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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
女性化編
279/304

ご先祖さまがやって来た!

長野駅に着くと俊之と一郎、はずみが迎えに来ていた。


『とも、お帰り。あれ?村西!お前も一緒に帰ってきたのか?』


陽平と同級生の一郎が陽平を見て驚いている。


『一郎くん、知り合いの人?』


当然はずみも知らない。


『同じクラスの村西陽子……今は陽平か。ともと逆のパターンの元女だよ。』


陽平の元の名前は陽子だったのだ。


『余計な事言うなよ。』


『叔母さんから聞いた時びっくりしたけどな。初恋の相手と一緒に手術受けた気分はどうよ?』


一郎が知香が陽平の片思いの初恋相手だとバラした。


『バカな事を言うなって言ってんだろ!』


こういう陽平を見ていると可愛くて楽しい。


『どうもお世話になります。村西の母です。』


一郎と陽平が言い争っている時に陽平の母・清美が迎えに来た。


『この度はいろいろお世話になりまして大変申し訳ございません。』


清美は由美子に深々とお辞儀する。


『良いんですよ。陽平くんも無事手術が終わって良かったです。』


『じゃあ、またな。』


陽平は清美に連れられて自宅に帰っていった。



陽平たちと別れた知香たちは実家を目指す。


『どう?調子は。』


車の中ではずみが聞いた。


『まだ痛いよ。でも手術した直後はホント死ぬかと思った。』


『それにしてもずいぶん胸大きくなったんじゃない?』


やはりFカップだと目立つ。


『うん、はずみんに負けたくなかったから。』


知香の胸ははずみよりも明らかに大きくなった。


『ともがそんなに巨乳好きだったとはなぁ。』


ハンドルを握りながら俊之が言う。


『お祖父ちゃん、セクハラだよ!』


さすがに知香も俊之の軽率な一言に怒る。


車が到着すると、祖母の佐知子がいつもの優しい笑顔で出迎えてくれた。


『ただいま、お祖母ちゃん。』


『お帰り、とも。』


今日は毎年お盆恒例の天ぷらを食べながら知香の報告会になる。


『お盆だし、ご先祖さまに挨拶してきなさい。』


『は~い。』


両脇に盆提灯が飾られた仏壇に手を合わせる。


(ご先祖さま、知香です。ご先祖さまから戴いた大切な身体を弄ってしまい、もう子どもも作れなくなってしまいました。申し訳ございません。)


知香は去勢して子孫を絶やしてしまう事をご先祖さまに詫びた。


一郎は坂井姓なので白杉家としての血筋は途絶えてしまうのだ。



その晩、知香の前にひとりの女性が現れた。


『……知香、……知香……。』


『はい?』


知香が起き上がると、目の前には知香と顔は瓜二つで三つ編みでお下げ姿にセーラー服を着た女子高生というより女学生が立っていた。


『ご先祖……さま?』


知香はその女学生が自分の先祖の幽霊だと直感した。


『私は知香の曾祖伯叔母(そうそはくしゅくぼ)の節子と申します。』


『そうそはく……?』


『知香の曾祖父の妹、簡単に言うと祖父である俊之の叔母に当たります。』


よく分からないが少し遠い親戚の様だ。


『私はあなたに呪いを掛けてしまい、その結果血筋を絶やしてしまうという失態を犯してしまいました。あなたにも一族にも申し訳なく思っています。』


『呪い?私、呪われてたの?』


突然呪われてたと言っても訳が分からない。


『実は、私には好いた男子(おのこ)がいて、それはもう美男子でしたが、少し女々しいところがあったのです。』


自分の子どもの頃みたいだと置き換えれば良いのだろうか?


『村の夏祭りで田舎歌舞伎をやる時は必ず女形になり、村中で大評判になっておりました。私はそのお方の妖艶さに衝撃を覚え、惚れてしまったのです。』


文化祭でシンデレラをやった感じかなと思う。


『はしたないと思いつつ、私の想いを恋文にしたためました。私の想いはそのお方に通じて密かにお付き合いをする様になったのですが、それも長くは続きませんでした。時節柄、そのお方に赤紙が届いたのです。』


赤紙……正式には召集令状といい、戦争中、これが来ると軍隊に兵役として駆り出されていくものだと勉強していた。


『そのお方は私にだけ戦争には行きたくない、本当は女子(おなご)になりたかったと泣き崩れました。しかし、その願いが叶う事なく兵役に行かれたのです。』


『嫌な時代でしたね。まさか、その人が帰らない事を怨んで子孫に女の子になりたい男の子が出来る様に呪ったんですか?』


だとしたら逆怨みである。


『そのお方は生きて帰ってきたのですが、私がその前に流行り病で死んでしまいました。』


(だから女学生の姿なのか。)


『で、その人の消息はどうなったんですか?』


『戦後、無事に帰って参りました。その方は私の事などすっかり忘れ、東京に出来た女装の秘密結社みたいなところに出入りする様になりました。そのまま長野に帰らずそこで娼婦みたいな事をする様になって。悔しくて男なんてみんな女になれば良いなんて草葉の陰でずっと叫んでいました。そこで生まれたのがあなたなのです。』


『お父さんとか、いっちゃんとか他にも男性がいるのになんで私だけなの?』


それなら自分だけでなく、生まれた血筋はみんなそうなってしまう。


『それはあなたのお母さんの方にもその様な呪いとかがあったのでしょう。残念ながら私の呪いの力は大したことがなかった様です。』


なんだか取って付けた様な話だが、わざわざお盆にご先祖さまが帰ってきたのだから少しは信じてみよう。


『節子さん、私は呪われたなんて思っていませんよ。むしろ感謝しています。』


『あなたはこの様な境遇に生まれて、不幸だとは思わないのですか?』


せっかく呪ったのに感謝されるなんて拍子抜けだ。


『だって、他人(ひと)が出来ない体験が出来たんだもん。そりゃ、嫌な思いもしたし、痛かったけど。友だちもいない男の子だった自分が女の子になっていっぱい友だちも出来たし彼氏もいるから、全然大丈夫です。』


節子は親族を呪った事を後悔した。


『あなたが白杉の姓を名乗る最後の子孫になるから寂しいけどね。最後まで面倒見てもらえるかしら?』


『分かりました。毎年ここに帰って供養します。なんだったら憑依でもして令和の女子高生生活をしてみませんか?』


『遠慮するわ。来年の報告を楽しみにしています。』


節子はそう言って枕元から消えた。


朝、目覚めた知香は夢ではなく本当にお盆で帰ってきた先祖のひとりだと思った。


(節子さん、来年も帰ってきて下さいね。)


知香はそう祈りながらおがらを焚いて節子を見送った。

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