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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
未来編
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知香と楓のお引っ越し

知香と健介、楓が家族となって4年の月日が流れていた。


この春、楓は小学三年生になる。


『あらかた片付いたわね。』


『お義母さん、ありがとうございます。』


山梨の大学病院勤務のために一家は結婚以来社宅に住んでいたが、この度知香と健介の地元であるF谷市に戻る事になり、健介の母・房江が引っ越しの手伝いに来ていた。


新居は、健介の実家に程近い庭付きの一軒家である。


『良いのよ。楓ちゃんに会うのが目的なんだから。ね、楓ちゃん。』


『うん、お祖母ちゃん。』


楓は、最初こそ無口で誰にも心を開かない子どもだったが、今では誰とでもしっかり挨拶も会話も出来る様になっている。


『あら、知香さん。その傷はどうしたの?』


知香の額にアザが出来ていたのを房江が見付けた。


『あ、引っ越しの荷物を持ったら躓いてしまって。』


『ダメじゃない。いくつになっても顔は女の命なんだから。知香さんらしくないわ。』


同居をしていない事もあるが、房江と知香の嫁姑関係は良好である。


『すみません、気を付けます。』


知香の傷が楓の癇癪で付いたものだとは房江には言えなかった。


『楓ちゃん、お庭を見てごらん。』


房江に言われ、楓が庭に出ると丸太で作ったブランコがあった。


『わぁ~!』


『お義母さん、すみません。』


健介の父・大介が楓のためにわざわざ買ったものだ。


『良いのよ。お祖父ちゃん文句ばかり言ってるけど、あなたたちが帰って来るのが嬉しいんだから。』


大介は市内にある森山記念病院の院長だが、この病院には元々形成外科はなかった。


知香に会うまで大介は健介同様性同一性障害に否定的な見解だったが、今では良き理解者となっていて、健介が形成外科医として性別適合手術(SRS)の技術を学ぶと、森山病院でも形成外科を新たに開設しSRSを行なえる施設を整えて今回3人を呼び寄せたのだ。


『お祖父ちゃんも知香さんのお陰でずいぶん丸くなったのよ。』


『そうみたいですね。』


大介は泣く子も黙る強面院長として恐れられているが、知香や楓の前では好々爺になる。


『今日は引き継ぎと送別会で健介さんは山梨に泊まるので明日改めて3人で伺います。』


SRSだけでなく怪我や火傷を修復する形成手術も数多くこなし、山梨でもかなり引き止められた様だが、この一家には別に山梨を離れたい事情があるのだ。


『それじゃあね、楓ちゃん。』


『ばいばい、お祖母ちゃん。』


ブランコに乗ったまま、楓は手を振った。


『楓、学校に行くよ~。』


4月から楓が通う坂東小学校に市役所でもらった転入学通知書を提出に行かねばならない。


坂東小学校は健介の母校で、新居から歩いて10分ほどである。


『桜がきれいだね。』


『うん、きれい。』


久し振りにこの街に帰ってきて昔、桜をバックに撮影会をした事を思い出した。


『後で写真撮ろうね。』


『やったー!』


のんびり歩いて学校に到着したが、春休みなので生徒も職員もほとんどいない。


『チカねえ!』


校門から事務室に歩いていると懐かしい声が聞こえた。


小学生の頃から知香を慕っていた大森いずみである。


『いずみちゃん!……今は大森先生だね。新学期から宜しく。』


『良かったよ、ちょうど今日当番だったから。今日あたり来ると思っていた。』


いずみは大学卒業後、小学校の教師となり、F谷に戻っていた。


『こんにちは、高木楓さん。今度高木さんの担任になる大森いずみ先生です。宜しくね。』


『い……先生、担任って?』


始業式までは新しいクラスや担任は生徒や親に漏らしてはいけないのだが、いずみははっきり自分が楓の担任になると言った。


『ホントはまだ教えちゃいけないんだけどね。ここだけの秘密。』


楓の担任がいずみなら少し安心だが、そう喜んではいられない。


『先生、うちの子、問題があるんですけど。』


『聞いてますよ。それに姉貴から楓ちゃんを引き取った経緯も教えてもらったし。』


いずみの姉で知香の親友ののぞみは大学を卒業して大手出版社の編集者となり、その後結婚して上野姓になっている。


『高木さん、なにも心配ないからね。困った事があったら先生に言ってね。』


『はい。』


いずみはそう言うが、それでも知香には不安である。


『先生。今日、うちに来れません?』


『春休みだし夜は空いているから良いですよ。』


『楓の事、詳しくお話したいのでお願い致します。』


学校でなにかあってからでは遅いのである。



夜、スマホの地図で知香の新居の場所を確認をしながらいずみがやって来た。


『どうぞ、まだ片付いていませんが。』


『失礼致します。』


リビングの端にはまだ開けていない段ボールが山積みになっている。


『大森先生、こんばんは。』


『進藤さん?』


いずみが中に入ると、雪菜と、今度五年生になる娘のなずなが来ていた。


『今日はまだごはん作れないから弁当持ってきてもらったの。先生の分もあるから、食べながら聞いてくれますか?』


弁当はスノーホワイト自慢のハンバーグが入っていた。


『大森先生、こんばんは。』


『進藤さん、こんばんは。』


姉の親友で近所の有名レストランの2代目店主である雪菜とその娘のなずなの事はいずみも当然知っている。


『なず、楓ちゃんと向こうの部屋で遊んでいてくれる?』


『はい。楓ちゃん、ママたち大事なお話があるんだって。楓ちゃんのお部屋で遊ぼ。』


『うん。』


保育園の受け持ち園児だったなずなは、知香が帰省する度に楓の面倒を見てくれていた。


『チカねぇ、話って楓ちゃんのPTSDの事ですよね。』


知香が言い出す前にいずみが話を切り出した。


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