カメラ女子になろう②
量販電気店のカメラコーナーには様々なカメラやレンズ、付属品が並んでいた。
知香がコンパクトカメラを手にとって見ていると、勝人が
『知香、こっちだ。』と、一眼レフのコーナーに連れていく。
『えっ?こういうの難しいし高そう!』
『何言っているんだ、自分のイメージ通りに撮るんなら一眼じゃないとダメだ。』
『一眼?』
『一眼レフの事だよ。動きの早いものを撮る時とか明るさの調整とかを自分でやれるから思い通りに撮れるんだ。』
知香はあまり理解していない。
『この写真みたいに後ろの風景をボケさせて人物を強調させたり出来るんだ。』
勝人がモデルが写っているポスターを指さして説明する。
『でもこういうカメラって黒いのばっかだね。重いし。』
知香が手にしたのはハイエンド機と言われる高級機でレンズが無い本体だけでも20万以上するものだ。
『最初はこういうのが良いぞ。入門機と言って初心者向けだ。これなんかレンズが2つ付いている。』
勝人は標準と望遠の2つの交換レンズがある[ダブルレンズキット]でも廉価な軽めのカメラを勧めた。
『これでも結構重いんだけど……あれ?なんか可愛いのもあるよ。』
知香の指さした先にはカラフルで小さめなカメラが並んでいた。
『ミラーレスか……鉄道を撮るにはイマイチだけど知香にはいいかもな。』
『ミラーレス?』
『普通の一眼は中にシャッターを押した時に鏡を反射させて写しこむんだがミラーレスには鏡が無いからこんな風に小さく出来るんだよ。』
勝人がミラーレス一眼カメラを手にとって説明する。
『よく分かんないけどこれが良いな。』
知香は小さいサイズのミラーレス一眼のカメラを気に入った様だ。
『じゃあこれにしよう。色はどうする?』
『水色!』
祖父・勝人が買ってくれた知香の入学祝いはC社製で水色のミラーレス一眼レフカメラ・ダブルレンズキットで値段は税別65,800円、店員に交渉して可愛いショルダーバッグも付けて貰った。
『今日はおじいちゃんが知香を撮ってあげるからな。買ったカメラは帰ってから出しなさい。』
家電店を出て、車を運転しながら勝人は助手席の知香に言った。
『なんかおとうさん、孫娘が出来て嬉しいみたいね。』
後ろの席に居る祖母の和子が由美子に囁く。
『男の子でも電車に興味が無かったからかえって女の子の方が良かったんじゃない?』
『聞こえてるぞ。電車じゃない、機関車だ。』
あくまでも拘る勝人。
赤城山の麓にあるフラワーパークに着いて、勝人は自分のカメラバッグを肩に掛けた。
園内を巡り、花壇の前に立ってポーズを取る知香をおだてて撮影する勝人。
(今度萌絵ちゃんと一緒に来ていっぱい萌絵ちゃんの写真撮りたいな。)
今は自分がモデル役だが、抱いているイメージはカメラマンだ。
『チューリップフェスタは来週からだからちょっと早いかな?』
それでも、だいぶ春らしくなって花壇はカラフルだ。
歩き回って撮影した枚数は200枚を超えていた。
『昔はフィルムだったから一度にたくさん撮れなかったんだよ。』
『フィルム?』
デジタル世代に生まれた知香にはフィルムカメラの存在は分からない。
『フタを開けてフイルムを巻いて撮ってたんだ。上手く撮れているかどうかは現像してみないと分からないから勿体なくてな。』
『ふーん。』
その場で確認して失敗したものは消去すれば良いという常識がある世代には興味が無いようだ。
四人はその後養豚牧場が経営しているレストランで昼食を取った。
いつもの事だが勝人はビールを頼んだため帰りは和子が運転し、勝人は後部座席で寝ていた。
『ともちゃん、学校で苛められたりしない?』
祖母の和子は孫が女の子の恰好で学校に行っている事で苛めにあっていないか心配していた。
『大丈夫だよ。』
といった後、少し間をおいて知香は続けた。
『ホント言うとね、男の子の時は苛められてた。』
和子は前を見ながら耳は知香に向けていた。
『でもね、女の子になってたくさん友達出来たし、困った時は先生も相談に乗ってくれて楽しかったよ。』
それでも小学校と中学校は違うと、和子は心配する。
『誰にも言えなかった時は苛められて嫌だった事が多かったけど、自分が女の子になりたいって言ったらみんな応援するって言ってくれたんだ。でも、自分がやりたい事だからどんなに辛い事があっても大丈夫だよ。』
後ろで聞いていた由美子はたった三か月でこんなに強くなった子に目を細めたが、和子が泣き出したのに気付いた。
『おかあさん、ちゃんと前見て!』
前を走っていたダンプカーがブレーキを掛けたのに一瞬気付くのが遅れ、追突しそうになった。
寸でのところで追突を逃れたが、シートベルトをしていなかった勝人が前の座席に額をぶつけた。
『どうした!』
幸い、ケガも無かったので由美子も知香も笑っていた。
『ごめ~ん、おとうさん。』
勝人はぶつけた額を手で擦り痛がっていたが、和子はさほど悪びれていない。
I崎はかかあ天下の街として有名なのだ。
『そのくらい、唾つけときゃ治るし。』
知香は祖母を見てこのくらい強くなりたいと思っていた。




