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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
女性化編
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呉越同舟の帰省

京香が帰国して1週間、ついに知香たちも治療が終わり帰国の日がやって来た。


『そのまま長野に行くんだよね。』


日本はちょうどお盆の時期である。


博之も帰省しているし、俊之や佐知子が待ちわびているので羽田から直接長野に行き、週末のテレビ出演まで滞在する予定だ。


『そう、陽平くんも一緒だからね。』


陽平は夏休みに入って直ぐ単身バンコクに来た。


帰りくらいは親族が羽田か東京駅くらいまで迎えに来ても良いと思うがお盆で忙しくて都合が付かないのだ。


『家族があまり理解してくれないんじゃないの?』


『ともちゃん!』


家族の理解があるからこそ自分の望んでいる性になれるのだから、安易に口走る言葉ではないと由美子に怒られた。


『普通は3週間も親が付き添いでいるなんてないんだからね。』


由美子も会社が許可してくれたから休めたが、そうそう長期間休む訳にはいかない。


『でも、飛行機は一緒じゃないよね。』


『便は違うけど、だいたい同じ時間だから税関を出た辺りで待ち合わせすれば大丈夫よ。』


智美も帰りの仕度が終わり、部屋にやって来た。


『いろいろ大変だったけど、最後となると寂しいね。』


手術した部分はまだ痛みが残る。


『陽平くんは準備出来たかな?』


由美子が呼びに行こうとした時にちょうど陽平が来た。


『忘れ物ない?』


『ああ。』


相変わらずぶっきらぼうな感じだ。


『ハーフの子はいないの?』


陽平はアイの事をハーフと言ったのだが、トランスジェンダーである知香も陽平も別の意味でハーフだ。


『こっちが少し落ち着いたから3日前から実家に帰ってるわよ。空港で落ち合う事になっているの。』


『遅くなってごめんなさい。別の子の手術に立ち会っていたから。』


アテンド会社の綾音が走って来た。


『忙しいですね。まだフライトまで時間あるから慌てなくても大丈夫なのに。』


『いえ。今回はお母さんやアイちゃんに助けられて楽させてもらったし、最後くらいちゃんとお見送りしなきゃ。』


『アイちゃんは直接空港に行くそうなので、代わりにこの子も一緒に宜しいでしょうか?』


『他のアテンド会社で申し込んだ子ね。本来は駄目だけど、今回は特別よ。』


アテンド会社にもいろいろあるが、空港と病院の送り迎えをちゃんとしてくれる会社もあればオプションだったり最初の迎えだけのところもあるみたいだ。


綾音の運転する車でバンコクの街を走り抜け、空港に到着した。


『みんな、これからは自分の望んだ性で生きていくんだから辛い事もあるだろうけど頑張ってね。』


『綾音さん、ありがとうございました。』


また綾音は別の患者の元に帰っていった。


『大変だけどやりがいがありそうな仕事ね。』


これからも性同一性障害の患者は増えるだろうが、日本でももっと理解が深まり手術のハードルが下がればと知香は思った。


知香たちが乗るタイの航空会社の便と陽平が乗る日本の会社の便は10分違いで、ほぼ同時に搭乗案内のアナウンスがされた。


『陽平くん、また羽田でね。』


『はい、宜しくお願いします。』


由美子は陽平を手懐けているみたいだ。


『お母さん、あの子に甘くない?』


『ともちゃん、嫉妬しているの?』


図星を突かれた。


『ともちゃんはお母さんもアイちゃんもみーちゃんもいるじゃない?陽平くんはずっとひとりだったのよ。さっきお母さん怒ったけどね、あの子の話を聞いてやっぱりお父さんとかに猛反対されたんだって。でもテレビでともちゃんを見て自分も頑張んなきゃって何度も助けられたって言ってたわ。』


知香は陽平の心の支えだったと由美子は言った。


『陽平くんの男の子になりたいっていう気持ち分かるけど、盛ってない?私を見て助けられただなんて。』


いくらなんでも大げさだと思う。


『そんな事ないみたいよ。ともちゃんがうつになった時、テレビを暫く休んでたから凄く心配してたって。』


『でも、うつになった事はテレビで言ってないよ。』


『いっちゃんに聞いたんだって。知香はどうしたの?って。最初は誤魔化してたんだけど隠しきれなくなったみたいよ。でね、戻ってきた時泣いて喜んだって。』


陽平は一郎と同じ学校なだけでなく、かなり親しい友だちの様だ。


『そこまで感動したくせにいざ会ったらへなちょこ呼ばわりするかな?』


『陽平くん、ツンデレなのよ。いっちゃんにともちゃんの事気になるって言ったら彼氏がいるって言われて結構落ち込んだらしいわ。だからあんな態度取ったんじゃないかな?可愛いじゃない。』


勝手に好きになって彼氏がいると分かったら掌返しをされるなんて良い迷惑だ。


『でも、同じ日にともちゃんは女の子になって、陽平くんは男の子になったんだから良い友だちになれるわよ。』


確かに一郎の友だちという事もあって妙な因縁を感じる。


(恋愛感情はこれからもたぶんないだろうけどね。)


知香たちは無事羽田に到着し、陽平と合流して私鉄で品川に移動した。


『みーちゃん、これからも頑張ろうね。』


知香たちはJRに乗り換えるが、智美はここから始発の別の電車に乗り換えるためお別れだ。


『ちーちゃんも元気で。来年もタイに行こうね。』


東京駅まではアイと一緒に行く。


埼玉の自分の家に帰るならアイと一緒の電車で良いが、知香たちは長野行きの新幹線に乗り換える。


『いろいろ助かったよ。ありがとう。』


『私も久し振りにお祖父ちゃん祖母ちゃんに会えて嬉しかったよ。ありがとう。』


『このまま乗っていけばA尾に着くから間違えないよね。』


『大丈夫、ともちも気を付けて。』


知香たちは電車を降り、ホームでアイを見送る。


『さ、行きましょう。』


新幹線は帰省ラッシュも終わり、結構空いていた。


『なに?なんか付いてる?』


陽平が知香の顔をじっと見ているので気になって仕方ない。


『へなちょこだと思ってたけど、お前意外に可愛いな。』


『なによ今さら?一応私、彼氏いるんだけど。』


『坂井から聞いて知ってるよ。お前より可愛い彼女作ってやるから後で泣いて後悔するなよ。』


いちいち好戦的だ。


『彼女出来たら教えてよ。その子とどっちがおっぱい大きいか比べるから。』


『顔じゃないのかよ?だいたいおっぱいなんか作りもんだろ?』


『顔は勝つに決まってるし。……それにせっかく大きくなったんだから誰かと比べるの当然でしょ。』


ここでも知香はおっぱいの大きさに拘る。


『へなちょこのくせに。』


『早く彼女作ってね。せいぜい応援してるから。』


新幹線に乗っているあいだ中二人はこんな会話を繰り返していた。


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