夏の計画
七月になり、期末テストが終わればいよいよ夏休みだ。
体育の授業も水泳が始まり、再び知香は見学である。
『水着はいちおう買ったけど着れないから仕方ないよ。』
知香はありさたちに弁明するけれどもともと運動が得意では無く殆ど泳げないので良い口実なのである。
でも雪菜は知香が金づちなのを知っているので後ろでニヤニヤしている。
『あ~あ、ともちのスク水姿、見たかったのになぁ。』
『なにスケベおやじモード入っているのよ!』
『スク水じゃなくて可愛い水着買えばいいじゃん。目立つところだけ隠せるヤツとかあるよ。』
雪菜の冷やかしに文句を言っていたらのぞみが提案した。
『でも、市営のプールだって無理だし、海も遠いよ。』
『うーん、いずみも夏休みチカと遊びたいって言ってたしダメかなぁ?』
小6だった去年も水泳の授業はずっと休んでいたからのぞみも知香が泳げないとは知らない様だ。
出来ればそのままバレない様にしたい。
『海も良いけど私毎年長野のおとうさんの実家に行ってるから、みんなで行かない?』
おじいちゃんからも是非連れて来いと言われているので誘ってみた。
『長野かぁ~、山だよね。』
実家はたしかに市街地から離れた山の方である。
『でも景色も良いし、良い所だよ。お祭りもやるし。民宿やってたから部屋もいっぱいあるし。いずみちゃんも一緒にどうかな?』
中学生になってからいずみに会う機会も少なくなり、特に知香が麗の迎えに行くようになってからは全く会えなくなった。
『海よりも安全だろうからいずみが一緒でも大丈夫かもね。』
のぞみも長野行きに合意した。
これで知香の水着披露と金づちがバレるのは回避出来そうだ。
後は誰と一緒に行くかである。
『私は無理かなぁ。』
美久が残念がった。
進学塾の夏ゼミがあるらしい。
奈々もじっくり服を作りたいので遠慮すると言ってきた。
麗も誘いたいけれど実家は古い造りでバリアフリーにはなっていない。
『お誘い下さって光栄ですわ。知香さんのご実家は無理かもしれませんが、別のお宿に泊まるのでしたら良くってよ。』
近くのリゾートホテルならバリアフリーになっているだろうし冬のスキーシーズンでは無いのでまだ空いているかもしれないという事だった。
やっぱりお金持ちである。
知香の実家に泊まるのは雪菜、のぞみ、ありさ、萌絵、優里花、はずみとのぞみの妹のいずみとなった。
早速おじいちゃんに電話をすると、人数も多く今から新幹線の予約は無理だろうから迎えに行くと言ってくれた。
麗はいつものリフト付きの車に運転手の上西さんと家政婦の中野さんが同乗するがそれでもあと三人は乗れるので雪菜と萌絵に乗ってもらい、知香と他のメンバーはおじいちゃんの車に乗れば大丈夫だろう。
当然、萌絵が怒っている。
『ごめんね、先輩とお話出来るのきな子と萌絵しかいないから……。』
『あと一人乗れるんだから知香も麗さんの車に乗れば良いでしょ。』
普段無口なくせにこう言う時だけ饒舌になるから困ったもんだ。
『今回はいずみちゃんもいるし。』
『じゃあいずみちゃんも一緒に麗さんの車に乗せたら?』
本当に萌絵は我が儘である。
ただ、それも知香以外の人間には心を許せない反動なのかもしれない。
『私は良いからさ、のぞみんには私から言っておくよ。』
知香と長い付き合いの雪菜はこういう時心強い。
本来姉妹が別々の車に乗るとか親が聞いたら許してくれないだろうここは雪菜に任せておくことにした。
『いずみはチカに預けるよ。チカねぇチカねぇっていつも言っているから。』
のぞみも了承してくれた。
(麗先輩に萌絵にいずみちゃんか、なんか大変そう。)
違った意味でめんどくさい三人である。
共通しているのは三人とも知香の事を慕っているので車の中で争奪戦が起こりそうな予感がする。
言い出しっぺながら少し後悔した。
期末テストが終わり、採点された結果が返ってきた。
知香の成績は特段に良いとは言えないけれど学級委員としては及第点といったところである。
ちなみに得意科目は国語で、数学はどちらかと言えば不得手だがそれでも平均ははるかに上回っている。
その他も納得出来るくらいの点数で学級委員としての面目は果たせている様だ。
『ともちは非の打ち所が無いよね。』
ありさは言うが、体育や音楽、美術の様な分野は苦手なのである。
写真撮影も芸術的要素があるので部長の村山や副部長の和田から結構ダメ出しをされている。
ただ、先日の松田と恵美をモデルにした撮影はみんなの協力も得て撮った数もめちゃくちゃ多かったのでかなり高い評価を貰った。
(もう少し美的センスを磨かなきゃな。)
それが今の知香には一番の目標である。
夏休みはもうすぐだ。




