体育祭①
体育祭の当日になった。
小学校の運動会みたいに家族親戚総出で応援とまではいかないけれど結構人出は多い様だ。
クラス毎に違う色のはちまきで分けられ、知香や三年の麗たちA組は緑、美久や萌絵たちのB組は赤、奈々やはずみの居るC組は青となっている。
『知香さ〜ん。』
『あ、おはようございます。』
小田がカメラを肩に担いで現れた。
『頑張ってね、しっかり撮るから。』
『期待されても困るんですが。』
小田は結果より良い場面を撮りたいと思っている。
『知香さんだけはちまき長くない?』
『あ、これ応援団だからです。後で男子の詰め襟着て応援しなきゃいけないんです。』
『という事は貴重な映像が撮れそうね、楽しみにしているよ。』
小田はそう言ってその場を離れた。
今更男子の詰め襟を着たいとは思わないけれど一度くらいは良いかもしれない。
開会式となり、校長先生の挨拶の後来賓のPTA会長の挨拶に移る。
『今井PTA会長、お願いします。』
(あれ?麗さんのおとうさんが会長だったんだ。)
入学式でも挨拶をしている筈だがその時は麗の事は[そういう生徒が居る]くらいにしか思っていなかったので気が付かなかった。
同じA組で並んでいる三年生からひそひそ話が聞こえて来た。
どうせ良くない噂話なんだろう。
ちなみに麗は役員のテントの下に居るのでそれも良く思われていないのだろう。
(列に並べば邪魔にするくせに。)
そうは思っても今日はチームメイトである。
そういう雑音はシャットアウトしたい。
生徒代表の宣誓が終わり、最初は一年生の出番だ。
『ともち、行こう!』
雪菜との二人三脚が待っている。
知香と雪菜は6番目で、小山という男子と佐野明日香から引き継いで瀬川と高木の男子ペアに受け渡す。
最初は良いスタートだったが、小山・佐野ペアのリズムが合わず、やきもきしているうちに3位に落ちた。
『ごめん、お願い!』
『大丈夫、任せて!』
明日香から声のバトンを受け取った知香と雪菜は落ち着いてスタートした。
『追い付くよ!』
『焦らなくて大丈夫!』
声を掛け合いながらリズム良く進み、先頭に立って男子ペアの前に来た。
『瀬川くん、高木くん!』
『良くやった!後は任せろ!』
なんとか責任を果たした。
『やったね。』
『さすがやる時はやる子だ。』
お互いを褒め称えた。
その後、3チームは抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げ、1位はC組でA組は2位だった。
『惜しい〜、残念!』
悔しがっている知香たちの前に高木が合流して来た。
『二人は良く頑張ってくれた。ありがとう。』
知香と雪菜は目を合わせて歓喜した。
『ねぇ、聞いた?高木がありがとうだって!』
『高木くんたちも良かったよ!』
それまで学級委員の不仲でまとまりが無かった一年A組が俄然湧き上がった。
『よし、これから優勝に向かって行くぞ!』
『おおーっ!!』
勝ったC組より大きな声で喜んだ。
その後、個人種目とニ、三年の団体種目が行なわれ、次は1500メートル走だ。
C組には陸上部のはずみが居る。
『なんではずみんが居るの?』
『私、部で長距離やってるからね。でもウチのクラスも他の子はみんなうんちだよ。』
とするとB組も同じレベルか?
号砲が鳴って一斉にスタートをするがわあっという間にはずみが他のランナーを突き放した。
知香は12人中後ろから3番目だ。
(焦らない、焦らない。)
小田さんがカメラを構えているのが分かる。
後ろの二人はだいぶ離しているのでこれ以上順位が下がる事は無さそうだ。
そのうち、前を走っている集団のペースが落ちてきた。
(はずみが速すぎてペースを乱したかな?)
最初からマイペースで走っていた知香は中間の集団に飲み込まれて残り2周まできた。
すると、後ろからはずみが勢いよく集団を捉えている。
(げ、周回遅れ?)
はずみはあっという間に集団を追い抜いて行く。
(なんて速さだ。……え?)
はずみは人差し指で付いて来いと知香に指示を出している。
(そんな、後2周もあるのに……。)
知香は歯を食い縛ってはずみに付いて走り、集団を抜け出した。
はずみがゴールをしても後一周残っていて、それがキツい。
最後はコーナーで一人に交わされたがなんと3位でゴールした。
ゴールして、膝ま付いてゼイゼイ言っている知香だったが大きな声援が心地良かった。
『チカ、やるじゃん。』
『……はずみんが…引っ張って…くれたからだよ……。』
息を切らしながらはずみに感謝した知香だったが、それを聞いていたC組の選手からはずみは後で責められたらしい。
『なかなか頑張るじゃねぇか。白杉、見直したぞ。』
『私だって学級委員だもん。』
同じ学級委員として高木に負けてられない。
午前中最後の種目はダンスだ。
昼食を挟んで午後は応援合戦だ。




