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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
未来編
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大斗の七五三

夕方、大斗の母・詠美が迎えにやって来た。


『いつもありがとうございます。』


『大斗くん、今日も元気でしたよ……。ただ、ちょっと気になる事があるんですけど改めてで結構ですが、時間を少し取れますでしょうか?』


『気になる事?』


知香は詠美の顔を見て心当たりがあるかを読んだ。


(なんとなく大斗ママも気になっているかもしれない。)



週末、保育園は休みだが知香は尚子の許可を得てスノーホワイトに詠美を招いた。


他の先生たちにも秘密の話なので保育園では出来ないからだ。


『大斗くん、一緒に遊ぼ。』


なずなが大斗を自分の部屋に引っ張っていったので席には知香と詠美、雪菜の3人しかいない。


『すみません。なずなママ……進藤さんは私の幼なじみで、今回、なずなちゃんが大斗くんの異変に気付いたのでここにお呼びしました。』


雪菜と詠美はママ仲間で顔見知りではあるが、直接話をする様な仲ではない。


『大斗くん、女の子の服に興味があるんじゃないですか?』


前置きもなく、いきなり本題に入った。


『……そうかもしれません。実は先日、七五三の前撮りでお姉ちゃんと大斗を連れて写真館に行ったんです。』


7歳の姉と5歳の弟だから七五三も一緒に祝うが、最近は前撮りが当たり前となっている。


『大斗には紋付き袴の着物を選んだのですが、どうも機嫌が悪くて、お姉ちゃんの振袖を羨ましげに見ていたんです。』


『ともちと同じだ。』


雪菜がまだ知香の近所に住んでいた頃、7歳の七五三の時に知香に振袖姿を見せたら寂しそうな顔をしていた記憶がある。


『それからだよ。ともちにスカートとかワンピース着せて遊んだの。』


雪菜は知香の原点を暴露した。


『先生?……まさか、ともか先生って男だったんですか?』


詠美にはカミングアウトするつもりではあったが、雪菜に先に言われてしまった。


『きな……進藤さん!話には順番があるんです。余計な事は慎んで下さい。木下さん、隠し立てしていて申し訳ございません。進藤さんが幼なじみと申しましたが、私が女性になりたいと見抜いたのは進藤さんだったんです。私は高校三年生の時に手術を受けて戸籍を変えました。今あすなろでその事を知っているのは園長先生と進藤さんみたいに学生時代に一緒だった一部の親御さんだけです。』


詠美は開いた口が塞がらない。


『木下さん……大斗ママ?』


詠美は我に返り、質問する。


『うちの大斗は、先生の様になるんですか?』


『分かりません。潜在的な思いがあって、今回のきっかけで少し芽生えたかもしれませんし、一過性で終わる事もあります。ただ、ママやパパ、先生といった私たちが大斗くんの可能性を先ず認識する事が大事だと思います。大斗くんもいずれ思春期を迎えます。その時に無理矢理押さえ付けたり逆に性同一性障害と決め付けたりしないで本人がどう考えているか、どうしたいのか共に考えられる環境を今から作る方が良いと思います。』


自分が通った道であり、今もどこに同じ様な子どもがいるか分からないのだ。


知香はせめて、自分が関わった子どもたちの悩みに応えられる存在でありたいと願っている。


『分かりました、ありがとうございます。大斗をともか先生に見てもらえて感謝しています。』


『じゃあ、大斗くん連れてきますね。』


雪菜がなずなの部屋に上がっていった。


『幼なじみって良いですね。』


『進藤さんにはさんざん着せ替え人形にされましたから。自分は着ないのに、お祖母ちゃんが可愛い服ばかり着せようと買ったのをいつも私に着せたんです。』


『そう言えばなずなちゃん、いつも可愛い服着てますよね。あれ、お祖母ちゃんの見立てなんでしょうか?」


詠美の言葉に、知香は一瞬嫌な予感がした。


『こら、なずな!』


2階から雪菜の大きな声がして、知香と詠美がなずなの部屋に上がる。


『やっぱり……。』


大斗がなずなの飛びっきりひらひらのワンピースを着て座っていた。


『可愛い……。』


その姿は保育園で見せるやんちゃ坊主ではなく、可愛い女の子にしか見えない。


『だって、大斗くん、この服似合うと思ったんだもん。』


なずなは雪菜の子どもの頃とそっくりだと知香は思った。


『大斗くん、立って。』


知香はおもむろにスマートホンを構え、女装姿の大斗を撮影する。


『そう、手をこうして……。』


大斗にポーズを指示して、撮り続けた。


『ともか先生、写真撮影が趣味だから。』


詠美は保育園では見せないともか先生の別の顔を見て驚いた。


『これ、帰ったらパパにも見せてお話して下さい。どっちにしても強制はダメですよ。』


知香は詠美に写真のデータを渡した。


『それにしても大斗くん可愛いな。絶対素質はあるよね。』


未発掘のダイヤの原石を見付けた気分だ。



週が明け、大斗が元気よく登園してきた。


『ともかせんせい、おはよう。』


『おはよう大斗くん。今日も元気だね。』


詠美がぺこりとお辞儀をする。


『先生、ありがとうございました。昨日、もう一度写真館で大斗に振袖を着せて写真を撮ってもらいました。写真館の人に事情を話したら七五三の本番の時は振袖と紋付き、どちらでも構わないそうなので本人の意思に任せようと思います。』


大斗がこの先どうなるかは知香にも分からないが、一生の思い出に残る良い七五三になってほしいと願うのであった。

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