自己紹介
校庭で待っていた由美子からカメラを受け取って友だちの写真を撮りまくる知香。
『可愛いカメラだね。チカにぴったり!』
C組のはずみに言われた。
知香に負けじと、美久も一眼レフカメラを構えて撮影している。
『オヤジがさ、新しいのは買ってあげられないけどってくれたの。』
美久のはN社製の黒い一眼レフだった。
持たせて貰うと、家電店で見た入門機よりは重く、ハイエンド機よりは軽い。
『知香ちゃんに負けるな〜だって。だったら新しいの買ってくれっての。』
あれから知香は少しカメラの事を勉強していた。
型は古いけれど、名機と呼ばれるカメラだった気がする。
『ほら、美久、それにきな子、ここに並んで。』
『止めてって、その言い方。』
雪菜が嫌がるが、
『きな子だって。美味しそ〜。』
みんなにからかわれて共通のあだ名に決まった。
『じゃあ撮るよ〜、はいチーズ!』
仲直り記念にとツーショットを撮る知香。
二人の表情はぎこちなかったが、その笑顔は小学三年生の時のものより素敵に思う知香だった。
『今度はほら、チカとやぎっち!』
みんなの前では相変わらず恥ずかしがる萌絵だけど真新しいセーラー服が眩しく見える。
『あ〜あ、桜がもう少し頑張ってくれてたらなぁ。』
葉桜になった木を眺め、悔しがる美久。
『血は争えないね。』
知香は自然が好きな美久の父・徹を思い出した。
高木の件は気になるが、中学生活も楽しくやれそうだ。
翌日は一日ホームルームで最初に自己紹介があり、その後クラスの各委員を決め、午後はクラブ活動の紹介らしい。
『坂東小から来た志田雪菜です。四年生までは青葉台小に居たので知っていている人もいると思います。ウチはスノーホワイトというレストランをやっているので、食べに来て下さい。宜しくお願いします。』
出席番号順に自己紹介を進め、雪菜まで終わった。
『ありがとう。先生もスノーホワイトにはよく食べに行きます。今度はまけてね。』
木田先生は若いけれど結構面白そうだ。
『次、白杉さん。』
雪菜の次は知香だ。
知香の事は青葉台小出身の生徒だけで無く坂東小出身の生徒も知っている。
知香が立ち上がるとみんなが注目した。
『青葉台小から来た白杉知香です。』
一旦息を飲んだ。
『私は男の子として生まれ、去年2学期まで白杉知之と言う名前で学校に行っていました。』
静まり返る教室。
『でも私の心は女の子です。今は毎月病院に通っていて、将来は女の子の身体になります。青葉台小ではたくさんの人に助けて貰いました。三中でも迷惑を掛ける事も助けて貰う事もあると思います。みんなに理解して貰うのは難しいですが、自分が助けて貰った分は出来るだけお返し出来る様に頑張ります。宜しくお願いします。』
一気に話しを終え、お辞儀をする知香に拍手が沸き起こった。
『ともち、良かったよ。』
机の下から手を出し、雪菜と握手する知香。
大部分のクラスメイトは理解してくれていそうだ。
『白杉さん、ありがとう。実は先生も…』
木田先生の告白?
『白杉さんの様に元男の子だった友だちとか知り合いいっぱい居るんです。』
木田先生みたいな人が担任ならいろいろ好都合かもしれない。
けど、いっぱいって…?
『新宿にね、白杉さんみたいに女性になった男の人や男だけど男の人が好きって人とか、逆に女だけど女の人が好きみたいないろんな人が居る街があってね』
萌絵が好きそうだ。
『学生の頃よく遊びに行ったの。……あ、ごめんなさい、中学生に言うお話じゃないわね。』
木田先生、ヤバくない?
まあ、なにかあったら相談は出来そうだと知香は思った。
全員の紹介が終わり、休み時間になると自己紹介が終わったとはいえ名前と顔が一致しない生徒が声を掛けて来た。
『私さ、話は聞いていたけど白杉さんってもっと男の子っぽいかなって思ってたけど全然普通じゃん?』
雪菜を挟んで知香と逆の席の佐野明日香と言う子だった。
他にも2・3人と話を交わしたがまだ名前は覚えられない。
『きな子は両方の学校に居たから良いよね。』
雪菜はそんな事は無いと手を振る。
『そんなに知っている子居ないよ。青小だって同じクラスにならなかった子多いし。』
クラスが一緒でも[知之]や萌絵みたいに印象が薄い子も居るので覚えて貰えない事もある。
『それよりさ、ともち随分人気者じゃない?学級委員に立候補してみれば?』
『なに訳の分からない事言ってんの?そんな柄じゃないよ。』
雪菜から突然クラスの代表になんて言われた知香は全力で否定する。
『私はともちが学級委員って良いと思うな。』
ありさが自信ありげに言った。
『なんでよ?』
『だってあの司会っぷりとか見てるとそう思うよ。弁が立つし、機転が効くし。』
『でも、みんなに迷惑掛けるから無理だって。立候補なんてしないからね。』
自己紹介の発言を繰り返して断る知香だった。
木田先生、学生時代に結構遊んだみたいです。