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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
未来編
303/304

面会希望の患者さん

知香が女の子になろうと思い、カミングアウトをしてからすでに18年の月日が経っていた。


その間に社会も法律も大きく変わり、知香の様に第二次性徴を迎える時期、あるいはそれ以前から性に違和感を持つ子どもに対する支援も今では積極的に行なわれている。


特に顕著なのが医療支援であり、知香の頃は保険も限定的にしか適用されなかったが、今日では全面的に適用される様になり、その結果、国内でもSRSを実施する医療機関が増えてきた。


SRS技術を学んだ健介が森山記念病院に新設された形成外科に着任すると、県内外からのジェンダークリニックや患者からの問い合わせが殺到し、いよいよ同病院で初めてのSRSが行なわれる日がやってきた。


『どんな患者さんなの?』


『先月18歳になったばかりのMtFだよ。』


知香はタイでの施術だったため夏休みを利用したが、国内なら学校は休まなければならないとはいえ学校の長期休業でなくても受けられるという患者も多い。


『パパ、頑張ってね。』


『ああ、頑張ってくるからね。』


基本子育ては知香に任せている健介だが、楓には甘いパパである。


『その患者なんだが、どうやって調べたのか知らんがママの事を知っていて、会って話を聞きたいらしい。本来守秘義務もあるからいけない事なんだが、その患者に会ってもらえないか?』


『なんで知ったのかな?』


確かに学生の頃はテレビや雑誌にも出たりした事もある知香だが、手術をして戸籍を変えた後は普通の女性として静かに暮らしており、マスコミにも一切取り上げられたりはしていない。


『でも同じ立場の先輩として参考になれば良いかな。2、3日経って少し落ち着いたらお見舞いという形で行くよ。』


知り合いの見舞いという名目でその患者に会う事にした。



その患者の手術が無事成功し、3日後に知香は楓を連れて病院を訪れた。


『個室に入院している松原さんの見舞いですが。』


ナースステーションで見舞いの受け付けをする。


『高木先生から聞いています。どうぞ……楓ちゃんもよく来たね。』


『美久おばちゃん!』


知香と楓を待ち構えていたのは小学生時代からの夢が実現し、今は主任看護師となっている美久である。


『お母さんは元気?』


美久の母・美子は長年この病院の看護師長をしていたが、今は統括看護部長として美久たち現場の看護師たちに睨みを効かせている。


『毎日うるさいよ。あの病室の患者は独身で彼女はいないとか、ネットビジネスで金持ってるからとか。』


三十路を過ぎて、知香の友人たちで結婚をしていないのは声優として活躍している紀子と同性カップルの事実婚をした萌絵と奈々、それと美久だけだ。


美久の父の徹が怪我で入院中の時に美子に惚れて後に結婚した事もあり、仕事に夢中で結婚する相手のいない美久と入院患者を上手く結び付けようという魂胆が見え見えだと美久は言った。


『それで、良い患者さんはいるの?』


『いる訳ないでしょ?いたとしてもオヤジみたいな軽いノリで声を掛けられてほいほい付き合ったりしないわよ。』


『ほいほい付き合って悪かったわね。』


知香が見舞いに来たと聞いて美子がナースステーションにやって来て、こっそり二人の話を聞いていたのだ。


『ご無沙汰しております。ご挨拶が遅れて大変申し訳ございません。』


『気にしないで。こっちも形成外科が新設されて忙しくなってるから。あら、この子が楓ちゃん?宜しくね。』


美久とはプライベートで何度か会っていた楓だが、美子とは初めての顔合わせである。


『楓。美久おばさんのママでパパのお仕事を手伝ってくれている部長さんだよ。』


知香は楓に美子を紹介した。


『こんにちは、高木楓です。』


『偉い偉い。大きくなったら看護師になってパパのお手伝いしてね。』


楓ははにかんでいる。


『原田主任、松原さんには高木さんの事、伝えてありますか?』


『はい原田部長。朝の検診時に伝えました。』


連絡の確認の時は二人とも母娘という意識は全くない。


『分かりました。高木さんを病室に案内してあげて下さい。』


美子の配慮で松原という患者の病室には美久も一緒に行く事になった。


『遠藤さん、失礼します。高木知香さんが見舞いに来られました。』


病室は個室で、表札には松原奏女という札が差し込まれていた。


『あっ。』


『無理に動かないで。まだ痛いでしょ?』


知香は挨拶をしようとした患者を制した。


『こんな姿勢ですみません、松原奏女(かなめ)と申します。』


『高木です。この度は大変だったでしょう?おめでとう。』


手術を終え、女性になったばかりの奏女を祝福する。


『ありがとうございます。』


『でもなぜ私の事をご存じだったんですか?』


知香はこの奏女という少女が仮に男子だった頃の姿を想像しても会った記憶がない。


『知香さん、久し振りですね。』


後ろから聞いた覚えのある声がして知香が振り返る。


『乙女さん?』


高校時代、知香が司会を担当していたテレビ番組で、東信地区のリポーターをしていた松原乙女が洗濯を終え、病室に戻ってきたのだ。


『乙女さんのお子さん?……じゃないわよね?』


『奏多はね、実は私の弟なの。』


『お姉ちゃん、弟って言わないで。名前だって奏女なんだから。』


奏女は乙女とは歳の離れた[妹]だったのだ。

最終章はあくまで18年後を想定しての話なので、今より小さいうちからカミングアウトをする子どもが増えて医療支援もされるだろうという願望を込めて書いています。


少子化が進んでひとクラスあたりの生徒数はもっと減っているかもしれないし、逆にモンスターの親や児童虐待は増えるかもしれませんね。


出来れば楓ちゃんみたいに不幸な子どもが減る社会になってほしいです。



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