教習所に行こう
自動車教習所に通うために必要な住民票の写しを交付してもらうために市役所を訪れた。
窓口があり、その前にある記載台で必要事項を記入し提出、番号札をもらってその番号が呼ばれたら交付手数料を払って写しをもらう。
窓口の担当から、写しの内容に誤りがないか確認を求められる。
[氏名 白杉知香 生年月日 平成18年5月22日 性別 女 世帯主 白杉博之 続柄 長女 住所 埼玉県F谷市○○町…… 本籍埼玉県F谷市○○町……筆頭者 白杉知香 令和6年9月7日改製]
教習所に提出する住民票の写しは本籍記載で本人のみのものだが、住民票には知之は博之の戸籍から除籍された上で新たに知香として戸籍が作られた事が分かり、続柄はしっかり長女となっている。
こうして公の書類に長女と表記されているのを見ると、じわじわ来るものがあった。
翌日の放課後、知香はみどりと共にバスでS扇駅の教習所に行く乗り場で送迎バスを待った。
『ここで待っていれば良いの?』
乗り場には他に3人の教習生らしき人がバスを待っている様だ。
バスが到着し、教習が終わって帰る教習生がバスを降りた後に二人はバスに乗り込む。
教習所に到着して、先ずは入所手続きだ。
二人は事前にネットで入所申込みを終えていたので、住民票の写しや新しい保険証とみどりは親権者のサイン、押印をされたローン契約書、知香は一括払いの現金を出した。
『現金一括なんて凄いね。』
『手術のためにテレビ出演で貯めた分だからね。もうこれで終わりだよ。』
手続きを終え、別室で二人は先ず視力などの適性検査を受け、教本や教習カード、時間割表などがセットになったクリアケースをもらって、教習の説明を受けた。
『お二人はATの普通免許ですから第一段階は所内のコースで技能を12時間、今日受ける学科の他に9時間受けて戴きます。ただし、教官の判をもらわなければ先に進めません。学科は授業中に寝ていたりお喋りしていると判は押しません。学科の授業は時間割の通りですからご自分のスケジュールに合わせて上手く受ける様にして下さい。』
技能と学科をバランスよく受ける事が短期間で効率よく第一段階の効果測定に進めるコツだ。
『効果測定で合格すると仮免許の学科試験、技能検定があり、仮免許が交付されて路上教習に入ります。学科では救護教習、技能には高速教習も含まれます。卒業検定で合格したら免許センターで試験を受けて晴れて免許取得となります。』
聞くと結構大変だが、交通規則を守って安全に車を運転するための免許なので当然の事である。
『頑張って一緒に免許取ろうね。』
『うん。』
二人は決意を新たにした。
帰りに予約を取り、さっそく翌日は初めての技能教習だ。
『白杉知香です、宜しくお願いします。』
『教官の倉田です。初めてだね。ま、固くならないで。最初は車に乗る時に必ずする確認だからね。』
倉田は少しスケベそうな細面の中年男性教官だ。
(いざとなったら元男です、って叫ぼうかな?)
稀にそういう教官もいるかもしれないがいちいちセクハラをしていたら首がいくつあっても足りないだろう。
『車に乗る時は後ろから来る交通に充分気を付けて。』
ドアを開け、初めて運転席に座った。
前日自宅で由美子から多少のレクチャーを受けたのでさほど緊張しない。
シートを合わせ、ベルトを締めルームミラーとドアミラーを調節して準備は完了した。
『出来ました。』
『はい、エンジンを掛けて。』
エンジンキーを回すとエンジンが始動し、同時に緊張感が高まる。
『今日は外周だけね。後ろをよく確認して、ウインカーを出して発進。』
アクセルを踏むと車は勢いよく動き出しかけたがその瞬間急ブレーキが掛かった。
『いきなり踏み込んだら直ぐ事故るよ。優しくアクセルを踏めば良いの。』
やり直しは上手く出来た。
カーブに合わせてハンドルを切るが、最初なので感覚が掴み辛い。
『そうそう。良い感じ。』
ようやく慣れたと感じた頃、50分の技能教習は終わった。
『最初はみんなそんな感じだから。今日はサービス。』
サービスのひと言は余計だったが最初の判子はもらえた。
『ありがとうございます。』
技能に若干難があっても、教習を受ける態度が良ければ印象度で判子をもらう事もある。
特に倉田は可愛い女子高生には甘いかもしれないと知香は感じた。
『どうだった?』
みどりも初めての技能教習を同時に受けた。
『女性の教官で厳しそうな感じ。汗かいたよ。』
共に最初だからおまけで判子を押してもらった感じだ。
『これから大丈夫かなあ?』
みどりが早くも弱音を吐いた。
『みんな最初はそうだって。頑張ろう。』
知香とみどりの運転免許への道は始まったばかりである。




