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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
未来編
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ともかせんせい

知香は専門学校を卒業した後地元のあすなろ保育園で保育士として働き始め、5年目を迎えていた。


あすなろ保育園は知香が中学の時職場体験をした場所で、当時の中里しのぶ園長は引退し、知香に指導してくれた本田尚子(しょうこ)先生が園長に就任している。


『ともかせんせい、おはよう。』


『おはよう大斗くん、今日も元気だね。』


木下大斗はいつも元気に挨拶をする子だ。


『先生、宜しくお願いします。』


大斗の母・詠美は知香と同じ歳で大斗には2歳上の姉がいる。


詠美自身もともとはF谷出身でなく、結婚を機にこの地に住む様になった。


『分かりました、行ってらっしゃい。』


母親たちは知香と同世代が多いが、詠美みたいに他の土地から引っ越してきた家庭が多く、ほんの一部を除いて知香が元男性だった事を知る者はいない。


『ともかせんせい、おはようございます。』


『おはよう、なずなちゃん。』


『おはよう、ともち。今日もちょっと遅くなるけど頼むね。』


雪菜はその数少ないひとりで、今は結婚をして進藤雪菜となり1男1女を育てながら家業のスノーホワイトを切り盛りしている。


『ここでともちって言ったらダメだって言ってるでしょ。』


知香は小声で雪菜に注意する。


『分かりました、ともか先生、宜しくお願いします。』


知香は年長の5歳児、[うさぎ組]を担当しているが、他の保育園の例に漏れず、保育士は成り手不足で他のクラスの子を見たりしなければならない事もあるので忙しい。


子どもたちの昼寝の時間は連絡帳の書き込みや迎えの遅い子のチェックなどで休むない上に、仕事が終わると園には内緒で雪菜の自宅で営業中の雪菜に代わりなずなの面倒を見ている。


『ともか先生、ちょっと宜しいですか?』


園長の尚子に呼ばれた。


『毎日、忙しいでしょうけど、身体は大丈夫ですか?だいぶ疲れている様に見えるんだけど。』


自分ではそう感じていなかったが、その様に見られるという事は疲れが溜まっているのかもしれない。


『ホルモンの影響とかもあるんじゃないですか?ともか先生は子どもたちからも人気があるし、親御さんたちの評判も凄く良いので逆に無理をしていないか心配です。』


知香の過去を知る先生は園長の尚子以外にいないが、職場体験の時にひとりの園児にのめり込み過ぎた事もその後知香がうつ病になった事も尚子は知っているので、知香の動向には常に気を使ってくれている。


『すみません、気付きませんでした。』


『本当に気を付けてね。私もともか先生があすなろに来てくれて嬉しかったんだから。』


あすなろ保育園には他に男性ひとりと女性5人の保育士、それに夕方のみのパートタイマーの保育士がふたりいる。


夕方はパート保育士の他に正保育士がいなければならないので、その日は昼出勤で遅くまでの勤務となる。


『ともちの仕事も大変だよね。うちの方は翔馬も手が掛からなくなってなずの面倒も見られる様になったから大丈夫だよ。』


雪菜の子どもたちは親の仕事中知香がしっかり教育しているので真面目で素直だ。


『えー、先生うちに来なくなるの?やだよ~。』


赤ちゃんの頃からずっと面倒を見てきているなずなにとって、知香は乳母の様な存在であるから来なくなるのは寂しい。


『大丈夫よ。なずたちが可愛いから来てるの。これからも一緒。』


ほっとした表情を見て、子どもを産む事が出来ないもどかしさを感じる知香であった。


『そうだ、今度の土曜日先生と一緒に山梨に行かない?きな、二人を連れてっても良いかな?』


『ともちなら全然平気だけど。』


大学を卒業して単身で山梨の病院に勤務している健介のところには月2回の割り合いで訪れているが、まだ一人立ちの出来ない健介とはその後の進展はゆっくりしていて、その間に友人の多くは結婚して子どもも産まれている。



『翔馬はもう普通にシートベルト出来るから。なずはジュニアシート使って。』


前に知香が二人を連れ出した時はまだ翔馬がジュニアシートでなずなはチャイルドシートを設置して乗せていた。


『子どもが大きくなるのは早いね。』


高速に乗り、途中のパーキングエリアでは名物の狭山茶ソフトクリームを3人で食べたりしながら楽しく移動する。


高速道路を降りて、フルーツ農園が並ぶ道路を行くと急な坂になった。


『先生の田舎は長野だけど、こんな坂ばっかりだよ。』


目の前には盆地が広がり、その先には富士山が見える。


『わぁ、大きい!』


『ここって温泉なの?』


手作りの看板に温泉マークが書かれているので、なずなにも温泉だというのが分かった。


『そう。露天風呂から富士山が見られるの。翔くん、一緒に入る?』


翔馬は9歳なのでぎりぎり女湯に入る事が出来る。


『良いよ。僕ひとりで入れるから。』


知香はなずなと二人で女湯に入った。


『凄~い。富士山見ながらお風呂だ。』


知香は健介のところに来る時はよくこの温泉を利用している。


『ともかせんせいって昔男の子だったんでしょ?』


『なず、知ってたの?』


『うん。お母さん、お兄ちゃんにも友だちにも絶対言っちゃダメだって教えてくれたの。せんせい手術して女の子になったんだって。』


雪菜はいつも余計な事は言うが肝心な事は教えない。


(うっかりなずが他の子に言って騒ぎになったらどうするの?)


なずなは賢いから大丈夫だとは思うが親の雪菜の方が危ないと思う。


『手術って痛かった?』


『うん、凄く痛くて死ぬかと思ったよ。でもね、女の子になれたから今こうしてなずと一緒にお風呂入れるんだよ。』


『良かったね。』


本当になずなは素直で良い子だ。


『せんせいが女の子になれたのってきな子……なずママのお陰なの。せんせいが男の子だった頃も女の子の友だちとして遊んでくれたから。』


今でも雪菜は一番の親友で恩人だと知香は思っている。


『そうなんだ。……大斗くんもそうなのかな?』


『大斗くん?まさか。』


これまでも知香は異性になりたいと思う子どもを何人か見てきた。


その子が将来性同一性障害になるかは分からないが、そういう子どもに対しては自分の素性を明かした上で親には子どもの思いを充分受け止める様にと話している。


しかし、いつも元気な大斗が女の子になりたいという願望があるとは知香は見抜けなかったのだ。


(健ちゃんに聞いてみよう……。)


富士山を眺めながらそう思う知香だった。

一気に話が飛びました。


知香たちは25歳になり、雪菜には二人目の子どもがすでに年長さんという設定です。


これから最後までは、この子どもたちが物語の中心になるので知香たち同様に宜しくお願いします。

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