猛追
8点差を追って後半が始まった。
C組も前半と違い動きがスムーズになり反撃をするが、A組も負けてはいない。
『ああ~っ!』
開始早々14対12まで一気に引き寄せたが、残り2分となって22対16と再び差が付いた。
『まだ大丈夫だよ!』
さすがに知香たちも疲れてきている。
『と、……知香さん!』
瀬里奈からも知香にパスが回ってきて知香はドリブルでゴール下に進むが、 A組選手に阻まれる。
『瀬里奈さん!』
知香は左サイドの瀬里奈に声を掛けパスを送る振りをして後ろからバックアップにきた園香に回し、ボールを受け取った園香がゴールを決めた。
『ナイス、知香さん、園香さん!』
出しに使われた瀬里奈がゴールを喜ぶ。
『さ、後4点、いけるよ!』
再び勢いに乗ったA組の隙を付きC組は菜々美がボールを奪った。
『菜々美さん、上手い!』
菜々美から園香にボールが渡り、ゴール前には知香と瀬里奈が走る。
『瀬里奈さん!』
園香からパスを受けた友梨香が見事シュートを決め、遂に2点差に詰め寄った。
『ナイスシュート、瀬里奈さん!』
しかし残り時間は15秒で、食い下がるC組にA組はボールを渡さずタイムアップとなった。
『悔しい!』
2点差で僅かに敗れたC組は、明日の午前にA組がF組に負け午後のF組との対戦で勝てば3チーム同率で得失点差で優勝する可能性は残るが、厳しい状況に追い込まれた。
『でもよく頑張ったよ。明日も頑張ろう!』
項垂れていた瀬里奈に園香が声を掛ける。
『園香さん、ごめんなさい。』
『謝られる理由はないわ、少なくとも今は。』
ようやく瀬里奈の心が開いてきた様だ。
『……知香さん。』
『明日も頑張ろうね。』
知香も余計な事は言わず、明日の試合に掛ける気持ちだけを瀬里奈に伝えた。
『それにしてもよくあんなに動いたな。』
帰りの電車内では健介が感心して言った。
『麗さんというコーチが付いているからね。』
いくら麗が教えたといっても自他共にうんちと認めていた知香が短い時間でこんなに上手く出来るとは信じがたい健介である。
『明日はA組に負けてもらわなきゃね。』
自分とは関係のない女子バスケとはいえ負けてくれと言われ複雑な気持ちの健介である。
次の日、午前中にA組対F組の試合が行なわれた。
『あの背の高い子とちっちゃいけど動きの速い子がバスケ部で二人とも次期レギュラー候補なの。』
背の高い選手は広永翼、低い選手は高島飛鳥という名前で、確かに動きが他の選手たちとだいぶ違う。
『勝ち目があるとしたら二人を徹底マークしなきゃね。』
試合が始まり昨日はC組に勝ったA組だが、エース級二人を揃えたF組には全然歯が立たない。
『どうやってマークするのよ?あんな化け物みたいな二人を。』
見ている傍から翼が豪快なシュートを決め、前半ですでに20対4という大差でリードをしている。
『万が一勝っても得失点差で優勝は無理ね。』
『でもさ、こんなチームに勝てたら優勝より価値があるんじゃない?あくまで気持ちの問題だけど。』
今日は朝からずっと瀬里奈もみんなと一緒にいて前向きに発言をした。
『そうだよね、優勝云々より、とにかく勝とう。』
F組は後半も得点を重ね、38対10と大差で勝利したが、試合を見学しながら園香はシミュレーションを立て作戦を練っていた。
『まあ、負けたって命を取られる訳じゃないんだから全力を出しましょう。』
最初に比べ、発言がトーンダウンしている。
昼食が終わり、試合は直ぐに始まる。
ティップオフは園香と翼だが、クラスでも背の高い園香が見上げるくらい翼は大きく、簡単に飛鳥がボールを支配した。
園香が守りに加わるのが一瞬遅れるうちに飛鳥がすでにゴール前に来てシュートを放とうとする。
『今だ!』
その瞬間、知香は飛鳥のシュートを弾き、こぼれ球を菜々美が拾い園香にパスした。
『上手い、知香さん!』
園香から瀬里奈にパスが回り、C組は先制点を上げた。
『瀬里奈さん、ナイスシュート!』
F組も地力を見せて得点を重ねるが、前半を10対10とまさかの善戦で終えた。
『知香さんの高島さんへのマークが厳しいからね。』
『瀬里奈さんの動きが良いんだよ。』
チームの雰囲気も最高だが、後半が始まると、様子が一変した。
飛鳥をマークする知香には翼がマークしていて知香の回りに二人のバスケ部員が付く形となり、その分F組もボールの支配が出来ず双方得点が伸びない。
『タイム!』
業を煮やして園香がタイムを取った。
『知香さんと私の位置を交代しましょう。』
それまで主に守り主体で飛鳥のマークをしていた知香と翼のマークをしながら司令塔の役目をしていた園香が代わる事になった。
『残り4分、勝つわよ!』
『おう!』
5人はコートに散り、翼のドリブルを知香が追う。
(高島さんの様なスピードはないけどでかい!)
迫力に劣る知香は付いていくのがやっとだ。
執拗にマークする知香に翼の足が止まり、飛鳥にパスを回すのを防ぐ知香の裏をかいた翼が投げたボールは高く上がり、そのままゴールした。
『スリーポイント!』
まざまざと翼の実力を見せ付けられた格好になり、そのまま19対16で試合は終了した。
『負けた~。』
結局、C組は3位に終わったがみんな満足している。
『負けちゃったね。』
『でもみんな頑張ったよ。』
『お疲れさま、瀬里奈さん。』
『……知香さん、ごめんなさい。私、知香さんと一緒に試合が出来て良かった。』
『私も。これからも仲良くなれたら嬉しいな。』
知香は健介や紀子の時と同じ様に瀬里奈と付き合えたらと思う。
『でも……、葉月たちは知香さんの事良く思ってないから。』
葉月のグループにいる瀬里奈が露骨に知香と仲良くなると立場が悪くなりそうだ。
『良いよ、教室では今まで通りで。私もいずれ葉月さんとも仲良くなりたいし、その時まで待つから。』
『ごめんね。連絡先教えるから、携帯でやり取りしましょ。』
葉月のグループの瀬里奈の心が開いた事で、知香は葉月たちも仲良くなれる気がした。




