卒業パーティー②
『はずみん、ごめんね。』
『大丈夫、あとは任せて。』
はずみとのぞみに後を託して知香は制服を脱いだ。
今度は自分たちのパーティーに備えなければならない。
着替えを進めていると、更衣室の扉をノックする音が聞こえた。
『チカちゃん、入っても大丈夫?』
萌絵の声だ。
前日、知香を名前で呼ぶとは言っていたが、それは二人きりの時の事で他人がいる場合は今まで通りの様である。
『大丈夫だよ。』
あらかた着替え終わった知香は扉を開け、萌絵を迎えた。
一緒に雪菜の母・紗世も入ってきた。
『ともちゃん、なんか大変そうね。ホールやってその後司会じゃお料理食べられないでしょ?おにぎり作ったから今のうちに食べて。』
雪菜たちもこの後ホールに出るが今はしっかり食べている。
はずみたちもこの後は食べられるが、知香は休む暇もなかった。
大きなおにぎりが二つ用意されていた。
『おばさん、ありがとう。』
隣で着替え始めた萌絵に話しかける。
『萌絵ちゃん、大きいから一個づつ食べよ。』
『うん。』
萌絵も着替え終わり、二人は食べながら打ち合わせを始める。
萌絵のドレスはクリーム色でピンクの知香と同じデザインだった。
『はい、これ。』
知香はプリントされた紙を渡す。
昨晩、萌絵のために進行表を作っておいたのだ。
『あ、ありがと。』
そうしているうちに雪菜やはずみたちが更衣室に戻ってきた。
『うぁ~、二人ともスゴイく可愛い~。これどうしたの?』
のぞみがロリータドレスを着た二人に驚いて尋ねる。
『萌絵ちゃんのだって。』
雪菜は知香に写真を見せられていたので萌絵の趣味だという事は知っている。
萌絵は俯いて顔を赤くした。
『へぇ~、すごーい。やぎっち良いじゃん。』
はずみが感心する。
はずみとのぞみは制服から私服に着替え、雪菜たちは逆に制服に着替える。
雪菜たちは準備をするためホールに行き、はずみたちは外を伺う。
『全員揃ったって。先に行くね。』
はずみとのぞみが席に着くのを見計らって知香が萌絵に言った。
『さ、行こう!』
『うん!』
二人が入場すると会場から拍手が沸き起こった。
色違いでお揃いのロリータドレスはインパクト大であった。
『八木ちゃん可愛い!』
『あれが八木かよ?!すげぇじゃん!』
知香は自分より萌絵が褒められる事が嬉しかった。
二人はマイクを持った。
『みなさん、卒業おめでとうございます。』
知香が挨拶を始める。
『…えと、…今日はみんな楽しくお食事しましょう…』
萌絵が言葉を繋げた。大丈夫だ。
『今日、この場の司会を務めさせて戴きます、白杉知香です。』
『八木萌絵です。……二人合わせて…せーの!』
二人は声を合わせる。
『しろやぎともえです!』
ホールが爆笑した.
『なんだそれ~!』
掴みはばっちりだ。
『それでは乾杯をしたいと思います。乾杯の音頭は…。』
萌絵はテーブルの上にあった箱を真ん中に寄せた。
『…ここにみんなの名前が書いてあるカードが入ってます。今から一枚取り出しますので呼ばれた人は乾杯の音頭をお願いします。』
萌絵が説明すると会場がざわついた。
『じゃあ行きま~す、じゃん!』
知香が一枚カードを引いた。
『菊池奈々さん!』
拍手と共に奈々が立ち上がった。
『なんで私が乾杯やるのよ?仕方ないなぁ~。』
奈々は文句を言いながらまんざらでもなさそうだった。
『良いから早くやれ~!』
男子からヤジが飛ぶ。
『うるさい!後で覚えときなさいよ~!じゃあみなさん、中学でも頑張りましょう、乾杯!』
各々がコップに入ったジュースを飲み、席に着いて食事を始める。
少し静かになったところで知香が再びマイクを握る。
『先日アンケートをお配りしてみんなに書いてもらった質問がここに入ってます。』
さっきとは別の箱を掲げる。
『これから指名した人にその質問に答えてもらいます。』
最初の箱を萌絵が奈々の席に持っていき、奈々にカードを引かせる。
『大崎太一くん!』
奈々の引いたカードを萌絵が読み、大崎太一の席に行く。
知香がもう一つの箱に入ったカードを一枚取り出して自分で読む。
『自分を動物に例えるとなんですか?』
こうして、指された人が質問に答えるゲームだ。
『うーん、ライオン!』
少し考えて、太一が答えるとブーイングが起こった。
『太一なに言ってんだ、お前は象だろ?』
太一は名前通り大柄で太目の男子である。
今度は太一が萌絵の持った箱からカードを一枚出す。
『中井純太くん!』
純太が立って知香がカードを出す。
『あれ?なんだこれ?』
カードに書き写したのは全部自分なので質問の内容はすべて知っていたが知香は敢えて惚けてみた。
『男子だったらセーラー服、女子なら詰襟の学生服を着てみたいと思いますか?』
明らかに知香を意識しての質問だろう。
けれど、今の知香にはこういう雰囲気を楽しむ余裕がある。
『セーラー服、一回着てみたいけど、俺たぶん、白杉より綺麗だから遠慮しとくよ。』
『良いよ!勝負しよう!』
掛け合い漫才みたいになり会場が盛り上がる。
『ねぇ、白杉さんってあんなに良く喋る子なの?』
一通り配膳が終わって様子を見ていたありさが雪菜に聞いた。
『うん、昔はおとなしかったよ。最近は明るくなったけどあそこまで出来るなんてびっくりだよ。』
さすがの雪菜も知香の変貌ぶりには驚いていた。