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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
未来編
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3人の結婚式

知香と健介の結婚式の当日になった。


楓は児童相談所からの許可があり、もう二人の子どもとして社宅で暮らしているが、まだ裁判所から正式な決定はだいぶ先になる。


それでも手術を受けるまで長い時間を掛けて女性として認められた知香にとって、裁判所の決定はどうでも良いと思った。


『私は知香としてずっと生きてきたし、楓はすでに高木楓として生きているんだから。誰がなんと言おうと楓は私がお腹を痛めて産んだ子なの。』


由美子の励ましを胸に、今日まで、そしてこれからも楓を愛娘として育てる思いは生涯変えない決意である。


知香は、萌絵がデザインした胸を強調するウェディングドレス姿でチャペルに立った。


『高木健介。あなたは白杉知香を妻とし、いかなる時も妻を愛する事を誓いますか?』


『誓います。』


『白杉知香。あなたは高木健介を夫とし、いかなる時も夫を愛する事を誓いますか?』


『誓います。』


『それでは、指輪の交換を。』


緊張の瞬間である。


こうして知香と健介は長い交際を経て、晴れて夫婦となったのである。


披露宴会場は二人の地元のホテルで、以前麗の父・源一郎とこのみの母・康子が式を挙げて以来、雪菜と恭太郎や麗とリカルドなどがこの式場で披露宴を挙げている。


『皆さま、本日は誠におめでとうございます。大変長らくお待たせいたしました。ただいまより、新郎新婦が入場いたします。皆さま、どうぞ盛大なる拍手でお迎えください。』


音楽が始まり、扉が開くと健介と、楓と手をつないだ知香が入場して席に着いた。


知香は、楓の顔を見るが、大好きな母と一緒にお姫さまになった楓は満面の笑みを浮かべている。


『私は新婦の学生時代に一緒に仕事を致しましたシナノテレビアナウンサーの田中早苗と申します。本日はこの様な大役を賜り、誠に光栄でございます。どうか、最後まで宜しくお願い致します。』


司会は喋りのプロである早苗にお願いした。


『さて、最初にお二人の経歴をご紹介する前にお二人の間におります可愛い女の子のご紹介をさせて戴きます。』


知香は、早苗との打ち合わせの時に最初に楓を紹介してほしいとお願いしていた。


『新婦は令和6年7月にタイ・バンコクにて性適合手術を受けたトランスジェンダー、LGBTです。新婦は新郎と学生時代からの長い交際を経て今日の結婚式に至りましたが、子どもを作る事は出来ません。新婦は学生時代から保育士になりたいと思うなど、子どもが大好きでありながら自分で子どもを作る事が出来ない身体なのです。ある日、新郎が里親制度を利用して二人の子どもを養子縁組で迎えようと発案致しました。そこで児童相談所から紹介されたのがここにいる楓ちゃんです。』


早苗の紹介は最初から参列者を驚かし、泣かせた。


ここで楓が立ち上がった。


『高木楓です。ここにいるパパとママと一緒に幸せになります。』


大勢の人前で堂々挨拶をした楓を知香は労った。


『楓、偉かったよ。よく頑張ったね。』


早苗の演出に、参列者の涙腺は軒並み崩壊した。


『最初からこれやったら最後まで持たないんじゃない?』


『良いさ、徹底的にやれば。』


新郎新婦の二人は、式がどの様に盛り上がるか楽しみになった。


『どうぞ、新婦さん。』


高校時代の健介の少ない友人である福島がビール瓶を持ってやって来た。


『ありがとう、福島くん。』


『おい、あんまり飲ませるなよ。』


知香は由美子を反面教師にして普段はあまり酒を飲まないが、だんだん良い気分になってきた。


『まずいな、この調子じゃ。』


健介は早苗を呼び、このままでは知香が酔い潰れてしまうので、お色直しの時間を早める様要請した。


『ただいまより新婦がお色直しのために暫く中座させて戴きます。』


知香は楓と一緒に控え室で少し頭を冷やした。


『ママ、大丈夫?』


『うん、ごめんね。飲み過ぎちゃった。』


少し休んで知香と楓はカラードレスを着て式場に戻る。


『楓、可愛いよ。本当のお姫さまみたい。』


『ママも可愛いよ。』


楓のひと言が胸に染みる。


扉が開き、拍手の中を二人は歩いて席に戻った。


『さてここで、サプライズゲストをお呼びしています。』


サプライズだから知香が知る由はない。


(一体誰?)


扉が開くと、3月まであすなろ保育園の年長だった子どもたちが入場してきた。


『あ……。』


雪菜の娘のなずなと、性同一性障害かもしれない大斗はお揃いのドレスを着ている。


ピアノの前に座って伴奏するのは園長の尚子だ。


尚子が聞き馴染みのある曲の前奏を始める。


音楽が苦手な知香が必死にオルガンに向かった、あのアニメ映画の主題歌だ。


『歩こう、歩こう♪』


慣れ親しんだ曲だが、ずっと前を見続けて歩いてきた知香にとっては自分のための歌に聞こえる。


『どんどん行こう♪』


隣で楓も歌っていて、知香も一緒に口ずさみ、健介はそれを見て微笑んだ。


(これからも一緒にいっぱい歩こうね。)


これから、どんな生活が待っているかは分からないが、健介と楓の3人で手を取り合って歩いて行こうと思う知香だった。

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