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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
未来編
299/304

モンスター

今年度のクラス委員の選出の議題に入ったが、PTAの役員は誰もなりたがらない。


『あの、楓の事で皆さんにはご迷惑をお掛けすると思いますし、今は私仕事をしていませんので立候補致します。』


知香が満場一致でクラス委員に選出され、もう一人の委員選びとなる。


知香はしおりをじろりと見る。


『すみません。私もやります。』


しおりは蛇に睨まれた蛙状態になりしぶしぶ手を挙げ、中学の生徒会以来のコンビを組む事になり、楓の件もひと安心といった感じである。



楓も徐々に新しい学校に慣れ、暫くはなにも問題なく日が過ぎていった。


だがそれは家の外での事であって、家では夜中になると突然泣き出したり震えたりしている。


『ごめんなさい、ごめんなさい!』


その時は大抵なずなを傷付けた時の様に楓はごめんなさいを繰り返した。


『大丈夫だよ。楓はなんにも悪い事してないよ。』


知香は楓を抱き締めて、少し鎮まると温めのホットミルクを飲ますとぐっすり寝るが、翌朝になると今度はおねしょをするのがパターンだ。


ホットミルクが温めなのは楓が熱いものを極度に怖がるからである。


『おはよう、楓。』


『ママ、出ちゃった。』


当然一緒に寝ている知香にも被害は及んでいるが、なにも言わずに身体を拭いて新しい下着を用意する。



登校班の集合場所には知香も一緒に行った。


『楓ちゃん、おはよう。』


『おはよう。』


やはり、おねしょをした朝は少し元気がない。


『おはようございます。』


祐希と一緒に来たのは祐希の父の祐大だ。


聞くところによると、祐希の家は父子家庭らしい。


『白杉さん、おはようございます。』


『え?あ、おはようございます。』


旧姓で呼ばれるという事は独身時代の知香を知っているという事だ。


『あ、失礼しました。僕は白杉さんの1学年上で今井さんと一緒のクラスだったんです。白杉さんはいつもあの今井さんを教室まで送って凄いなあと思っていました。前に一度、白杉さんとはお話した事があるの、覚えてませんか?』


当時、麗がいた三年A組のほとんどの生徒が麗を無視していたので、放送委員長の千夏くらいしか覚えていない。


『……え、えっと……。』


『文化祭の時に車イスの昇降機体験をしていたんだけど。』


『あ!あの時の……。思い出しました。』


それまで車イスの昇降機は知香が操作していたが、クラス全員が出来る様になったと言っていた男子生徒だったのだ。


『うちは女房と別れてしまいましたが、祐希を引き取り在宅で起業しているので祐希からはよく話を聞いています。まさか、祐希があの白杉さんのお子さんと一緒のクラスになるとは思いませんでした。』


『家事とかはどうされているんですか?』


『仕事の合間になんとかやっています。』


在宅とはいえ、合間に家事をやる男性は大変だと思う。



そんな日の昼に事件は起こった。


給食は机を付けて班毎に食べるのだが、楓の向かいに座った太陽がぼそっと言った。


『楓の母ちゃん、男なんだって?』


太陽がその後二言三言楓に言ったところで楓の箸の動きが止まり、無表情で立ち上がった。


(まずい!)


教壇で給食を食べながら教室全体を注視していたいずみも突然スイッチが入ってしまった楓には間に合わず、見ているしかなかった。


楓は先ず、飲んでいたスープ皿を太陽に投げ付け、さらに先割れスプーンを持って太陽のそばに近付いた。


『だめ!かえちゃん!』


『楓ちゃん、止めて!』


あかりとさやが叫んだが、楓の耳には届いていなかった。


楓が太陽にスプーンを振り上げようとした時に、祐希が楓に体当たりした。


『楓、止めろ!』


我に返った楓は大泣きし。そのままあかりたちが保健室に連れていった。


『熊田、お前なんて事を言うんだ?』


『だって、あいつの母ちゃん男だったってうちの母ちゃん言ってたもん。』


小学三年生くらいの、特に男の子は自分の思った事をそのまま言ってしまうのだ。


『そんな事を言ったら、うちの父さんなんか男のまんまなのに母さんの仕事もやっているんだぞ!』


『熊田くんはとにかく体操着に着替えて。火傷はなかった?』


『熱くはないけど……。』


これは知香にも熊田の母にも連絡しなければならない事件である。


いずみは頭を抱えた。


『大変申し訳ございません。』


よりに寄って太陽の母・熊田梨香はPTAの集まりで楓に難癖を付けたあの女性だった。


『高木さん、こういう事が予想出来たにも関わらずお子さんを他の子と一緒のクラスに入れるなんて、どういう事なんですか?即刻、施設に送り返して下さい!』


もの凄い剣幕で知香に詰め寄り、知香は帰す言葉もない。


『大体、あなたみたいな人が子どもなんて育てられる訳ないのよ。』


『熊田さんのお気持ちは最もですが、今の言葉はいくらなんでも高木さんに失礼ではないのですか?高木さんは保育士もされていましたし。』


いずみはなんとか知香を庇う。


『あら?大森先生はうちの太陽より誰が生んだだか分からない暴力を振るう子どもの方が可愛いとおっしゃるんですか?昔からの知り合いだから依怙贔屓しているのではないですか?』


いずみのひと言は却って火に油を注ぐ結果となってしまった。


『……あの……。』


知香が顔を上げて、梨香に楓を転校させる旨を伝えようとしたが、いずみが制して先に発言する。


『とりあえず3日後にPTAの緊急召集を致します。その場で私も含め、処分に付いて他の皆さんからの意見を聞きたいと思います。ご面倒をお掛けしますが、今日のところはお引き取り願えますでしょうか?』


『あなたも首を洗って待っていなさいよ。』


捨て台詞をはいて梨香は部屋から出ていった。

三男が中学生の時、クラスや部活に馴染めず不登校になりましたがそれもあり妻がモンスターの母親から攻撃を受けました。


大小の差はありますが、結構モンスターペアレントって身近にいると思います。

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