昆虫料理部
ゴールデンウィークが終わり、学校が始まった。
『おはよう。』
相変わらず知香の事を認めないグループは挨拶をしても返事が来る事はないが、男子を含めクラスの大半は知香の事を認めてくれているので問題はない。
『白杉、お前テレビに出てたよな?』
席に着くと突然男子生徒から声を掛けられた。
『岡田くん、観たの?』
その男子生徒は岡田晴彦という名前で、入学して1ヶ月でようやく名前と顔が一致した程度の認識しかない。
『俺んちの田舎上田でさ、ゴールデンウィークに向こうでテレビ観たらお前テレビの司会やっているからびっくりしたよ。』
『私も高山が田舎なんだ。前に遊びに行った時にインタビューされて、そのままスカウトされたの。』
『なんだなんだ?白杉、テレビに出てるだって?』
二人の会話を聞いて男子が集まってきた。
『テレビっていっても長野でしかやらないから。』
『DVDあるんだから見せれば良いのに。』
みどりが口を挟む。
(また余計な事を……。)
『なんだ、勿体振らずに見せてくれよ。』
案の定、男子たちが食い付いてきた。
『明日部活で見る事になってるから、その時なら良いよ。』
翌日、料理とは縁のなさそうな男子たちが料理部に集まってきた。
『白杉さん、どういう事ですか?』
部員でもない男子がたくさん集まってきたので部長のやよいが尋ねた。
『実は、長野で大量にイナゴとか蜂の子の瓶詰めをもらってなにか料理に使えないかと思ったのですが、みんな抵抗があると思うので毒見役を連れてきました。』
いくらアレンジをしてもイナゴや蜂の子と聞いたら多くの生徒は食べられないだろう。
『私にも食べさせてもらえるかしら?』
『部長、食べられるんですか?』
知香ですら嫌々食べたものを進んで食べるとは部長も変わっていると思った。
『私は人が食べられるものならなんでも一度は食べてみたいの。』
研究熱心にも程がある。
『それでなにを作ったの?』
『はい。イナゴはサンドイッチにして、蜂の子は秘伝スープに入れてみました。』
なるべく虫らしさをなくすため、イナゴの足などは細かく刻んだ。
『みなさん、わざわざご苦労さまです。ビデオを観る前に軽食を作ったので食べてみて下さい。』
食べ盛りの男子たちが知香と好美、アイが作ったサンドイッチとスープに食らい付いた。
『美味い美味い。』
『む?これは……。』
岡田は気付いた様だ。
『岡田くん、大丈夫?』
『俺も昔食べたから大丈夫だけど驚いたよ。』
『まあまあですね。』
やよいはさすがに美味いとは言わなかった。
『白杉。なんだよ、これ?』
他の男子生徒はまだ気付いていない。
『種明かしをしますのでビデオを観てね。』
番組自体は4時間もあるのでオープニングと[おいしい信州]のコーナーだけ流す。
『お、白杉。マジか?』
『ホントに司会やってんじゃん。』
場面は[おいしい信州]に切り替わる。
『ここで再び伊那から中継です。一郎くん、澄香さん!』
『はい、一郎です。今日の[おいしい信州]は伊那地方で昔から伝わる食べ物を紹介します。澄香さん、お願いします。』
『はい、この地方では昔から昆虫を佃煮にしたりして食べる文化があり、私も子どもの頃から食べていました。』
『昆虫……?』
男子たちははずみと同じリアクションだったが違うのはすでにお腹の中に入っているのだ。
知香が嫌々食べ、はずみが逃げ回るシーンを観ながら
『今俺たちが食ったのってこれか?』
と目を白黒させる。
『そう。でも、私はそのままの形のヤツ食べたんだからね。なんならまだ瓶詰めあるけど食べてみる?』
本来はずみがもらう分も知香がもらったので瓶詰めはまだかなりあった。
『私に少しちょうだい。』
やよいはチャレンジャーである。
『うん、味がしっかり付いていて食べられるわ。あなたたちも食べたら?』
『うへぇ。』
経験者の岡田以外は尻込みして食べなかった。
『白杉さん、こんな仕事やっているのね。私たちは毎年文化祭でチーム毎にお料理を出しているので、是非長野の郷土料理を発表してほしいわ。さすがに昆虫食はハードル高いけど。』
実家でも作って食べる事もあるおやきなど、文化祭で出せそうなものは他にもある。
『分かりました。チーフの安住さん、宇野さんとチームを組んで頑張ります。』
『え?私がチーフ?』
突然チーフに指名された好美が驚いた。
『よしみんが一番お料理得意だし、なんだかんだで蜂の子も食べてるから適任だよね。』
『私もよしみん、付いていきます。』
知香もアイも好美推しだ。
『なんで私?ここはともちじゃない?』
無理やり押し付けられた好美は動揺する。
『俺たちも白杉より安住の方が良いと思います。白杉だと不意に変なもの食わすかもしれないし。』
部外者の男子たちも知香より好美の方が良いと言って、チーフは好美に決まった。




