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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
未来編
302/304

クラスの絆

『今日ひとりで大丈夫なのか。俺も行こうか?』


PTAの緊急召集の日、健介が知香を心配して聞いた。


『途中で仕事抜け出せないでしょ?なんとかするわ。』


健介を見送った後、知香はため息をついた。


(そうは言ったけど、あのモンスターだからな……。)


梨香はたぶん他の母親たちにも大げさに言いふらして仲間を増やすだろう。


(問題はいずみちゃんも担任として責任を取らされる事だよね。楓は転校すれば済むんだけど。)


やはり気は重い。



緊急召集に集まったのは、学校側が担任のいずみと三年の学年主任の先生、PTA側が会長と副会長、クラスの母親たちである。


まず、事件の詳細をいずみが報告する。


『4月20日の給食の時に、熊田太陽くんに母親の悪口を言われた高木楓さんが自分の食べていたスープ皿を太陽くんに投げつけ、太陽くんの衣服を汚してしまいました。』


『汚しただけではありません。熱いスープですよ!太陽は顔に大きな火傷を負ったうえに、更にスプーンで攻撃をされたのです。』


梨香が反論する。


『火傷ですか?保健室にも報告はありませんが、病院の診断書とか証明するものはありませんか?』


学年主任の角田先生が尋ねた。


『なぜ被害者の方が証拠を出さねばならないのですか?現に大森先生の目の前でやったのですよ。それが証拠に他ならないじゃないですか!』


梨香はそう言うと、部屋の前に待機させていた太陽を呼び、太陽の顔は目と口以外包帯で隠れていた。


『まあ!』


先日は知香を支持していた母親たちも楓を非難する声が聞こえる。


『どうも不自然な包帯ですよね。太陽くん、包帯取っても良いかな?』


蛭間祐希の父・祐大が立ち上がり、太陽に聞いた。


『誰よ、あなた?』


『失礼、太陽くんの友だちの蛭間祐希の父です。うちは妻と離婚して父ひとり子ひとりの家庭なんですが、祐希は太陽くんの事をよく話してくれます。一昨日、太陽くんが顔に包帯を巻いた話を聞きまして気になったものですから。』


太陽は話を聞きながら俯いている。


『あの、うちの楓の事なんですが。』


大人に囲まれた太陽を憐れんで知香が立ち上がった。


『なんです?今あなたの話なんか聞く必要はないわ。』


梨香がものすごい剣幕で知香を寄せ付けようとしない。


『すみません、ひと言だけ言わせて下さい。楓は熱いものを食べるだけでなく、触れたり皿を持つ事も出来ないんです。スープをかけてしまった事は事実ですが、火傷するくらいの皿を投げつけるなんて無理だと思うんです。』


知香には精一杯の弁護だったが、これ以上の事を言われたら反論出来ない。


『うちのさやもスープは熱くなかったって太陽くんが言ってたと話してましたよ。』


しおりが援護射撃をしてくれる。


(しおりちゃん、ありがとう。)


さすが中学時代さんざん尻拭いをしてくれた先輩思いの後輩である。


『じゃあなんですか?うちの太陽が嘘を付いているとでもおっしゃるんですか?』


まくし立てる梨香に耐えきれず、それまで俯いていた太陽は自分で包帯を外し始めた。


『全然火傷はしていない様ですね。』


角田先生が顔を確認したが火傷の跡さえ見当たらない。


『……僕、火傷なんかしていないよ。最初は楓ちゃんを困らせようと思ったけど、楓ちゃんの気持ちが分かったから……。』


太陽は蚊の鳴く様な声で話した。


『熊田さん、これはどういう事ですか?いくら被害者とはいえ、やり過ぎとは思いませんか?』


梨香はPTA会長から糾弾される。


その時部屋の扉が開き、なずなや愛音、三年1組のクラスメイトたちがみんなで叫んだ。


『高木さんを追い出さないで!大森先生を辞めさせないで!』


『熊田さん。太陽くんやクラスの子たちの声を聞いて下さい。高木さんは血がつながっていない楓ちゃんを必死に育てています。楓ちゃんもPTSDに苦しみながらみんなに打ち解けようとしています。それを太陽くんやクラスメイトたちはみんなで馴染んでもらおうと頑張っているじゃないですか?もう少し長い目で見てあげようと思いませんか?』


『それでも太陽は被害者である事は間違いありません。あんな子と一緒のクラスにいさせるなんて出来ません!』


梨香はもう意地だけで言っているのだろう。


『母ちゃん、僕楓ちゃんと一緒のクラスにいたいよ。一緒に遊んだり勉強したいよ。』


太陽が梨香に訴え、その場に崩れ落ちる梨香をなだめた。


なんとか知香は楓を守る事が出来た様だ。


『皆さん、ありがとうございます。これからも楓を宜しくお願いします。』


いずみも、担任としての責任を果たしほっとした。


(やっぱりチカねぇは昔から変わってないね。このクラスの担任になって良かった。)


『大森先生も辞めないよね。』


クラスの男子が叫んだ。


『大丈夫、先生も辞めないし、高木さんも転校したりしないよ。大丈夫だからみんな戻りなさい。』


いずみは先生の顔に戻り、子どもたちを下がらせる。


『良いクラスですね。』


子どもたちがいなくなり、祐大が知香に囁いた。


『はい。大森先生を中心にまとまってますね。このクラスならきっと楓の障害も治ると思います。』


知香は胸を撫で下ろした。

スープが熱くなかったと太陽が言ったというくだりは最初、祐大の発言でしたが、再登場した筈のしおりが全然出てこないので変えました。

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