で返したが、内心はかなり緊張していた。


その前の演説も緊張したが、その時は自分の思っている言葉を話すだけで一方通行だったが今回は質問内容が分かっているとはいえ多少のアドリブも必要だ。


ちょっとした言葉のやり取りで上げ足を取られかねない。


少し重い足取りで放送室に向かった。


『今日は宜しくお願いします。』


『白杉さんね、緊張しなくて大丈夫だから。』


司会の山田千夏が笑って知香の緊張をほぐした。


気になるのは千夏が紀子の時に不機嫌になったあの一瞬である。


後で麗に聞いてみたらやはり千夏も麗と同じ三年A組である。


という事は麗を良く思っていない生徒の一人である可能性が高く、知香に対しても生意気な一年生だと思われているかもしれない。


体育祭でも同じA組として顔を合わせている筈だと思ったが、放送委員の為ずっと放送ブースに居たので分からなかった様だ。


音楽が流され、続いて千夏がオープニングの挨拶をする。


『ご機嫌如何ですか?[ランチタイムウェイブ]です。お昼休みのひと時、素敵な音楽とトークでお寛ぎ下さい。今週も生徒会選挙の為私山田千夏がお送り致します。』


(プロのMCみたいに上手いな。)


『先週から会長、副会長候補の方とお話して来ましたが、今日から最後の三日間、書記候補の三人に登場して貰います。そのトップバッターは一年A組の白杉知香さんです。』


『白杉知香です、宜しくお願いします。』


千夏から紹介され、挨拶する。


『白杉さん、全然緊張していない様に見えますね。こういうのは慣れてるのかな?』


『い、イヤ、がちがちです!』


『そうかなぁ?ユードーガも見たけど落ち着いて見えるよね。』


早速嫌味っぽいトークで何か誘導尋問されている様だ。


『緊張はするんですけど、いざとなると開き直っちゃう性格みたいです。』


千夏の知香を見る目がなにか魚か野菜の品定めをしている様に思えてしまう。


『白杉さんは何故生徒会の書記に立候補したんですか?』


『生徒会のお仕事って中学に入るまで知らなかったんですけど、学級委員としてお手伝いをさせて戴いて、生徒会って縁の下の力持ちなんだなって思ったんです。今の会長さんを始め執行部の皆さんもとても良い先輩ばかりなので私ももっとお手伝い出来ればと思って立候補しました。』


『立派な考えですね。ところで白杉さんは性同一性障害との事ですけど……』


(事前の質問事項に無いのが来た!)


『クラスメイトや先生に迷惑を掛けていると思った事とかありますか?』


知香は千夏が麗の話に持って行きそうだと直感して警戒する。


『いつも迷惑を掛けていると思っています。なので出来るだけみんなに恩返ししたいです。』


『ところで白杉さんは毎日車イスの三年生の介護をしている様ですが、どうしてですか?』


(全然事前の質問と違うじゃん!)


『私も最初、職員室の脇にある多目的トイレを使っていたんです。それで障害を持っている三年生の今井さんとお話をする機会があって、そのうちにお手伝いさせて戴く事になったんです。

あ、無理やりやれとか言われた訳じゃないですよ。なんて言うか、今井さんと私は臭い仲なんです。』


先日の紀子の言葉を否定する事で多少千夏の顔が緩んだ様に見えた。


『ホントに臭い仲ですね。……あ、失礼しました。では聞きにくい質問なんですが白杉さん、嫌いな人って居ますか?』


(だんだん選挙と関係無くなってきたみたい。)


『ちょっと苦手だなって人は居ますが、嫌いな人は居ません。』


『ではその苦手な人とどう付き合います?』


(もう勘弁して!)


他の候補者には聞いていない様な質問をされ参ったが返事をしない訳にはいかない。


『苦手でも出来るだけ話をします。どんな人でも会話を通じて心を許してくれれば嬉しいです。』


千夏は質問しているうちに知香の事をもっと知りたくなった。


『では、白杉さんがもし男子のままでしたら今回の選挙に立候補していましたか?』


(そんな事まで聞くの?)


『ずっと男子でいたら、今みたいにたくさん友だちも作れなかったでしょうし立候補どころか学校に来てなかったかもしれません。』


『どうもありがとうございました。選挙頑張って下さいね。』


やっと放送が終わってひと息付いた。


『ごめんね、予定外の質問ばかりして。』


千夏は非を詫びた。


『この前、高野さんが一年生に今井さんの世話を押し付けたって言ったでしょ?確かに私たちクラスのみんなは誰もやりたがらないのは事実だから仕方無いんだけど、ケンカを売られたみたいで気分悪かったのよ。』


一瞬不機嫌そうだと思ったのは当たりだった。


『私も毎日白杉さんが今井さんの車イスを押して教室に来るの見ていたんだけど、白杉さんも高野さんみたいな事言うかなって試してみたの。』


『実を言うと最初は今井さんにトイレに拉致されたんです。』


知香は初めて麗の世話をした時の話をする。


『拉致…何それ?』


『保健委員が二人掛かりでやっていたのを私一人にやらせたんですけど、今井さんなんか私に興味があったみたいで……あ、興味って好きとかじゃなくて……。』


『あはは、白杉さんって面白いね。なるほど、今井さんが興味持つの分かる気がする。』


『今井さん、いろいろ話してくれました。本当は寂しいみたいです。』


『私たちだって最初から冷たくした訳じゃ無いのよ。今井さんお嬢さまだから元から高飛車なのに事故の後みんなを疑ったりして誰とも話さなくなったの。でも白杉さんには心を開いたんでしょ?』


千夏は知香だけが閉ざした麗の心を開いた話を聞いて興味を持った。


『もしかしたら、白杉さんって人心掌握の壺を持っているのかな?私も話をして楽しいと思ったし。放送委員にスカウトしたいくらい。』


また似た様な事を言われた。


『いえ、買い被り過ぎですよ。私はなんの才能も持って無いです。』


『そういう謙虚な所とか素直なのが良いのかもね。放送じゃあくまで中立の立場だから言えないけど、白杉さん応援するよ。票入れるから。』


まだ明日明後日他の候補者の放送があるのにこんな事言って良いんだろうか?


(もしかしたらみんなに同じ様に一票入れるって言ってるかも?)


千夏の話は本当か嘘か分かりかねるが、そこまで言ってくれるのは嬉しい。


『今度生徒会とは関係無く白杉さんトークゲストに呼んで良い?聞きたい事はたくさんあるから。』


断われ……ないだろうな。


また、知香のファンが増えたみたいだ。

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