体験入部
新しい週が始まり、本格的に授業もスタートした。
小学校と違い中学は教科毎に先生が違うから覚えるのも大変だ。
給食が終わると隣のB組に行って萌絵を呼び出す。
美久や小学校の時のクラスメイトも知香が顔を出すと手を振ったり声を掛けたりするが、顔見知りでは無い坂東小出身の生徒たちは有名人の来訪に注目の視線を浴びせる。
全校生徒の前で紹介はしていないがクラス毎で[性同一性障害]の生徒が入学するという話はしている為に知香の存在を知らない生徒は居ない。
萌絵と一緒に廊下を歩く知香は普通の女子生徒にしか見えないので顔も名前も知らされていない上級生はすれ違っても分からないが、一年生同士だとどうしても目立ってしまうのだった。
『……私、今日服飾部行くの…。』
萌絵はそう知香に話した。
知香は萌絵らしくて良いなと思う。
『上手く作れる様になったら、知香に作って着て欲しい……。』
恥ずかしそうに話す萌絵。
『私は写真上手く撮れる様になったら萌絵ちゃんをたくさん撮りたいよ。』
二人だけの時間は長く続かない。
『二人だけで相変わらず怪しいんだから!』
C組の奈々とはずみがやって来た。
奈々は二人の仲が只ならないと疑っている。
『なに、怪しいって?そんなにいちゃいちゃしてる様に見える?』
実際、部屋の中で二人きりの時はいちゃいちゃしているのでつい態度に表れてしまったのかと内心慌てるが、平然と言葉を返す。
『知香はやぎっちが可愛くて仕方ないんだよ。』
はずみの言う通りだ。
『私も少しは可愛いとか言って欲しいのに!』
嫉妬深い奈々が嘆く。
『私たちが知香を可愛がってあげれば良いのよ。』
はずみが知香に抱きついた。
困惑する知香を萌絵は淋しそうに指を咥えて見るだけだ。
(もっと積極的になりたい。)
萌絵はそう思っていた。
『そう言えば、二人とも部活どうするの?』
しつこいはずみの手を跳ね除けて知香が質問する。
『私、陸上部入るつもり。』
はずみはスポーツが好きで走るのも早い。
『私、服飾部!』
奈々が服飾部というのは少し意外だった。
『萌絵と一緒だね!』
普段ほとんど喋らない萌絵は放っておけばずっと喋りっぱなしの奈々が少し苦手だった。
でも、意外に良いコンビかもしれない。
放課後、知香はやはり写真部に体験入部をする美久と共に理科室に向かった。
写真部の顧問が理科の森田先生なので、理科室の半分を写真部が使い、もう半分は化学部が使っている。
『活動自体はほとんど外だからね。』
集まったのは新一年生が6人でうちで男子が4人、女子は知香と美久の2人だけであった。
六年生で同じクラスだった大崎太一も居た。
『二年生は女子の方が多いし、ここに集まるのは普段は週一回だけだから。』
各々勝手に写真を撮ってきて、週一回見せ合うだけの様だ。
これなら他にいろいろ忙しい知香も続きそうだと思った。
『後は文化祭で発表したり、フォトコンに出したりする事かな?』
『あの、私入学祝いでカメラを買ってもらったばかりで初心者なんですけど…』
知香が質問するが、美久も父親からカメラを譲ってもらったばかりなので一緒だ。
『集まった時にこうしたらとか言い合ったりするけれど、写真は感性だから自由に撮って良いんだよ。』
逆に言えば手取り足取り教えてくれる訳ではないので自分で勉強しろという事だ。
『被写体だってそれぞれみんな違うだろう?ある程度は数をこなして自分のテーマとかを決めなさい。』
どうやら森田先生は化学部と掛け持ちらしく、どちらかと言えば化学部の方に重きを置いているようだ。
『上手く撮れるようになるのかな?』
知香も美久も心配していた。
『僕が教えてあげようか?』
大崎が言ってきた。
大崎は鉄道写真を撮るのが好きだというが、鉄オタは祖父だけで充分である。
『遠慮しておきます。』
二人は笑いながら断りを入れた。
『調理部、どうしようかな?』
知香は第二希望に入れていた調理部への体験入部を躊躇った。
女の子としてスキルアップの為に料理は覚えたいところだが、知香が調理部に行ってしまうと写真部の一年女子は美久一人になってしまう。
『聞いた話だけどさ、調理部に入ると太るらしいよ。』
美久は躊躇う知香を引き留める為強烈な一撃を放った。
(お料理はおかあさんに教えてもらうから良いか?)
知香は調理部の体験は諦めて美久と共に写真部の入部を決めた。
『金曜日の放課後にニ・三年生も来て顔合わせをするからまたここに来てね。』
帰り道、美久がある悩みを吐露した。
『チカって職員室のそばの多目的トイレ使うよね。』
その件は友だち全員に伝えている。
『保健委員でちょっと大変な仕事があるのよ。』
やっぱり美久は保健委員になった様だ。
美久の話は例の三年生の事だと知香もすぐに分かった。
『車イスの三年生が居るんだけど、保健委員が日替わりでその三年生の教室に行ってトイレに連れて行くんだって。』
確かに大変そうだ。
『それだけなら良いんだけど、その三年生って凄く怖いみたいでさ。なんでも親が市会議員やっていてお嬢さまなんだって。』
先生たちは我が儘で性格がキツいとは言っていたが、お嬢さまとは。
『先生がトイレ使う時注意しなさいって言ってた。』
『チカ知ってんだ。当番回ってくるのヤだよ〜。』
人の世話をするのが好きな美久が弱音を吐くのは珍しい。
そんなに保健委員の間で悪く言われて居るのだろうか?
当事者では無い気楽さもあって逆に興味が湧いた。
『ねぇ、その当番って今度いつなの?』
『木曜日だよ。きな子と一緒だからまだ良かったけど。』
女子の保健委員が二人一組で当番を廻すらしい。
隣のクラス同士の美久と雪菜が当番で一緒の組ならますます興味が深まってきた。
『私、隠れて見てよっかなぁ〜。』
あくまで傍観者を決めつける知香だった。
『あんた、だんだん性格悪くなってるんじゃない?』
美久に一発食らった。
写真部、ちょっと変わった人が多いです。




