写真部の面々
『美久ちゃんももうやりたく無いって言ってたよ。』
昼休みになって給食が終わり知香は萌絵に今井麗の話をすると萌絵も美久の様子を伝えてくれた。
『あの二人、今頃また苦労してるんだろうな。』
知香も萌絵も他人事とは言っても気の毒そうに思っていた。
『でもね、あの今井先輩の気持ちも分からなくないな。』
『そうなの?』
『私も他の人とは違う訳でしょ?理解して貰えない事だってあると思うの。去年までは一人で悩んでいたし。』
しみじみと語る知香。
『もしね、他の人が誰も理解してくれなくなっても私一人は知香のそばに居るから。』
幸い、身近な人間で理解をして貰えないのは高木くらいだが知香は萌絵のその言葉だけで頑張れると思った。
『服飾部の方はどう?』
服飾部は覚える事もやる事も多いので週4日通っている。
『うん、奈々ちゃんが凄く真剣でね、作業の時はずっと黙ってるの。でも休憩とか帰りの時なんかいろんな話してくれてね……。』
無口な萌絵は一緒に小学校に通っていた頃は奈々を苦手にしていた筈だったが、心配は無用の様だ。
意外と[知之]を好きだったかもと言われていたし、自分と対照的な静かな子が好みなのかもしれない。
『でね、どっちが知香に可愛い服作るか競争しようとか、お互いの服を作って一緒に着ようとかお話してるの。』
出来た時が楽しみだ。
『私も写真部頑張らなきゃ。』
翌日金曜日、写真部は上級生と新一年生が初めて顔を合わせる事になった。
『部長の村山です。みんなに時代遅れと言われますが銀塩のカメラでモノクロ写真を撮ってます。』
『銀塩?』
初めて聞いた単語だ。
『フィルムカメラの事で、昔はみんな銀塩でした。』
祖父に聞いたフィルムカメラの話がまた出た。
『無機質な都会の風景を撮るのはモノクロフィルムが一番味があるから。』
と言ってアルバムを出して自分の作品を一年生に見せる村山。
凄いとは思うけれど今ひとつその良さが分からない知香だった。
『副部長の和田加奈です。』
女子の先輩だ。
『私は女性の裸体こそ最高の芸術だと思っています。』
裸体?中学生の身で?
『一年生の前で言うなって言ったろう!』
森田先生が窘める。
『私もまだ撮った事無いんだけどね。普通にポートレート撮ったりしているから志田さん、白杉さん、モデルになってね。』
びっくりした。
モデルと言っても裸になったら中一男子の身体だ。
服を着てようやく女子と認められるのでもし脱いでと言われたらと変な想像をしてしまった。
3年は他に男子も女子も二人づつ、2年は男子一人で女子が四人という構成だ。
『君たちはどんなカメラ使っているの?』
村山が一年生に聞く。
一年生の大崎は美久と同程度の中級機だが、型が新しく、機能も充実している。
メーカーは知香と同じC社で、標準と望遠のズームの他にズームをしない単焦点レンズを持っている。
『これで400ミリなんだけどちょっと外を見てみる?』
知香がレンズを装着したカメラを構えてファインダーを覗いて見る。
『わー、近い。』
『鉄道写真は望遠が有効だからね。ポートレートだってそこまでの望遠が無くても立体感が違うからあると面白いぞ。』
森田先生の解説に、そこまで本格的にやるつもりは無いとは思ったが、良い写真を撮れたら嬉しいだろう。
『私、ミラーレスなんですけどどうですか?』
知香が森田や村山に聞いてみる。
『ミラーレスでもちゃんと一眼だし問題は無いよ。ただちょっと前のだとタイムラグがあるからな。』
『タイムラグ?』
『シャッターチャンスだと思ってシャッターボタンを押すだろ。でも実際にシャッターが切れるまで時間が掛かるんだよ。』
森田は知香のカメラを構えてシャッターボタンを押してみる。
『これなら大丈夫だ。昔は一眼レフでもタイムラグが大きかったからな。』
『だから電子式は嫌いなんです。』
村山が昔の機械式ならそんな物は存在しないと言い張る。
『奥が深いんですね。』
知香が感心した。
『フィルムのカメラは現像処理が必要でね、この奥の準備室には暗室もあるんだけどそこで現像をしてプリントするんだ。』
『暗室って暗いんですか?』
村山の話に喰い付く知香。
『そう、写真というのはもともと光を反射させてフィルムに焼き付ける訳だけど、明るい場所で現像をすると光が当たってみんな真っ白になるんだ。』
『昔は大変だったんですね。』
『それがまた魅力なんだよ〜。』
知香は村山の話に付いていけなくなった。
『印画紙とか現像液とか金が掛かるから村山が卒業したらあの暗室は撤去するよ。』
森田が言うと村山が反論する。
『これから銀塩派の後輩が入部したらどうするんですか!』
写真の事はまだよく分からないけれど、個性的な先生や先輩がいる楽しい部活だという事だけは分かった。