女性ディレクター②
帰ってから母・由美子にディレクターとの会話を話した。
『ずいぶん大変な事になったわね。』
『元はと言えばおかあさんが酔って変な事言ったのが原因なんだからね。』
テレビのインタビューで母が暴走しなければここまで騒がれる事も無かったと思う。
『ホントごめんね!それ、パソコンで見られるの?』
まだ動画が削除されていなければ見られるはずだが既に削除されていた。
『あら、残念ね。』
由美子はあまり反省していない様だ。
翌日の朝、一緒に登校した友だちに前日の出来事は言ってない。
小田が学校との交渉次第、呼び出しがある筈なのでそれまでは知香と萌絵だけの秘密である。
小田が学校にファーストコンタクトを取り、知香にその事が伝わったのは給食の時間だった。
放課後、知香は応接室に呼び出された。
応接室には校長の沢田、学年主任の黒木、担任の木田と小田ディレクターが待っていた。
『失礼します。』
知香が挨拶をすると沢田校長が小田を紹介した。
『白杉さん、この方は映像制作会社トゥルースジャパンの小田さんという方です。』
『はじめまして、小田です。』
昨日会った事は先生たちには内緒なので初めて会ったかの様に挨拶し、名刺を渡した。
『は、はじめまして。』
知香が挨拶を返すと、小田はウィンクをした。
『小田さんは先日の白杉さんが出たテレビを見て、白杉さんのドキュメンタリーの番組を作りたいと言ってきました。』
『それってマスコミとは違うんですか?』
校長の説明に、如何にも知らない振りをして聞いてみる。
『週刊誌とか同じテレビでもワイドショーみたいなのと違って公共性が高い番組だから白杉さんの為にもなると思うんだよ。』
『公共性?』
『これからも白杉さんの様な方が増えてくると思うんだがまだLGBTの事をよく知らない人が多いので白杉さんを通して知ってもらう、道徳的な作品になるそうだ。』
『で、なんで私の為なんですか?』
『もし他の取材依頼が来ても我々学校としても断る理由が一つ増える。別の会社がずっと取材をしているものを横取りするのはルール違反だからね。』
その辺りはよく理解出来ないが、小田さんは校長たちを上手く丸め込んだのだろう。
『白杉さん、私は視聴者より白杉さんの為にこの作品を作りたいと思っています。是非協力して貰えませんか?』
前の日既に知香は了承しているのではっきり言ってこれは茶番である。
『ただ、最終的に決めるのは白杉さん自身だ。よく考えて答えなさい。』
知香は暫く考える振りをする。
『分かりました、でも親がなんて言うか……。』
由美子にも昨日言ってあるので大丈夫だがわざと校長たちに言ってみせた。
『白杉さんが言い難かったら私から言いましょうか?』
担任の木田先生が空気を読まない発言をした。
先生が先に由美子に言ったら既に知っているとか言われかねない。
『私がちゃんと言います。こういう事は全て私自身の口で言うと決めたんです。』
今までもこうして言ってきたと言わんばかりに知香が鼻息を荒くする。
『では、私が白杉さんのおうちに一緒に行きましょう。』
小田がフォローしてくれた。
『ただ、撮影中に他のメディアで取り上げられたりするとこの企画自体がボツになる可能性もありますのでその辺り、宜しくお願い致します。』
小田は更に先生たちに釘を刺した。
『簡単にこれからの流れを説明します。最初にこの作品に出演して戴ける方の選定をします。個人情報にも係わるので、本人、生徒さんたちは未成年なので親御さんからも承諾書を戴いた人は出てもらいますが、承諾を戴けない方はモザイクで対応します。』
(結構めんどくさいんだ。)
『撮影は来月くらいから4ヶ月程度掛けて行なう予定です。その後編集したり会社や放送するテレビ局で調整して早ければ半年くらいで放送出来ると思います。』
『時間掛かるんですね。』
木田先生が言ってくれたが、知香も同じ様に思っていた。
『なるべく真実を時間を掛けて掘り下げるのです。ドキュメンタリーを短い時間で撮るとどうしても伝えたい事が伝わらなかったり辻褄が合わなくなったりしますから。』
小田の言葉に先生たちも納得していた。
『伺いますが、近いうちに何か行事とかありますか?』
『来月11日に富岡製糸場に校外学習に行きますが。』
小田の問いに黒木が答えた。
『そこから始めさせて貰って宜しいでしょうか?時間があまり無いので白杉さん、作品に出て欲しいお友だちのリストアップをお願い出来ませんか?もちろん、その中で出られない人は外しますが。』
『分かりました。』
小田は知香の母・由美子に会って話をする為知香の帰宅に付き合った。




