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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
小学六年生編
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複雑なお正月

三人が出掛けた後、由美子は一息着いた。


心当たりがあったとはいえ、まさかうちの息子がという思いであった。


これから大変ではあるが、知之が女の子だったら良かったと思った事は何度もあったし、一緒に買い物やお料理を楽しめたらと考えたら不安も吹っ飛んでしまう気がする。


とにかく、前向きに行かなきゃと思う母・由美子であった。


三人は自宅近くの神社に向かった。


『クラスの男子とかも来るかもしれないよ。大丈夫?』


はずみが知之に聞いてみた。


『平気だと思う。』


女の子の格好をした知之は何故か堂々としている。


『いつも外に出ているの?』


『初めてだよ。ちょっと寒いけどなんか気持ち良いね。』


それまでは親にも黙っていたので外出する事は無かった。


それなのに普段より自信満々な知之にはずみだけで無く女の子姿を見慣れている雪菜も驚いていた。


向かった神社はさほど大きくは無いけれど屋台も出ていて賑やかだった。


『おみくじ引こ!』


参拝を終え、知之が引いたおみくじは末吉だった。


『末吉かぁ〜。』


『これからどんどん良くなるって事だよ。』


雪菜はいつも前向きである。


『私は中吉。はずみんは?』


『……私、大吉……』


はずみは控え目に答えた。


『えー?良いなぁ。』


『たまたまだよ。去年は凶だったし。』


『今年は中学生になるんだし、きっと良い事あるよ。』


はずみはクラスの誰も知らない知之の秘密を共有出来てこうして一緒に歩けるという事が幸運だと思った。


帰りにりんご飴の屋台を見つけ、三人は立ち止まった。


『買おっか。』


雪菜が指を挿して誘った。


『ちょっと待って!大森さんじゃない?』


クラスの大森のぞみがりんご飴の屋台で妹らしき子に飴を買い与えていた所だった。


二人とも眼鏡を掛けていて、顔がそっくりだ。


『あ!はずみん、あけおめ〜!』


『おめでとう……』


『はずみんの友だち?』


雪菜と大森のぞみは同じクラスになった事が無かったので知らない仲であった。


『前に青小に居た志田雪菜さん、それと…』


はずみは知之をどう紹介するか躊躇った。


『大森さん、おめでとう。白杉です。』


戸惑うはずみの前であまりにも堂々と挨拶をする知之に三人は目を丸くして驚いた。


『白杉くん?』


いずみは掛けている眼鏡を上下させてじっくり知之の顔を見た。


『えーっ?!白杉くん、学校休んでいたけどホントに女の子になっちゃったの?!』


はずみは黙っていたが、知之が休んでいる間にクラスの男子の間では性転換手術をしているという変な噂で持ち切りだった。


男子の噂話に女子はみんな『バカじゃない?』と相手にはしていなかったがこうして目の前に女装した知之を見てのぞみは噂は本当だったと信じてしまった。


『そんな噂あったの?』


知之が驚いて聞いてみる。


普段、誰にも相手にされていなかった自分が噂話のネタになっているなんて信じられなかった。


『ごめ〜ん。のぞみ、妹さん聞いてるよ。』


はずみは黙っていた事を知之に謝りのぞみを嗜めた。


『性転換って男の子なの?』


妹も姉に似てこういう話が好きな様だ。


『ごめんね。お姉ちゃんと一緒のクラスなんだけど女装しているだけだよ。』


きょとんとしていたのぞみの妹・大森いずみの背に合わせてしゃがんだ知之が謝る。


『白杉くんってあんなだったっけ?』


のぞみは知之が授業中先生に指された時位しか人前で喋っている姿をほとんど見た事が無かった。


その知之が妹に優しく接しているのでさらにびっくりしていた。


『お姉ちゃん、男の子なの?』


『うん。いずみちゃんは何年生?』


『三年!』


人懐っこいいずみに知之は笑顔で応対している。


『へえー。で、じゃあ今度から学校には女の子で来るの?』


知之がいずみの相手をしている間にのぞみははずみから詳細を聞いていた。


『まだ分からないけど、おかあさんに学校休まないって言っちゃったから三学期は登校するよ。』


『私、こういうの分からないけど良いんじゃない?白杉くん女の子の方が普通っぽいし。』


どうやらもう一人、味方が出来た様だ。


大森姉妹と別れて、りんご飴を舐めながら三人は歩いていく。


『でも実際どうするの?クラスに戻っても男子からいろいろ言われるんじゃない?』


クラスの事情は分からない雪菜が聞いた。


『なんとかなるよ。どっちにしても言われるだろうし。噂通りにはなってみたいから。』


『白杉くん、ホントスゴいね。いつもの白杉くんと全然違う。』


はずみにとっては驚くばかりで知之に対する興味が深まっていった。



二人と別れ、知之は自宅に戻った。


さっきは雪菜・はずみと一緒だったが今度は母と二人だけだ。


『ただいま。』


『お帰りなさい。どうだった?』


母の顔を見る。ごく普通のいつもの母の顔だ。


『クラスの子と一人会ったよ。お話したけど大丈夫だった。』


普通だった母の顔が次第に崩れて、膝を着いて知之を抱きしめた。



『おかあさん……』


『今までともちゃんを苦しめてごめんね。ともちゃんの思い通りになる様おかあさんも頑張るから。』


抱き締められる事に慣れていない知之は息苦しかった。


しかし、母を泣かしてしまった事の苦しさの方が辛く感じた。


『明日、おとうさんが帰って来る前に作戦立てなきゃね。』


母の手が離れた時にはいつもの優しい顔に戻っていた。


『お腹空いていない?お風呂に入ってお雑煮とおせち食べたら作戦会議よ!』


『作戦会議……。』


母が俄然やる気を出してドン引きする知之だった。

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