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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
小学六年生編
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山本先生

父にも何とか許しを得て白杉知之は改めて白杉知香と名乗り女の子としての生活をスタートする事になった。


次なる関門は病院で『性同一性障害』としての診断を受けて身体も女性に近づける治療を始める事である。


父に話した翌日の一月三日、知香は元日にはずみに教えてもらった無料通話アプリを使って雪菜とはずみに報告した。


[これからはともかだよ。おとうさんにも認めてもらった。]


早速二人から良かったねと返事が来て、三が日が明けたら病院に行くと報告した。


母・由美子と共にネットで性同一性障害[GID]の治療がどのようなものか、時間や金銭がどれだけ掛かるかなど調べてみて凡その事は分かったが具体的な答えは分からなかった。


とりあえず分かったのはGIDのための学会で作られたガイドラインというものがあって、専門の医師がそのガイドラインに副って適切な診断・治療を行う事が望ましいという事である。


両親にとってみれば大事な子供が性別違和の悩みに勇気を振り絞って打ち明けてくれたのだからきちんと将来のレールを引いてあげなければならない。


なのでそのガイドラインに副った治療をしてくれる県庁に近い病院に予約の電話を入れてみたが正月明けという事もあって当日の診察は出来ない様であった。


由美子も出来ればパートの仕事に穴を開けたくないし、知香も早く病院で診断を受けて学校に復帰したいと思っていたけれど無理を言う訳にもいかない。


そこで、先に知香の通う青葉台小学校に連絡した。


まだ冬休み中なので学校には僅かしか先生が居ない。


『六年一組の白杉さんですね。担任の佐藤に連絡を取りましょうか?』


知香は佐藤先生に対して良く思っていなかった。


苛めに対しても喧嘩両成敗とか言って苛めっ子を野放しにしていた。


なのに長期欠席をした知之にはほとんどフォローが無かった。


母のそばで電話でのやり取りを聞いていた知香は


(山本先生に連絡取ってと言って)


と囁いた。


『保健の山本ですか?今日学校に居りますので少々お待ちいただけますか?』


山本香奈子先生は黒川とやり合って怪我をした時に『誰にも言えない事があったら相談に来ていいからね。』と言ってくれていた。


知香はその後すぐ相談をする事も無く不登校になってしまったので山本先生に申し訳ない気持ちもあった。


『お待たせいたしました、山本です。』


走ってきたのか、香奈子は息を切らしながら話した。


『お忙しいところ大変申し訳ございません、白杉と申します。』


『まあ、白杉君のおかあさん。』


『お世話になっております。実は知之の不登校の件なのですが、知之が是非山本先生とお話ししたいと申しまして。』


本来なら担任を差し置いて相談するのはいけないと思っていたが冬休み中であれば理由付けは出来る。


『出来ましたら知之と一緒にお伺いしたいと思うのですが…。』


『大丈夫ですよ。今日は薬の業者さんが来るだけですので。』


山本先生が快諾してくれたので受話器を置いた後急いで準備をする。


自宅から学校へは徒歩で10分程であったが、車で出掛けた。


一ヵ月半振りの学校。知香として初めて校門を潜った。


由美子が事務室で受付をすると、すぐに山本先生が来てくれた。


『わざわざすみません。』


香奈子は普通に挨拶したが、すぐに違和感を覚えた。


由美子の後ろには知之ではなく知之と同じ背格好の女児が立っていたからだ。


『え?』


香奈子は一瞬戸惑ったが、すぐに気付いた。


(そういうことね。)


以前知之が言いかけた言葉の答えがそこにあった。


その後、相談にも来ないまま不登校になってしまった事には失望したが、こうして今、担任の佐藤では無く自分を頼って来てくれた事が嬉しかった。


『白杉くん…じゃなくて白杉さんね。おかあさんもどうぞ。』


来客用のスリッパを履いた二人を香奈子は保健室に招いた。



『やっぱりそういう事だったのね。白杉さんが保健室に来てお話をした時にそうじゃないかと思っていたけれど。おかあさんにもちゃんとお話したのは偉いわ。』


『松嶋さんと志田さんのおかげです。』


香奈子はこの学校の赴任と入れ違いで転校していった志田雪菜の事は分からなかったが松嶋はずみには覚えがあった。


『先生、これから病院に行って診断を受けるのですが小学校も残り僅かですし、この子も学校には行きたいと言っています。どうでしょうか?』


『私も担任では無いので細かい事は良く分かりませんが白杉さんには友だちも殆ど居ないみたいですし今の状態でクラスに戻るのは難しいと思います。六年生の生徒たちには性同一性障害やLGBTについての授業も卒業までにしたいと考えてはいますが個人差もあるので理解出来るかという問題もあります。』


確かに理解者のいない状態でクラスに戻るのは危険だ。


『あくまで個人的な意見ですが私は学校の生徒、教職員、保護者全てが白杉さんの様な方、あるいは身体に障害がある生徒が共に平等に学び、生活出来る環境が望ましいと思っていますが正直現段階ではかなり高いハードルです。』


香奈子が続ける。


『でも、卒業まで僅かな期間ですがその間に白杉さんがクラスに戻る事がきっかけとなって欲しいと願っています。そのために暫くこの保健室に通ってみればどうですか?』


香奈子の独断の提案である。


『折を見て六年生にLGBTの授業をした上で、白杉さんがクラスに戻れる環境を作りたいと思いますが如何でしょうか?』


香奈子を担任の佐藤より信頼している知香は当然だが母・由美子もこの先生に任せておけば大丈夫と確信した。


『是非、お願い致します!』


これで晴れて新学期から知香は学校に復帰する事が決まった.



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