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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学一年生編
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女性ディレクター①

一時限目のホームルームでは先生から渡された資料を元に学級委員の知香たちが校外学習の概要を伝え、班毎に課題を考えると言うものだった。


『校外学習は6月11日火曜日、行き先は富岡製糸場です。』


明治の近代化遺産である群馬県の富岡製糸場までは知香たちの学校からバスで一時間も走れば到着する。


知香は雪菜たちいつものメンバー4人と中村清乃という子を入れた5人で班を構成した。


清乃は少し背が高く、おとなしい感じの子だ。


他のグループからあぶれてしまったらしいので声を掛けた。


『宜しくね。』


『……はい……。』


背格好は違うけれど萌絵を見ている様だ。


まさか、二人っきりになると萌絵みたいに過激になるとは思わないけれど。


『小さい時、群馬のおじいちゃんに連れていってくれたよ。』


知香は班のみんなに話す。


まだ富岡製糸場が世界遺産に登録される前に祖父が電車に乗せて連れていって貰った記憶が残っていた。


ただ、幼少でその価値が分からなかったばかりか、祖父は鉄道の方が夢中だった気がする。


『私、[あゝ野麦峠]の本読んだ事があるよ。』


清乃がぼそりと言った。


あゝ野麦峠は当時、製糸工場で働いた女工たちを描いた悲しい物語で映画にもなった。


実際は富岡製糸場は官営でここで働いていた女工は良家の子女で待遇は良かったらしいが、同時代の実話が元になっているのでよく混同される。


『そんな難しいの読んでいるんだ?じゃあ、その本を題材に研究してみようか?』


知香の提案にみんな賛成した。


テーマを絞るにはちょっと難しく、他の班は似たりよったりになりそうだから清乃が参加してくれるのは有り難い。


(私も読んでみようかな?)


読書が趣味では無いのでこういう作品は読んだ事が無かった知香だが、少し興味が出て来た。


『今度あらすじ書いてみんなに渡すよ。』


清乃が言ったが、先にネタバレされる前に読まなければならない。


『のぞみん、図書室にその本あるかなぁ?』


図書委員ののぞみに聞いてみた。


『分かんない。たまにはチカも図書室に来れば?』


(そう言えば図書室はほとんど行ってないな。今日の放課後は萌絵を待っている間図書室に行ってみようか。)


放課後、図書室に行って本を見つけ、閲覧室で読んでみる。


(難しいな……)


国語はまぁまぁ得意科目ではあるけれど普段本を読まないので活字を追うのは疲れる。


そろそろ萌絵の部活が終わる時間なので本を借りる事にした。


『チカも文学に目覚めたかな?』


カウンターののぞみに冷やかされる。


『無理だと思う……。』


文学少女デビューとはいかなかった。


下校の時は時間もバラバラなので麗には従来通り迎えの車が来る。


その為知香と萌絵の貴重な会話タイムは残されている。


『萌絵のところはどう?』


萌絵たちの班の校外学習のテーマを聞いてみた。


『うーん、その頃の建築物についてだって。』


そう言えば知香たちの住むところはもともとレンガの街として知られている。


なんでも日本で初めて機械式のレンガ工場が作られたとかで東京駅のレンガもここで作られた。


萌絵は美久たちと同じ班らしいけれどいつもと同じく前には出ず指示された事を黙ってこなす様だ。


『中村さんてね、萌絵みたいにおとなしいけど本が好きみたいで彼女の読んだ本をテーマにするんだ。』


萌絵に清乃の話をするが、他人の事にはあまり興味が無い。


『知香はそうやっていつも他の人と仲良くなるんだから。』


また萌絵が嫉妬した。


とにかく彼女は知香を独占したいのだ。


『ちょっとお尋ねしますが……』


突然後ろから声を掛けられて二人は振り向いた。


『白杉知香さんですよね?』


『はい。』


(しまった!記者かもしれない。)


見ると30歳くらいの女性で、全身黒のゆったりした服を着ていてどう見てもマスコミ関係者には見えなかったのでつい返事をしてしまった。


『急に声を掛けてごめんね。私、小田かすみと申します。』


二人は貰った名刺を見ると映画監督、テレビディレクターと書いてある。


(やっぱりマスコミだ。)


萌絵も居るしこの状態で逃げ出す事は出来ない。


『ホントは映画監督だけやりたいけれどそれだけじゃ食べていけないしね。』


小田という女性はそう言って笑う。


『前にも女装の人のドキュメンタリー作品を作っていてね、知香さんの事興味あるんだ。』


初対面の割にちょっと馴れ馴れしい気もするけど人の心の中にすんなり入って来る感じである。


『ユードーガで知香さんの事見てね、可愛いしあなたを題材にして作品を作りたいと思ったの。』


(ドキュメンタリー作品?どんな感じなんだろう。)


いたずらに面白可笑しくメディアに取り上げられるのでなければ良いかもしれない。


『私は構いませんが先生からマスコミの人から声を掛けられても答えない様に言われて居ますから。』


この人なら信頼出来ると思ったが勝手に話を進める事は出来ない。


『ちゃんと学校を通すし、おとうさん、おかあさんにも許可を貰うから心配しないで。』


しっかり筋を通していれば他のマスコミ対策にも有効だと言う。


『明日にでも学校にお話するから宜しくね。』


そう言って小田は二人と別れ、知香は小田を信じて手を振って見送った。

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