大人にチェンジ
1学期の中間試験最終日は5月22日でちょうど知香の18歳の誕生日であった。
2022年より18歳が成人年齢となっているため知香も晴れて大人の仲間入りとなる。
『試験も終わったし、今日ともちの誕生日祝いしない?』
紀子が提案した。
『どこでやるの?』
『O宮のカラオケルームにしようよ。』
歌が苦手な知香はカラオケへ誘うといつも渋る。
『良いじゃん、たまには。ともちは歌わなくて良いからさ。』
苦手だからといって自分が歌わずに他人の歌を聴くだけというのも面白くない。
『自分が歌いたいだけなんじゃない?』
紀子は声優になるべく歌や発声の練習を続けていて、ことある毎にカラオケに誘ったり、ひとりカラオケをする事もある。
『まあね。今日は誕生日祝いだからともちの分持つよ、行こう。』
結局、知香は折れてカラオケルームに行く事になった。
健介たちも揃ってバスに乗り、駅前のカラオケルームに向かう。
『予約した高野です。』
(わざわざ予約?)
どうも用意周到な感じだ。
『さ、主役はこっち。』
知香は上座に座らされる。
『はい、高木くんは隣。』
『なんで俺が知香の隣なんだ?』
相変わらずこういうのが苦手な健介である。
『じゃあ俺が隣に……。』
『あんたは空気読みなさい!』
知香の隣に座ろうとした福島がみどりに襟首を掴まれ放り出され、恥ずかしそうに健介が座った。
暫くするとそれぞれオーダーした飲み物と共にバースデーケーキが運ばれる。
『なにこれ?』
まさかカラオケルームでケーキが出されるとは知香は思わなかった。
『ここ、予約すればケーキも特注で出来るってネットで見たの。ちゃんと蝋燭18本立ってるでしょ?』
好美が蝋燭に火を着け、アイが室内の電気を消すと定番のバースデーソングがカラオケから流れて来た。
『♪ハッピーバースデー、ディア知香~。』
歌が終わり、知香が蝋燭の火を吹き消すと、拍手が起こる。
『もう、恥ずかしいよ。』
そう言いながらまんざらでもない。
『ともちの場合は歌よりスピーチだよね。大人として、それと手術を目前にした抱負をお願いします。』
みどりからマイクを手渡され、知香は立ち上がった。
『え~。……中学の時、生徒会長になって初めて全校生徒の前でマイクを持った時より恥ずかしい感じです。試験が終わった日だって言うのに、みんなありがとう。大人になって……ってまだ高校生だし、お酒とか飲める訳じゃないからあまり実感はないです。』
率直に知香は話した。
『ちょっと、まだ話してるのに先にケーキ食べない!』
福島が等分に切られたケーキを食べているのをみどりが指摘する。
『ただ、これで戸籍変更が出来る年齢になったのでいよいよ来たなって思います。手術はかなり痛くて辛いみたいだけど、ここまで頑張ったんだからこの先も頑張ります。』
喋り終わったところで、一年生の時に初めてカラオケに来て健介とデュエットした曲が流れ出した。
『ほら、高木くん。もう一個マイク持って!』
結局歌わされてしまった。
翌日の朝、いつもの通り紀子たちと駅で待ち合わせをする。
『おはよう……あれ?ともちだよね?』
紀子が恐る恐る聞いた。
『おわっ!どうした?』
後からやって来た健介も驚いている。
『……おかしいかな?』
知香になって以来、ずっと伸ばしていた髪をばっさり切ったのだ。
『手術を受けて暫く入院するし、何日かお風呂にも入れないっていうから切っちゃった。』
『そういう事?妊婦さんが出産する前に髪切る話は聞いた事あるけどそれと同じ感じかな?それにしてもずいぶん思いきったね。』
紀子に言われるまでもなく、自分でもかなり勇気が必要だったと思う。
知香となった小学六年の冬は引き篭もっていた事もあり、今よりも髪は長かったのだ。
学校に着くと、やはりクラス中に注目された。
『どうしたの?失恋した?高木くんに振られた?』
こういう時に必ず突っ込んでくるのはいつもみどりだ。
『なんか可愛くなったね。男の子みたい。』
正確には男の子なのであるが、好美たちには好評の様である。
『え?男っぽい?』
男の子みたいと言われ、ちょっとショックだ。
『可愛くなったって事だよ。』
『大人っぽくしたつもりなんだけど。』
もともと可愛い顔なのでショートカットにすると余計幼く見えてしまうのだ。
『失敗だったかな?』
『まだ5月でしょ?手術が終わって帰る頃にはまた伸びるし。それにともちの可愛さは武器なんだから無理して大人っぽくしない方が良いよ。』
紀子に慰められるが少し納得がいかない。
『見てろ~、手術が終わったら誰もが認める美人になってやるから!』
メイクも勉強して今にみんなを驚かせると決意した知香だった。




