学級委員
休み時間が終わり、各委員を決める時間となった。
知香は保健委員になりたいと思っている。
B組は絶対美久がやると言いだすだろうし、保健室の浅井先生の所には行く機会も多い筈である。
『最初に学級委員を決めます。その後は学級委員に選ばれた人が他の委員を決める進行役をお願いしますね。』
木田先生が言う。
大体事ある毎にみんなの前でいろいろやったりとか出来る訳ない。
誰か、得意な人がやれば良いと思って傍観を決め込む知香。
『立候補する人は居ますか?』
すぐに昨日知香を罵倒した高木健介の手が挙がった。。
『高木くんね。他には…?』
(居たよ、得意なヤツ。ま、そんな感じだよな…)
それから男子も女子も一人も手を挙げようとしない。
『では男子は高木くんで良いでしょうか?挙手で決めます。』
過半数の生徒の手が挙がった。
そりゃ自分がやりたく無ければ手を挙げるよね。
『女子は……立候補が居なければ誰か推薦したい人居ませんか?』
(マズい!さっきの雰囲気だと雪菜かありさが推薦するに決まってる。それを避けるには、私が誰かを推薦するか?)
考えているうちに、果たしてありさが手を挙げた。
『先生、白杉さんを推薦したいと思います。』
ここで他の人を推薦すると自分がやりたく無いからと言うのがバレバレだ。
『推薦の理由はありますか?』
先生が尋ねると
『友だちや白杉さん本人にも聞いたんですけど白杉さんは人に言えない悩みを克服して大勢の人に勇気を与えてくれています。白杉さんがクラスの中心になってくれたらみんなが纏まって良いクラスになれると思います。』
ここまで言うかと困った表情で雪菜を見ると、諦めなというポーズが返ってきた。
後は別の人の推薦があって投票で決める様なら……。
そこで手が挙がった。
『はい、高木くん。』
また高木だった。
『俺はこんなヤツと一緒に学級委員をやりたく無いです。』
ナイスアシスト!高木はイヤなヤツだが、利害関係は一致した。
『そうですか……高木くんは立候補だから降りるって訳にもいかないわね。じゃあ不信任投票にしましょうか?不信任だったら別の誰かを推薦して貰います。』
無理だよね、いや、もしかしたらと一縷の望みに賭ける知香。
『では挙手で決めますね。白杉さんが学級委員で良いと思う方は手を挙げて下さい。』
合図と共に生徒たちが手を挙げる。
『数える必要は無いですね。白杉さん、大変だけど宜しくお願いします。』
なんと、知香と高木以外クラス全員が手を挙げていた。
(こんなんでいいんかい?)と、心の中でおやじギャグを叫ぶ知香だったが時すでに遅しだ。
知香は学級委員に任命された。
『高木くん、多数決で決まったんだからいいわね。それでは高木くんと白杉さんに進行をバトンタッチします。』
むすっとした表情の高木とげんなりした表情の知香が壇に上がった。
『俺は絶対おめぇの事認めねぇかんな。』
耳打ちをしてくる高木。
とりあえず先生から各委員の種類と人数を教えてもらい、黒板に書いていく。
(あれ?学級委員を補佐する学級副委員だって。)
『それでは、学級副委員一名、だれかやりたい人!』
何事も無かったかのように進行をする高木。
またもや誰も手を挙げない。
学級委員になりたくないのに副委員だってなる人はいないのは当たり前である。
(そうだ。)
『では、時間も無いので学級委員の権限で指名させて戴きます。水尾ありささん!』
『何?勝手に…』
隣で高木が苦虫を嚙み潰したような顔をして睨む。
ここは言ったもん勝ちだ。
『白杉さん、権限は構わないのですが、小学校も違うのになぜ水尾さんなんですか?さっき水尾さんの推薦で学級委員になったのを逆恨みしてはいけませんよ。』
無責任に知らない人間を選ぶのは良くないと木田先生が問う。
『先月、志田さんのお店でクラスの卒業パーティーをしたんです。その時、志田さんや水尾さんたちがお手伝いをしてくれたんですけど、見ていたらとても明るくて動きも早かったんです。学校での事とかはよく分かりませんが、水尾さんなら適任だと思います。』
はっきり言ってお返しである。
が、ありさの性格なら大丈夫だと思っていたし高木が居てもやっていけるだろう。
『分かりました。水尾さん、良いですか?』
『はい。』
ありさは[副]の立場のせいか知香ほど押し付けられた感が無さそうで涼しげな顔で返事をした。
その後、大森のぞみは図書委員に立候補でなった。
妹のいずみが小さい頃に読み聞かせをしていた事もあって本が好きだそうだ。
知香がなりたかった保健委員は雪菜になってもらった。
B組の保健委員は仲直りした美久がなるはずで顔を合わす事も多いだろうし知香自身も保健室に行く機会が多くなるので雪菜がなってくれると助かる。
全ての委員が決まり、知香の学級委員として最初の仕事が終わった。
これから一年、学級委員としてクラスを纏めるより高木と一緒という事が憂鬱な知香だった。
学級委員になってしまいました。