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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
未来編
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夢があれば

知香は毎週楓の元に通い、必死に楓に振り向いてもらえる様努力を惜しまなかった。


お陰で楓の小さな心は少しづつ開いて会話は少ないが持参したケーキは完食し、描いていた絵を見せてくれる様になっていた。


『楓ちゃん、可愛いね。お姫さま?』


楓の描いた絵は童話に出てくるお姫さまが多い。


『……ん……。』


よくは聞き取れないが、肯定している様だ。


『今度一緒にこんなきれいなドレス着てみない?』


知香のその言葉に楓は一瞬目が輝いた。


(やっぱり女の子だな。)


心に傷があるのだろうが、夢があれば前を向いて歩いていける。


それが知香が生きてきた証しでもある。


『ただね、これを着たら私はおばちゃんじゃなくて楓ちゃんのママになっちゃうけど良いかな?パパの名前は高木健介、ママの名前は高木知香、楓ちゃんの名前は高木楓。どう?』


楓は無言で頷いた。


言葉は出なくても心は通じたと思う。


翌週から楓が知香と健介の社宅に泊まる様になった。


社宅は2DKの集合住宅で、幼児ひとりの3人家族ならとりあえず充分の広さだ。


知香は楓を連れて、近くの保育園に子連れ面接に向かった。


『こちらのお子さんは?』


『はい。私は子どもが出来ない身体なので里親制度に申し込んだのですが、今は一時預り中なんです。』


『高木さんは子どもが好きなんですね。でも、こういう子は依存性が高い場合が多いのです。働きながらうちで見ると他の先生や子どもたちと協調出来ずに高木さんばかりに甘えて、高木さん自身も他の子を見られなくなる事が考えられます。うちも即戦力はほしいのですが、今の高木さんには無理じゃないかと思います。』


はっきりダメ出しをされてしまった。


確かに、今楓を保育園に預けるのは無理かもしれない。


少なくとも1年は仕事を持たない方が良いだろう。


『それは当たり前だろう。養子縁組をして直ぐに保育園じゃ育児放棄の親と変わらんぞ。』


健介に言われ、ちょっと無責任過ぎた自分を反省した。


『大丈夫だよ。社宅は安いし、給料だってそこそこもらっているんだからな。』


考えてみれば医者の妻が共働きだなんて健介自身体裁が悪いだろう。



なずなや大斗たちの卒園式が終わり、3月末であすなろ保育園を退職した知香は、お互いの両親に事情を打ち明け入籍だけを先に済ませた。


『ただいま~。』


『お帰りなさい。楓ちゃんもよく来たね。』


知香が結婚する前に突然お婆ちゃんになってしまったが由美子は楓を歓迎した。


『楓、ママの昔の写真見る?』


『……うん、見る。』


楓は、出会った頃の萌絵くらいには会話をする様になっていた。


その萌絵のコレクションだったロリータ服や中学、高校時代の制服姿の写真、文化祭でシンデレラを演じた写真などがパソコンに納められている。


『……お姫さま……。これ、ママ?』


『そう。ママだよ。可愛いでしょ?』


楓はにっこり微笑んだ。


『これは?』


タイで手術を受けた時の写真もあった。


『ママがね、男の子から女の子になった時の写真。』


楓は言葉では知香が元男性だと教えられていたが、それがどういう事だか理解出来ていない。


『これもママ?』


別のフォルダに入れていたはずの知之時代の写真がなぜか出てきた。


『そ……そう。ママが男の子だった頃だよ。』


知香にとって黒歴史には違いないが、楓には嘘偽りのない自分を隠さないでいたい。


『お父さん、帰ってたの?』


『ああ、最近は早くてな。』


真面目一徹の父・博之は昇進してあまり残業をしなくなった様だが、最近は知香がいなくなって寂しいのか、酒量が少し増えている。


『ともも飲むか?』


『うん。』


博之にお酌をしてもらい、知香は一息でビールを飲み干した。


『ビール、美味しいの?』


『ちょっと苦いかな?楓にはまだ早いよ。』


『あんたもそんなに強くないんだから飲みすぎない様にね。』


『お母さんほどじゃありません~。』


酒乱は由美子の方が数倍上だと知香は思う。


『健介くんの方はどうだ?』


『頑張ってるよ。近いうちにMtFのSRSがあるんだって。』


健介もまだ執刀はさせてもらえないが今にSRSもする事になるだろう。


『明日は長野に行くんでしょ?楓ちゃん、大丈夫?』


初めて長野の祖父母や一郎・はずみ夫婦に楓を引き合わせる予定だ。


『ここまで車に乗って全然グズらなかったし、良い子だよ。』


楓の実の両親の事はよくは分からないが、一緒にお風呂に入った時に見た無数の傷は絶対忘れない。


知香は、楓の身体と心の傷をひとつづつ消していこうと思っている。


『楓ちゃん、今日はお祖母ちゃんと寝ようか?』


『やだ、ママと寝る。』


由美子は少し残念がった。


知香は由美子と並んで台所で食器を洗う手伝いをしている。


『お母さん、ありがとう。私、女になって本当に良かったよ。』


『だから違うでしょ?あなたは女の子に生まれて来るはずがお母さんが間違えて男の子になっちゃったの。女になったんじゃなく、最初から女の子だったのよ。それから楓ちゃんも、あなたがお腹を痛めて産んだ子。あなたと健ちゃんの子なの。今までもこれからもずっと。』


『………とう。』


知香は由美子の言葉にありがとうと返事をしたが、言葉にはならなかった。


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