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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学一年生編
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田舎の夏休み①

再び二台の車は高速道路を走り、長野の一つ先のインターチェンジで下りた後少し山を登って俊之の民宿に到着した。


『山だねぇ〜。』


『空気が美味しい。』


山と言ってもまだ麓なのだが、関東平野に住む雪菜たちにとってはこの場所がとても新鮮に思える。


『俺んちはあそこだよ。』


女装した一郎がはずみたちに指を指して教える。


俊之の民宿とは対照的な比較的新しい普通の住宅である。


『はずみんはそっちに泊まれば?』


知香は他の人に聞こえない様に冷やかす。


『ば、バカ言わないでよ!』


普段そう言う態度を全く見せないはずみが照れているのでからかうのは楽しい。


『みんな、よく来たね。こちらへどうぞ。』


祖母の佐知子が出迎え、一行は玄関を上がる。


到着を待ちかねていたリカルドが車イスに近付いてきた。


『ウララサン、コンニチワ。ワタシ、ウララサンオセワシマス。』


と、徐ろに麗を抱きかかえた。


『きゃ!』


麗は思わず声を上げた。


『リッキー、乱暴にしないでよ。』


『ダイジョウブデ〜ス。』


顔が近付いて麗の顔が赤くなった。


構わずリカルドは居間に用意された長い座布団に麗を降ろす。


座イスも肘掛けも麗が楽な姿勢を取れる様に配慮されている。


普段寝る時以外はほとんど車イスに座って生活している麗は喜んだ。


『和室は落ち着きますわね。』


暮らしている豪邸とは比較にならない古い家屋なので知香は心配したが問題は無い様だ。


『お庭広〜い。』


いずみが縁側に出て外を見渡した。


『今日はそこでバーベキューだ。花火もたくさん買ってあるからな。』


一番はしゃいでいるのはいずみじゃ無く祖父の俊之かもしれない。


『それにしてもともちゃんは随分友だちが居るのね。』


去年までの様子とは全く違う知香を見ながら佐知子が話し掛ける。


『いずみも友だちいっぱい居るよ!チカねぇとどっちがいっぱい友だち居るか競争してるんだ。』


『いずみちゃん、友だち何人出来たかな?』


知香たちが中学に入学した時の約束だ。


『えーとね、双葉とはるちゃんにとナツ、それからしぃな、ふーこ……』


『5人かぁ、まだまだだね。』


『後、チカねぇに雪菜ちゃん、はずみんねぇ、萌絵ちゃん……』


『こら、お姉ちゃんの友だちは反則だぞ!』


『良いんだもん、お姉ちゃんの友だちはいずみの友だちだもん!』


二人のやり取りを聞いている佐知子は微笑ましく思う。


『いずみちゃんの勝ちね。』


一本取られた知香だった。


一郎が着替えてみんなの前に戻って来た。


Tシャツに短パンという身軽な格好である。


『えー、ずっと女の子じゃないの?』


優里花がツッコむ。


『やだよ、それにこれからバーベキューの準備手伝うのに汚す訳にいかないだろ?』


『でもホント、チカが男の子だった頃にそっくりだよね。』


[知之]の頃を知っているのぞみが言う。


『男の子でも結構可愛い顔してるよね。』


そう言ったのはありさだった。


ありさの他は優里花と学年が上の麗、知香になる前は一緒に登校する事が無かったいずみは[知之]だった頃を知らない。


動き安くなった一郎はリカルドや上西さんと共に鉄板やテーブルを運んだり薪を割ったり忙しく動いた。


『やっぱり男の子だねぇ。チカじゃ無理でしょ?』


いずみがからかうがその通りだ。


隣は目がハートになっているはずみが居る。


『……はずみん、ちょっと。』


はっとするはずみに知香が耳打ちをする。


『みんなにバレちゃうよ。普通にしなきゃ。』


はずみがうわの空という事は通常あり得ない。


『ともちゃん、悪いけどみんなにお茶持ってって。』


奥から佐知子の声が聞こえた。


『はずみん、チャンスだよ。行こう!』


知香ははずみを連れてお勝手に行き、麦茶が入ったウォータージャグとコップを貰った。


『お疲れさまです、冷たい飲み物どうぞ!』


はずみは麦茶を入れたコップを一郎に渡す。


『あ、ありがと。』


麦茶を貰った一郎も渡したはずみも照れている。


『いい感じじゃない?』


雪菜が知香に囁いた。


『キョウハアツイデスネ〜。』


(リカルドも気付いた……かな?)


良い雰囲気である。



『とも、買い物に行くから付き合ってくれ。』


俊之が知香に二、三人一緒に来て欲しいと言った。


麗の話相手をする雪菜、のぞみ姉妹、一郎のそばに居させたいはずみを残し、萌絵、ありさ、優里花と一緒に車に乗り込んだ。


『牧場で良い肉仕入れたからな。』


俊之は知り合いの経営している牧場に行き、肉やソーセージ、牛乳等を貰って手分けして運ぶ。


『たくさんあるね。みんな食べ切れるのかな?』


男性より女の子の方が圧倒的に多い。


『今夜無理に食べなくても良いし、リカルドが一人でかなり食べるからな。』


それから農家で野菜を貰って帰ってきた。


『麗さん、お散歩しませんか?』


『この辺坂道ばかりなのに大変ではございません?』


『慣れているから大丈夫ですよ。』


そんなに大丈夫では無いが居残り組多少退屈している様だから少し外に出た方が良い。


『いずみちゃんも行く?』


『うん、チカねぇ疲れたら私車イス押すよ。』


(体力が無いのがバレてるみたい……。)


『頼もしいですわ。』


リカルドが玄関まで麗を抱っこして車イスに乗せ、田舎道をお喋りしながら歩いて行く。


『はずみさんと一郎さんが熱いので見ていられませんわ。』


ちょっと留守にしている間にだいぶ進展しているみたいだ。


というよりそんな簡単にバレる程なのか?


『良い所ですわね。』


麗が辺りを見渡す。


『何も無いですよ。』


『そんな事はございませんわ。みなさん良い人ですし、心が洗われますわ。』


まだ麗の心の闇は深く閉ざされたままなのだ。


知香は麗を連れて来て良かったと思った。

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