まだ付いてるから
4月29日はゴールデンウィークの初日である。
知香は中学時代の同級生と高校で新たに友だちになったみどりや好美、アイを田舎に誘った。
雪菜と紀子は共にスノーホワイトでのバイトのため参加出来ず、三中出身のメンバーははずみの他美久、のぞみ、ありさだけである。
『高木は誘わなかったの?』
知香と健介の仲を知る美久が皮肉混じりに聞いた。
『いろいろめんどくさい事があるからね。』
健介自身、知香との交際を親からは認められている訳ではない。
美久は中学時代進学塾に通っていたので初めて知香の実家に行くが、知らないメンバーの方が多く、戸惑いがある。
『美久って意外に人見知りするよね。』
小学六年生以来の同じクラスになったのぞみが指摘した。
小学時代の保健係、中学になっても保健委員として分け隔てなくクラスメイトを世話していた美久だが、如何にも健康そうなみどりやアイに対しての挨拶がたどたどしい。
『だって、チカの友だちでしょ。なんかひと癖もふた癖もありそうだから。』
自分に癖があると言っている様なものである。
知香たちは在来線で高崎まで行き、新幹線の改札でみどりたちと落ち合った。
『新幹線、混んでるよね。』
新幹線がホームに滑り込んで来たが、車内は立っている客が多く、高崎では降りる客よりこれから乗る客の方が多い。
『ごめんね、長野まで1時間くらいだから我慢して。』
これでも長野止まりで各駅に停まる列車なので金沢に向かう速い列車より混雑はしていないと言われた。
軽井沢に着くとだいぶ客が降りて楽になり、上田では空席も目立ってきた。
『座らないの?』
『もう後10分で着くから良いよ。』
長野に到着し、私鉄に乗り換えるが、いつもみたいに一郎は迎えに来ていない。
『はずみん、一郎くんはどうしたの?』
美久は一郎に会った事はあるが、長野に来るのは初めてなのではずみと一郎のいちゃいちゃ振りをどうからかうか楽しみにしていた。
『テレビもいっちゃんリポーターだからすれ違いが多くて話出来ないんだよね。』
初回こそ長野市内からの中継だったが、一郎は毎回県内のあちこちに飛んでリポートをする役目なので前日に少し話す程度なのだ。
『別にケンカした訳じゃないし、今回は車2台だから須坂で待っているからって……。』
少し淋しそうなはずみであったが、駅の改札で一郎の顔を見たとたん、表情が明るくなった。
『こんにちは。お世話になります。』
迎えに来たのは男3人だ。
『お爺ちゃんと従兄弟ではずみんの彼氏の一郎くんとお父さんの高志さん。』
『はじめまして、宜しくお願いします。』
みどりたち高校組も挨拶してはずみと美久は一郎と共に高志の車に乗り、知香たちは俊之の車に分かれた。
『山、近いね。チェンマイみたい。』
チェンマイはタイ北部にあるが、アイが生まれ育ったバンコクからは直線でも600キロくらい離れている。
『アイはチェンマイに行った事があるの?』
『一度だけ。』
知香もタイを調べているうちにチェンマイも一度行ってみたいと思っている。
俊之の家に着くと、佐知子と瑞希が出迎えてくれた。
『こんにちは、お世話になります。』
8人は一旦、知香とはずみの部屋に行く。
『さ、くじ引きやるよ。』
今回は知香たちの部屋に4人、空き部屋に4人寝る形だが、中学組と高校組は今日初めて会ったばかりなのでくじ引きで部屋割りを決める。
紙に6本の縦線を引き下の部分を折った後、全員が横に線を入れて6人が順に名前を書き入れた。
『私、チカたちと同じね。』
『私もです。宜しくお願いします。』
知香たちと同じ部屋なのはのぞみと好美だった。
『念のためよしみん、私と一緒で大丈夫?』
『なんで?』
『……まだ、付いてるから……。』
まだ半端な身体なので初めて一緒の部屋に寝る時は確認が必要なのだ。
『見せてくれるの?』
好美はおっとりしている様に見えて意外に好奇心旺盛の様だ。
『そんな!見せるもんじゃないし。』
『残念。見たかったのに……。』
そんな好美に対していつも賑やかなみどりがおかしい。
『ぐり、どうしたの?』
『そういうの、私たぶん見られない。』
いち早く知香に食い付いてきたくせにこちらも意外だ。
『ともちは外観は完璧だから良いの。』
服を脱いだ中途半端な知香は見たくないらしい。
『私もその方が良いと思うけどね。』
たぶん好美よりみどりの方がまともだと思う。
『いっちゃん、明日は伊那に行くんでしょ?』
『うん、明日は5時出発だって。』
長野県でも南に位置する伊那は車で2時間近く掛かるため、早朝に出発する必要がある。
『せっかく会えたのにすぐ引き離されちゃうんだね。』
美久ははずみを悲劇のヒロインの様に例えた。
『4時には出ないといけないからごはん食べたらすぐ帰るわよ。』
集合するのはテレビ局だから自宅からは瑞希が送らなければならないのだ。
一郎は後ろ髪を引かれる思いで自宅に帰った。




