決心
カミングアウトを躊躇っているうちにいたずらに時間だけが過ぎ、不登校のまま二学期の終業式の日になった。
相変わらず自宅に引き篭もったままではあるが、家の中では自由で親の居ない時間は雪菜の洋服を着て過ごしていた。
もともと男子としては長めの髪だったが不登校の間にだいぶ伸びてきて少し女の子っぽくなってきた。
今日は学校も早く終わるので雪菜が来る事になっている。
(三学期は学校行きたいな。)
勉強は嫌いでは無いので出来れば引き篭もりなどしないで登校したいとは望んでいる。
(そのためには早くカミングアウトしなきゃ。)
とは言え、もし大反対されたらと思うとなかなか行動に移せない知之だった。
ぐだぐだ考えているうちに午後になった。
そろそろ雪菜が来る筈である。
インターホンが鳴り、『こんにちは〜。』と、女の子の声が響いた。
間違いなく雪菜だと思った知之は『は〜い』と返事をして扉を開けたがそこに立っていたのは雪菜では無かった。
『え?し…らすぎくん?』
同じ班の松嶋はずみだった。
知之は恥ずかしさで硬直した。
『……に、似合うね。可愛い……』
はずみもまさか知之が女装して出てくるとは思ってもみなかったので慌てて誉め言葉を並べたが嘘ではなかった。
『白杉くん、ずっと休んでいたから通知表とかお知らせのプリントとか持って来たんだけど…』
『……ここじゃ恥ずかしいから良かったら上がって……』
今すぐこの場所から逃げ出したい気持ちを抑え、はずみを部屋に招いた。
間もなく雪菜がやって来た。
『あれ?誰か居るの?…はずみん?』
『雪菜ちゃん?』
雪菜とはずみは一緒のクラスだった事があるらしく、顔なじみであった。
『ねぇはずみん、ともち、可愛いでしょ?』
雪菜に聞かれたはずみは改めて知之を見た。
たしかに可愛いとは思う。
『可愛いのは可愛いけど、ずっと学校休んでいてこれってどうゆう事?』
真面目なはずみは知之の不登校の方が気になるらしい。
『ともち、女の子になって学校に行きたいって。でも、誰にも言えなくて学校に行かれなくなったの。』
『そうなの、白杉くん?』
はずみは雪菜では無く知之に聞いてみた。
『…うん。』
『それってLGBTとか言うヤツ?』
『病院に行ってないから分かんないけど。』
本当はそうだと言いたいけれど、病院で違うと言われたらという不安はあった。
『なんか、スゴいね。でも、白杉くんならそのままでも女の子に見えるし分かる気がする。』
同じ班といってもほとんど話をした事も無い女子にそこまで言われるとは。
『私、白杉くんの事応援するよ!後、白杉くんがちゃんとお話しして学校に来るまで誰にも言わない。』
『ありがとう。』
『クラスに友だち居ないって言うくせに結構モテてるじゃん。』
雪菜が冷やかす。
『そんな事無いよ!』
怒る知之を見てはずみは不思議に思った。
『白杉くんってさ、学校じゃほとんど喋らないのに女の子の格好しているとよく喋るね。』
『やっぱり、はずみんもそう思うでしょ。ともちは本当は女の子に生まれる筈だったんだよ。』
雪菜の言葉に知之はハッとした。
本当は女の子に生まれる筈が何かの間違いで男の子になったのかもしれない。
だったら何も迷う事は無い。
自分はちゃんと女の子になってみせる。
その為にはまず母に言わなければ。
『ユッキー、松嶋さん、ありがとう。頑張っておかあさんに話してみるよ。』
これが女の子になる為の最初の一歩なんだ。
少しだけ知之は前向きになった。




