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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
小学六年生編
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元日のカミングアウト

年が明けた。


例年、白杉家では31日から父の実家のある長野県のS市で過ごし、年が明けた2日にUターンついでに母の実家がある群馬県I市に立ち寄って挨拶をするというパターンであった。


知之の父、博之は真面目な仕事人間で普段は趣味もなく自宅と都心の会社を往復する毎日だった。


その反動か休日は何もせずボーっと過ごし家庭を顧みる事も無かったが、年末年始やお盆などはきっちり親戚に近況報告をしていた。


それなのに今年の冬は一人息子が不登校の引き篭もりとなってしまった。


まだまだ元気なお互いの両親にはそんな事は言えず、年末に風邪を拗らせてしまったという理由で一人実家に向かった。


今年は初めて母・由美子と自宅で二人きりの正月を迎えていた。


『ともちゃんも今年は中学生になるね。』


『……うん。』


テレビは元日恒例の実業団駅伝大会の中継を流していた。


由美子の実家・I市もコースになっていることもあり夫の実家でも毎年チャンネルを合わせてはいたけれど他に面白いコンテンツも無いだけであって観ているわけではない。


知之もスポーツ中継には興味を示さず、お雑煮を食べ終わると部屋に戻っていった。


(中学生というワードは不登校の息子には禁句だったのか?)


リビングに残された由美子は自問自答した。


(どうしたらいいの?全然家庭を顧みない夫とヒッキー息子……せめてどんな形でもともちゃんが学校に行ってくれたら……)


正月早々、一人でこんな悩みを抱える自分が悔しい。


そんな鬱な由美子の状態を救ってくれたのがインターフォンであった。


『あら、ゆきちゃん。ずいぶん久しぶりじゃない?』


『おめでとうございます。ともちと初詣に行くって約束したんです。』


『あら、最近知之学校休んでいるのに…相変わらず二人は仲良いみたいね。』


由美子も知之が雪菜しか友だちがいないという事は知っている。


転校してしまった雪菜だけでなくせめて一人くらいは今の学校で友だちがいたら……


そう思ったところに再びインターフォンが鳴った。


『あの、私、知之くんと同じ班の松嶋はずみです。知之くん、いますか?』


由美子は幼なじみの雪菜以外に知之に友だちがいる事に驚いた。


『え?ああ、二人ともどうぞ、上がって。』


由美子は二人を知之の部屋に案内した。


なぜか女の子ばかりではあるが、正月早々二人の女の子を招くなんて!


それまでの悩みは何だったのかと思う由美子。


でもなんで?


嬉しさも半分あったが、三人の関係を不思議に思った、紅茶を淹れて様子を伺う事にした。


『ともー、入るわよ。』


ちょうど、知之が着替えているところに由美子が入ってきた。


ちゃんと着替えて母には言うつもりであったが想定より早すぎた。


『……どういう事?これは……』


すでに知之はワンピースを着て髪を整えている所だった。


『ごめんなさい、おかあさん!』


着替えて出掛ける時に母に言おうという計画であったため、雪菜もはずみも咄嗟の言い訳をしようと考える前に知之が謝った。


『……男の子でいるのが嫌で、学校休んでたんです。三学期はちゃんと学校に行くから女の子にならせて!』


由美子は一瞬意味が分からなった。


女の子になればちゃんと学校に行ってくれる……でも男の子である筈の知之が女の子になるって??


小さい頃から男の子っぽい遊びに興味が無かったし仕草や趣向なども女の子の様に感じていたから知之の発言に対しては納得出来る部分もあった。


しかし、いざ本人の口から言われるとショックは大きい。


出来ればこのまま普通の男の子として成長して欲しい…


親としては知之に理解してあげたい気持ちは重々あるが複雑な由美子であった。


『白杉くんが学校に行かなくなったのは苛めにあったのは本当ですけど前から女の子になりたかったからだって……私、ずっと知らなくて、白杉くんから話を聞いた時応援したいって思いました。』


はずみが援護射撃を出す。


『おかあさんだってともちゃんの事ずっと見ていたからそんな気もしてたわよ。でも、死ぬまでずっと続く事なのよ。身体だってそうだし、苛めもあるだろうし。』


母の口調が強くなった。少し涙が出ていた。


『でも、ともち可愛いでしょ?ともちって女の子でいた方が良いと思うんです。』


雪菜は時々空気の読めない発言をする。しかし、知之の事を昔から良く知っているし本当は由美子もそう思っている。


『ごめんなさい。ちゃんと学校にも行くし、お金もバイトとかして自分で頑張るから。』


知之の想いは母の由美子には充分伝わっていた。


『雪菜ちゃん、はずみちゃん、ありがとう。ともちゃんの気持ちは分かりました。おかあさんも頑張るしまだ小学生でバイトとか言わなくても大丈夫。明日おとうさんにちゃんと言って、それから考えましょ。』


三人は目を合わせて喜んだ。


『ありがとう、おかあさん!』


『……でも、本当に可愛いわね。』


由美子も意外と能天気な所があった。


『でも、こんな素敵な女の子が二人も居るのに残念ね。どちらかお嫁さんに来てくれたら良かったのに。』


二人は、顔を赤らめた。


今はまだ知之は男である。


『バイトとかする前に普段の生活が大事よ。お掃除とかお洗濯とか自分でちゃんと出来る様にならなきゃね。』


『うん、頑張る。』


『良かったね、ともち。』


安堵する知之と喜ぶ雪菜の隣で真面目に由美子を見つめるはずみ。


『知之くんのおかあさん、ありがとうございます。私たちもしっかり応援しますから宜しくお願いします。』


『知之くんの』と言わないとまた茶化されそうな気がしてはずみは言葉を選んで言った。


『あなたたち、初詣に行くんでしょ?大丈夫なの?』


『うん、行ってきます。』




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