釜めし仲間
週末のテレビ生放送をこなし、新しい1週間が始まった。
今週から本格的な高校生活がスタートする。
とは言っても週の最初はクラスで自己紹介をしたり班や各委員を決めたり、また部活動の紹介があったりとそのあたりは中学とは変わらない。
『おはよう、ぐりちゃん。』
『おはよう、ともち、きこちん。』
まだ馴染めないが、お互い愛称で呼び合う様になった。
一方、知香に難癖を付けてきた葉月も何人かとグループを作っている様だ。
そこに好美が教室に入って来た。
『おはよう、よしみ……。』
手を振って好美を呼ぼうとしかけたが、その前に葉月たちに捕まった様である。
好美は葉月たちになにか言われているみたいだったが、お辞儀をしてそのグループの輪から抜け出し自分の机に鞄を置いた。
『よしみん、おはよう。』
『あ、おはよう。』
『ねね、箕輪たちになに言われてたの?』
すかさずみどりが質問する。
『あなた大人しそうだから友だちいないでしょ?私たちの仲間にならない?だって。』
『見た目で判断するなんて失礼な人たちね。で、なんて答えたの?』
『うん、ともちたちと仲良くなったからって言ったの。そしたらあなたも釜めし軍団なの?って。さしずめあなたは添えもののお新香かしらって言われた。』
どうやら紀子やみどりは釜めしの具に例えられているらしい。
『そんな失礼な事言われたの?それでよしみん、よく怒らなかったわね。』
『うん、私、お新香大好きだから。うちのお母さん、糠付け作っているし。』
好美は悪口を言われても怒らない強さがある様だ。
『どうもあの人たちは私たちと相容れないみたいね。』
『そんな、最初っから決め付けない方が良いんじゃない?同じクラスなんだし。』
紀子も葉月たちのグループを警戒するが、知香は自分が原因なのでなんとか仲良くしたいと思っている。
『そんな悠長な事言ってたら、なにされるか分からないよ。』
知香自身、嫌がらせは小中学校と受けていたので紀子がそういうのも分かるが、その嫌がらせをした紀子と今は仲良くなっている経験が知香を寛容にさせているのだ。
始業の時間となり、曽我先生が教室に入る。
『今日は最初に自己紹介をしてもらいます。1番最初に安住さんからお願いします。名前と出身中学、それから趣味とか特技とか自分をアピールしてね。』
出席番号1番の好美が自己紹介を始める。
『さいたま日の出中学から来ました安住好美です。趣味はお料理でお菓子作りが好きです。宜しくお願いします。』
(よしみんも料理が趣味か。話合うかも。)
好美はにこにこしながら自己紹介を終えた。
次に男子が二人続いたが、一度に40人も覚えられないのでおいおい覚えていけば良いだろう。
曽我先生もまだ覚えていないだろうが、資料を見ながら本人の自己紹介を聞いて確認している様だ。
『次に、宇野さん、お願いします。』
呼ばれて立ち上がった宇野という生徒は浅黒い肌をしている。
『宇野アイ、言います。お母さん、日本人だけどお父さん、タイ人です。中学一年の時、埼玉のA尾、来ました。アイはチューレンです。』
『チューレン?』
『チューレンはニックネームの様です。タイでは自分の名前は別にあるけれど通常ニックネームで呼び合う様です。』
曽我先生が補足説明をしてくれた。
『日本人にもアイという名前、多いから、お母さん、付けてくれました。』
日本語は少したどたどしいけれどリカルドより聞きやすい。
(タイ人のハーフかぁ。言葉教えてもらおうかな?)
知香はタイ人と日本人のハーフと聞いてアイに興味を抱いた。
何人かの生徒が続いて自己紹介をし、みどりに続いて知香が立ち上がった。
『F谷三中から来ました白杉知香です。トランスジェンダーのLGBTです。趣味は写真撮影とお料理です。宜しくお願いします。』
葉月たちのグループからなにか突っ込まれそうなのでさらっと流した。
『先生。男のくせに女子の名前を騙って女のフリをする生徒なんて気持ち悪いです。』
葉月が堂々宣戦布告してきた。
『そうです。痴漢とかされそう。』
葉月と一緒に立ち上がった女子は他に3人で、うち一人はすでに自己紹介が終わった金井美穂という名前というのは分かった。
『今、白杉さんの様な心の性と身体の性が違う人は数多くいます。そういう人たちの多くは長い間自分の中で葛藤をしながら生きていましたが、今は学校や社会でも受け入れてきています。難しいと思いますが、白杉さんを通じてみなさんもLGBTについて理解出来るようお願いします。』
『嫌です。』
葉月は曽我先生にも堂々歯向かう。
『先生、ありがとうございます。理解してもらえば嬉しいですけど無理なら仕方ないです。』
『オカマのくせに良い子ぶらないでよ。気持ち悪い。』
葉月は徹底抗戦の構えだ。
『箕輪さん。オカマという言葉は差別用語です。人を侮辱する事は許しませんよ。』
さすがに曽我先生も怒った。
『みなさんも気を付けて下さい。白杉さんだけではなく、誰が相手でも差別したり侮辱したりする言葉は絶対いけません。』
葉月たちはむすっとして席に着く。
(あそこまで言っちゃったら当然そうなるだろうね。でもなんでそこまで敵意むき出しになるんだろ?)
知香は他人事の様に考えていた。




