十三参り
翌日の朝、知香は由美子と共に祖父・俊之の運転する車に乗って街に出た。
予め美容室に着物を預けて着付けと髪のセットをお願いしてあったのだ。
『じゃあ由美子さん、後でみんな連れて迎えに来るから。』
『すみません、お願いさいます。』
由美子に連れられ、美容室に入る知香。
『いらっしゃいませ。今日はおめでとうございます。』
綺麗な髪をした美容師のお姉さんが出迎える。
5歳の時に七五三で男物の袴を着た事があるが、女の子の着物は初めてだ。
知香は淡いピンクに牡丹の柄の振袖を着せてもらい、生まれて初めてのメイクも施された。
『良く似合っていますよ。』
美容師のお姉さんが褒めてくれる。
十三参りではそれまで肩上げと呼ばれる調節をして着物を着付けていた子供から普通に大人同様の着付けを行なうという風習があり、本来はお参りが終わると肩上げを外すとされている。
ただ、十三参り自体が七五三ほど知られていないのと、この時期でちょうど中学入学と重なる事から学校の制服でお参りする事も最近は多く、着物も特に肩上げに拘らない様だ。
知香は肩上げのない着物に立て矢結びの帯、髪は後ろで編み込み髪飾りを付けて貰った。
鏡の前に立ってみると自分じゃないみたいだ。
『とても綺麗ですよ。』
美容師さんに褒められて頬を赤らめる。。
『お世辞抜きに可愛いよ。』
母・由美子も隣でセットを済ませていたが、喜んでくれた。
祖父が再び車で迎えに来た。
8人乗りの黒いワンボックスだが、助手席に一郎が乗り最後部には一郎の両親と祖母の佐知子、間の奥に父・博之が乗っていて由美子と知香が乗ると満席になる。
『袖挟まない様に気を付けて。』
と由美子に言われ、注意しながら車に乗り込む。
次は写真館に行ってスタジオで記念撮影だ。
一郎は学校の制服で、紺のブレザーにチェックのズボンとネクタイ姿となっている。
(ブレザーの制服も良いなぁ。)
知香の学校は男子も詰襟なのでブレザーの制服は新鮮に見える。
俊之の希望で二人一緒の写真も撮られた。
『うん、結婚式みたいだ。』
俊之の言葉に一郎が怒るが満更でもないようだ。
知香は傍で笑った。
撮影が終わると長野市に車を走らせる。
前日電車で通った隣の鉄橋を渡り、善光寺に向かった。
善光寺での十三参りの祈願は4月いっぱいで終わりなので他には二組くらいしか居なかった。
地元に近いうちは大体入学式前後に済ませてしまったのだろう。
慣れない着物と草履なのでかなり疲れる。
時折、袖からはみ出す長襦袢を由美子が直してくれた。
『……暑い。』
4月の終わりではあるが好天に恵まれ気温は徐々に高くなっている。
一郎が貰った案内の小冊子で仰いでくれた。
『ありがと…』
『こうして見ると夫婦みたいだな。このまま結婚式をするか?』
『もう、いい加減にしろよ。』
俊之が冷やかし、一郎は顔を赤くして怒る。
後から自転車で追いかけてきたリカルドが写真を撮ってくれる。
今日は自分は撮影出来ないのがもどかしい。
『ファンタスティカ!』
なんとなく意味が分かった。
参拝が終わると近くの予約していたお蕎麦屋さんで昼食を摂った。
お蕎麦は好きだし美味しいけれど帯が苦しくてあまり知香は食べられない。
博之と高志はビールを飲んでいた。
俊之は運転をするので飲んでいないが、女性陣にも飲む様に勧めた。
『由美子さんも一杯飲りなさい。』
『お義父さんが運転されているのに悪いです。』
『まあ、良いじゃないか。いろいろ大変だったろう?』
断る由美子だったが、再度勧められると仕方無くグラスを取った。
由美子は酒が飲めない訳では無いがちょっと問題がある為最近はほとんど飲んでいない。
『由美子、気を付けろよ。』
『はい。』
と言ったが、瑞希に2杯目を注がれていた。
『とも、まだ大丈夫か?』
知香の体調を気遣う様に俊之が聞いてきた。
『折角着物を着たんだからこの後小布施にでも行こうと思うんだが、無理ならいいんだぞ?』
苦しいけれどこんな機会は滅多に無い。
『大丈夫、行く!』
自分は大丈夫と言ったものの、母の方が心配であった。
蕎麦屋を出て、一行は小布施を目指す。
途中で最近は何処ででも見られる大型雑貨店に近付いた。
『お義父さん、ちょっとごめんなさい。』
由美子がお店に寄る様お願いした。
『すみません、直ぐ戻ってきますので待ってて戴けますか?』
少しふらふらしながら由美子は一人で店内に入っていった。
(おかあさん、大丈夫かな?)
由美子は5分くらいで戻って来た。
手にはお店のキャラクターが描かれている黄色いレジ袋を持っていた。
『何買ったの?』
『ナイショ!後でのお楽しみ〜!』
お酒のせいかだいぶ楽しそうな母・由美子だった。




