生徒会選挙②
選挙は告示の日の10月7日に立候補届け出を選挙管理委員会に提出して週末の11日、全校集会で立候補の合同演説会、翌週18日に投開票が行なわれる。
『まず自分の人となりを知ってもらうのと立候補した動機が必要よね。後、当選したら何をしたいかを明確に書けば良いでしょう。』
木田先生に選挙に立候補する事を報告して、届け出の時に提出する原稿に書く内容に付いて教えてくれた。
『白杉さんはみんなからも人気あるし学級委員も頑張っているから良いと思うけど、人から押し付けられたから立候補しましたなんて書いたらダメよ。あくまで自分から学校の為にとかみんなの為に頑張りますってアピールする事。』
学級委員も今回も成り行きでそうなった感は否めない。
しかし、出る以上は自分がちゃんとした動機を全校生徒に訴えなければ推薦してくれた生徒にも他の候補者にも失礼だと思う。
『分かりました。出るって決めたんですから頑張ります。』
『白杉さんなら大丈夫、頑張って。』
報告を終え、知香は職員室を出た。
いつもの様に保健室で浅井先生とお話をして時間を潰し、萌絵の部活が終わるのを待っていると萌絵と奈々が下りてきた。
『……選挙ってまた忙しそうな事するの……?』
萌絵は自分との時間を奪われるのが嫌だった。
『書記なんて会長とかより忙しく無いから心配する事無いわよ。アンタは独占欲強すぎ!』
萌絵は奈々に窘められた。
同じ部活になり二人はだいぶ普通に会話出来る仲になっている。
『高野さんって奈々のクラスだよね。普段どんな感じ?』
一年生でいきなり副会長に立候補した高野紀子の人となりを奈々に聞いてみる。
『人当たりとかまぁ良いんだけど、なんとなくいけ好かない感じなんだよね。』
(やっぱりクラスでもそんな感じなんだ。)
『チカは書記候補だからダブらないけど副会長は紀子に入れないよ。入れるんなら誰だっけ、二年の……?』
『樋田さん、凄く良い人だよ。』
クラスメイトの奈々でもあまり良い印象では無い紀子の事が気になる知香だった。
告示の日がやって来た。
放課後となり、知香は選挙管理委員会に立候補の届け出を提出しに行く。
『確認しました。』
管理委員が提出書類の確認を終えて、正式に生徒会書記の立候補者となる。
これから毎朝校門近くで全校生徒に挨拶をしたり昼の校内放送で話をしたり少し億劫な感じもする。
[生徒会公認]の知香たち以外からも何人か立候補する生徒が居る様で、書記は他に二人の候補が出ている。
会長候補は児玉の他に一人、分裂選挙となった副会長候補もひな子と紀子の他に一人候補者が居た。
管理委員会からは真っ白なタスキが配られた。
これに自分で〇〇候補の〇〇と書いて朝の挨拶や演説を行なう。
休み時間もアピールをする為にこのタスキを掛けて校内を歩く事になる。
『うへ〜、恥ずかしいな。』
『大丈夫だよ、私たちも一緒に居るから。』
普段ならともかく余計目立ちそうだ。
翌朝からは麗の迎えは雪菜たちにお願いして朝一番に直接登校する事になった。
朝の挨拶にはのぞみやありさ、そしてなんと高木も協力してくれている。
『おはよう。高木くん、朝から悪いね。』
『別に良いよ、俺も推薦人だしな。』
立候補の届け出に必要な推薦人二人は高木とありさだった。
他の候補者と横並びで登校する生徒に挨拶をする。
ビラ撒きは禁止されていて、ここでは挨拶だけで顔を知って貰うくらいだ。
『白杉さんおはよう、頑張ってね。』
声を掛けたのは二年の加藤恵美で松田弘樹と仲良く手を繋いで登校している。
『ありがとうございます。』
車イスな麗を押した雪菜たちが登校して来た。
『麗さん、おはようございます。』
『おはようございます、知香さん。ワタクシは知香さんのお迎えが無いのでしばらく寂しいですわ。』
『ごめんなさい、来週までの辛抱です。』
周りの候補者は一年生だけで無く二、三年生とも親しくしている知香を見て危機感を持っていた。
選挙期間中、お昼休みは校内放送で候補者が毎日一人づつゲストとして招かれる。
告示の翌日から会長、副会長、書記候補の順番で知香は書記候補として最初となる翌週水曜日の16日に出る事になっている。
初日の今日は、会長候補の児玉がゲストだ。
『ご機嫌如何ですか?[ランチタイムウェイブ]です。お昼休みのひと時、素敵な音楽とトークでお寛ぎ下さい。今週、来週と生徒会選挙の為私山田千夏がお送り致します。』
校内放送はいつも当番で日替わりパーソナリティーがⅯCをしているが質問が偏らない様に三年生の放送委員長が毎日インタビューをするそうだ。
『児玉さんは今の執行部ではありませんが何故会長に立候補されたんですか?』
『学級委員として執行部のお手伝いをさせて貰って、今の執行部の良い所を引き継ぎたいと思ったんです。』
最初は執行部のひな子を差し置いて会長候補になるとか少し野心家なのかと思ったりしたが意外に保守的な感じである。
もしかしたら児玉は最初からひな子が会長には立候補しないのが分かっていたのかもしれない。
三日目には副会長候補としてひな子が出演した。
『何故会長には立候補しなかったんですか?』
『正直言って私は先頭に立つタイプではありません。児玉くんが会長に立候補すると聞いて、同じ様に今の矢沢委員長の後を協力し合って引き継いでいければと思いました。』
(樋田さんらしいな。)
あくまでひな子は一歩下がった位置で生徒会運営に携わりたいというスタンスである。
会長候補の児玉の事は今一つ分からないけれどひな子とは一緒に仕事をしたいと思った知香だった。




