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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学一年生編
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お嬢さまと私③

服飾部が終わる時間を見計らって、知香は玄関で萌絵を待っていると奈々と二人一緒に萌絵が出て来た。


『チカ、なんとかしてよこの子。やぎっちったら知香〜知香〜ってうるさいんだから!』


奈々に暴露された萌絵は照れて奈々の影に隠れる。


『私、別の道から帰るからあんたたちだけで帰りなさい。』


奈々は以前知香を好きでは無いかと噂があったが、好きだったのは知香では無く[知之]だったのかもしれない。


知香は親友のまま変わらず気を遣ってくれている奈々に感謝した。


『ありがと、萌絵ちゃん行こ!』


知香は知らずのうちに奈々の心を傷付けていたのかもしれない。


『さっき、保健室に行って萌絵の投書見せて貰ったよ。』


『……そういうのって個人情報じゃ…』


『良いじゃん、一応、私もアドバイザーだし。先生に付き合ってますって言っちゃった!』


『え?秘密にしてよ。』


萌絵が困っている。


『私たちみたいなパターンは珍しいかもしれないけど、中学生だっていろんな悩みがあってそれを打ち明けられない人が居ると思う。私たちがお話をする事でみんな悩みも相談し安くなるかもしれないの。』


萌絵は黙って頷いた。



幾日か過ぎた。


今日は美久と二人で麗の当番をする日である。


さすがに一人では負担が大きいので雪菜か美久のどちらかと組む形になる。


麗も他の人の時とは違い知香が居るとご機嫌な様だ。


『知香さん……、もちろん美久さんや雪菜さんもご一緒して欲しいのですが、今度ワタクシの家に来て戴けないかしら?』


お嬢様からの招待である。


『良いんでしょうか?』


『もちろん良くってよ。とても珍しいお菓子がありますの。』


お菓子より麗が招く理由が気になる。やはり二・三年生にはこうして招ける人が居ないのだろうか?


『あの、出来たらもう一人一緒に伺っても良いでしょうか?』


萌絵も誘ってあげたい。


『あら、その方は知香さんにとっては大事なのかしら?』


図星をつかれた!


『……はい、おとなしいのでたぶん殆ど喋らないと思いますが是非先輩に紹介したくて。』


隣で聞いている美久は知香が萌絵の事を他の友人とは違う扱いをしているというのは分かってはいる。


しかし恋仲とまでは思っていないはずだが、美久の少し不審そうな視線が知香は気になった。


『知香さんの大事なお方なら是非ご一緒に来て下さいな。』


麗が快諾してくれた。



日曜日、4人は駅前のロータリーに集合した。


知香はお気に入りの紺のワンピース、雪菜は薄茶色のベストにネクタイとプリーツスカート、美久は黒いワンピース、萌絵はクリーム基調のクラシカルロリータ服から装飾を省いたものだった。


待ち合わせの時間ピッタリに、迎えの車が知香たちの前に停車する。


『白杉さん、原田さん、志田さんとお友だちのお方でございますね。どうぞこちらへ。』


車を降り声を掛けた運転手は先日学校で見た人と一緒だったが、車は高級なセダンであった。


車は5分もしないうちに麗の自宅に到着した。


やはり敷地が広い。


葉が揃えられた植木がたくさん植えてある玄関の奥には一面芝生が広がっていてそこには今では使われていないと思われるバスケットボールのゴールが置いてあった。


(ずっとあの場所で練習していたんだな。)


知香は元気な麗がジャンプしてボールをシュートする姿を想像した。


(未練が無い訳、無いよね。)


玄関から車イスに乗った麗が出迎えた。


『皆さま、ようこそ。』


『こんにちは。』


知香、雪菜、美久が挨拶する。


『は、はじめまして……八木萌絵と申します。』


『あら、あなたが知香さんの大事なお友だちね。ずいぶん可愛らしい事。』


萌絵の背は奈々よりは高いが知香より低く、まだ幼い感じが抜けていない。


家の中はバリアフリーの工事がなされている。


中年の女性が麗の車イスを押して、知香たちは後を付いていった。


廊下を進んで入った広い居間にはピアノが置かれている。


中年の女性は家政婦さんなのだろう。


メイドさんが居るのかと想像したが、普通の服にエプロン姿である。


『こちらはいつもワタクシの世話をしてくれる中野さん。』


さすがに呼び捨てはしていない。


『本当はメイド服を着てくれと言って居るのですが、嫌がるんですの。』


『この歳でメイド服はさすがに恥ずかしいです。』


知香は落ち着いたクラシカルなロングメイド服なら似合うと想像する。


5人はテーブルを囲んだ。


ウィーン土産というザッハトルテと小さなチョコ菓子がテーブルの上に用意されている。


『こちらはシュヴェーデン・ボムというお菓子よ。スウェーデンの爆弾という意味なの。』


なるほど、小さな爆弾という形だ。


『知香さん、女の子になるのにこれからどの様になさるのかしら?』


『はい、今も治療はしていますが高一位から本格的になるそうです。高三位に手術をして戸籍も変更出来ると言われてます。』


『そうなの、結構お金掛かりそうね。』


実際、手術するにはかなりの金額が掛かる。


性適合手術自体は保険が適用されると法改正が行われたが、学会が推奨するホルモン治療をしていると自由診療と見なされ保険適用外という矛盾した現行制度なのだ。


『知香さんが宜しければワタクシの家でメイドさんをやって下さらないかしら?』


メイド服を着てここで働いて手術代を稼げという事だ。


『すみません、ありがたいんですけどまだ中学生だから今は勉強とかをしっかりしなさいって母に言われてますから。』


メイド服を着て働くという魅力に気持ちが傾きかけたが、由美子には実際その様に言われている。


『それは残念ね。良いお話相手になると思いましたのに。』


残念がる麗と、萌絵が頬を膨らませているのが知香には見えた。







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