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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
女性化編
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渡泰の日

1学期の終業式の日になった。


『高校生活最後の夏休みです。過ごし方次第で進路にも影響が出ますので目的意識を高めて有意義に過ごして下さい。』


曽我先生の話が終わり、1学期が終わる。


『白杉さん、宇野さん、ちょっと宜しいですか?』


『はい。』


知香とアイが職員室に呼ばれた。


『白杉さんはいよいよ手術ね。宇野さんも一緒なので言葉の心配はなさそうですが、なにか変わった事があれば連絡下さいね。』


『はい。』


SRSに限らず自分の受け持つ生徒が海外で手術を受けるなど初めてなので心配は尽きない。


『無事に帰ってきてね。』


『はい、ありがとうございます。』


職員室の他の先生たちから拍手が上がり、知香とアイが職員室を出ると紀子やみどりが待っていてくれた。


『どんな話だったの?』


『うん、なにかあったら連絡くれって。』


『壮行会やろうよ。』


みどりが提案する。


『良いよ、またカラオケでしょ?明日出るのに帰って準備しなきゃいけないから。』


準備といっても飛行機は翌日ではなく翌々日の夜中でまだ1日半余裕がある。


それでも今回はおよそ3週間家を空けるし、術後は身体を動かせないから暇潰しのグッズや着替えなどかなり荷物が嵩張るので準備はしっかりしないといけないのだ。



自宅に戻ると制服を脱いで近くのクリーニング店に出し、再び戻って部屋の真ん中に今回のために買った大きなスーツケースを開いて持っていくものを入れるが、今日学校から貰った課題もあり、最初の予想以上に荷物が嵩んだ。


『観光はほとんどしないし、ほとんどホテルで引き篭もるだけだから着替えは減らすか……。でも汗かいたり血で汚れたりするから部屋着はたくさんあった方が良いかな……。』


昨年まで夏休みは続けて長野に長期滞在をしていたが、向こうには自分の部屋もあり、着替えもたくさんあるからそういう事は考えた事がなかった。


結局途中で諦めて母が帰ったら聞く事にする。



『ただいま。』


母の由美子が帰ってきたが、今回は知香に帯同するため仕事は明日から長期で休む事になっている。


職場では知香の事はみんな知っていて、何年も前からこの夏休みに手術を受けるという話はしていたのでスムーズに休みの手続きが済んだ。


『荷物まとまらないよ。』


『旅行じゃないんだし必要なものは向こうで買えば良いのよ。安いお店たくさんあるでしょ?ともちゃんが動けなくても買ってきてあげるから。』


由美子としては自分たちの準備より、3週間残ってひとりで暮らす博之の方が心配である。



それでも翌日は早い時間に必要なものの買い出しに行き、お昼は外で済ませ、夕方には自宅を出発する。


『普段荷物がある時は車だから駅まで歩くの大変ね。』


自宅から駅までは歩いても10分くらいだが、いつも仕事や買い物には決まって車で移動している由美子にはスーツケースを転がして駅へ行く道程が苦痛でならない。


『運動不足は太るよ。』


知香もこれから手術で身体を動かせなくなるが、このところ女性らしい身体作りのために以前は苦手だった運動も積極的にする様になっている。


駅に着いた時は二人ともかなり汗をかいていた。


『羽田に着いたらシャワー浴びたいわ。』


『そんな時間あるかな?』


そう二人で話しながらエスカレーターを上がると、顔馴染みの友人たちが見送りのために待ち構えていた。


『きな、きこちん、二人共お店は大丈夫なの?』


スノーホワイトで働く雪菜と紀子が夕方の忙しい時間なのに二人揃って来ている。


『お母さんが行って来いって言ってくれてさ。これ、後で食べて。』


雪菜が差し出した箱には店で出しているサンドイッチが入っている。


『ありがとう。空港で待っている時に食べるよ。』


女子に混じって健介も駆け付けてきた。


『今、神社行ってきた。』


健介からお守りが手渡される。


『……ありがと。……無事、女の子になって帰ってくるから。』


『それじゃ高木くんも一緒に行かなきゃ!』


知香の言葉に回りが冷やかした。


『別に深い意味はないから!』


『良いねぇ、3年近く付き合っていても新鮮で。』


高校三年生になり、知香の友人たちもかなり付き合っている相手がいてこの二人より進展している者も多い。


『物理的な事情だから仕方ないじゃない……。』


『ともちゃん!』


隣に由美子がいるのを忘れて、つい口走って怒られた。


改札で友人たちに送り出され、高校通学でいつも利用しているO宮駅のバス停でアイと待ち合わせた。


『白杉さん、申し訳ございませんが宜しくお願い致します。』


『こちらこそ。言葉も分からないのでアイさんがいて心強いです。』


『知香ちゃん、頑張ってね。』


『はい、ありがとうございます。』


アイの母・祥子の見送りを受け、知香たちは羽田行きの高速バスに乗り込んだ。


『アイはバンコクに帰るの初めてなの?』


『1回だけある。でも家族4人だから飛行機だけでも大変。』


LCCが飛ぶ様になり価格破壊が続く航空業界だが、出稼ぎで妻の実家に居候している家族が揃って帰るには安くない金額だ。


アイは日本で進学し通訳士になって両親やタイの家族を楽にさせたいという想いがある。


『私なんか自分の事しか考えてないから尊敬するよ。』


『ともち、私なんか言ったらだめ!』


アイはうつになった事のある知香を嗜める友だち想いでもある。


『ありがとう。』


夏休みで満員のバスは一路羽田へと向かっていった。

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