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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学三年生編
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卒業式の涙

無事みどり高に入学を決めた知香は1週間後、卒業式に臨んだ。


『おはよう、お母さん。』


『おはよう。あっという間の3年間だったわね。』


『いろいろあったけど、今日が最後か。』


知香は3年間を顧みる。


『お母さん。』


『なあに、ともちゃん?』


『やっぱり私、男の子のままの方が良かった?』


『今さらなによ?ともちゃんが男の子のままだったらこんな波乱に満ちた中学生活にならなかったんじゃない?』


小学校の時と同じく友だちも出来ず、暗い中学生活だったかもしれない。


『それにしても本当にいろいろあったわね。高校ではどうなるかしら?』


由美子は知香がなにを仕出かすか楽しみにしている。


『おはようございます。』


『こうちゃん?』


今井の家に入る前は比較的近所に住んでいたので一緒に登校していたこのみが迎えに来た。


『わざわざ来てくれたの?』


『はい。今までお世話になったのだから最後は一緒に行きなさいと、母と姉が言ってくれました。』


『そう、ありがとうね。お嬢さまに迎えに来てもらうなんて申し訳ないわ。』


『知香さん!』


このみの膨れた顔が可愛い。


苗字が今井になってお嬢さまになっても通う学校が違ってもこのみは可愛い妹分だと改めて思う。


『こうちゃんが正式に麗さんの妹になるのもあと僅かだね。』


『はい。結婚式は4月3日ですが、30日が大安なのでその日に4人揃って婚姻届を出しに行きます。』


知香を始め、卒業をする三年生にも結婚披露宴の招待状を渡しており、すでに知香も出席の返事を出している。


『そう言えば学校の制服、新しくするんだって?』


知香が卒業した後、今までの男子学生服、女子セーラー服の制服が男女ともブレザーの制服に変更されるらしい。


『まだ正式決定ではないし、変わるのは来年の一年生からですよ。』


『そんな事言って、ちゃっかりモニターとして新しい制服着るんでしょ?』


4月からの1年間、このみを始め幾人かの生徒が実際に新しい制服を着用して着心地や反応を確認するのだ。


『……お父さまが発案したので、仕方ないんです。』


このみの表情は仕方ないので嫌々やるというものには見えない。


『私も着てみたいなぁ~。留年しよっかな~。』


『もう、卒業式の日になに言ってるんですか?中学に留年なんかないですよ。』


中学生として三中に行くのはこれが最後になるが、知香なりの惜別の表現なのだろう。


『おはよう。』


教室に入ると卒業式を控えた同級生たちがみんな明るい顔をして待ちわびている。


一人を除いて……。


『健介くん、おはよう。』


『……おお……おはよう。』


卒業生答辞を読む高木だけが緊張していた。


『と、知香、代わってくくれないか?お前と得意だろ……。』


確かに生徒会長だった知香は二年生の時は送辞を読んだり全校生徒の前で話す機会は多かった。


『ばかね、主席だから選ばれたんじゃない?そんな名誉棄てるとか有り得ない。』


親に逆らって私立中学の受験を白紙で出す偏屈な高木ならではだと思う。


チャイムが鳴り、木田先生が入ってきた。


木田先生は小振袖に袴姿である。


『先生の卒業式みたい!』


『先生の卒業式の時の袴は花柄の着物でしたよ。』


木田先生は大学を卒業して初めて受け持った担任での卒業式だから自分自身の卒業式はまだ記憶に新しい。


『これから体育館に移動します。練習通り、落ち着いていきましょう。』


生徒全員が立ち上がり、教室を出た。


体育館に入ると保護者や在校生たちの拍手で出迎えを受ける。


『只今より2021年度F市立第三中学校卒業式を行ないます。』


国歌、校歌斉唱に続き、卒業証書授与となった。


『志田…雪菜!』


『はい!』


知香は雪菜の次である。


雪菜が壇上の右端から中央に歩き、校長の沢田と正対する。


『志田雪菜……以下同文。』


雪菜が証書を受け取り、下がると知香の番だ。


『白杉…知香!』


『はい!』


思えば、小学校の卒業式は[知之]だったので知香としては初めての卒業式である。


『白杉知香……以下同文。』


一瞬、沢田の顔を見て知香は証書を受け取った。


在校生の送辞は知香の後を継いだ生徒会長の木村しおりが無難にこなした。


(後は宜しくね。)


心の中で後輩に後を託したが、心配なのはこの後である。


『卒業生答辞!三年A組、高木健介!』


『はい!』


一抹の不安を抱きながら知香は高木に注目した。


『答辞………。只今、私たち卒業生は卒業証書を受け取り、3年間学んだこの第三中学校を卒業致しました。思えば3年前、この場所で入学式を迎えた私たちは期待と不安でいっぱいでしたが、たくさんの先輩、後輩、それに同級生たちと共に楽しく、時には競いながら、先生方や父兄に見守られ今日まで学んで参りました。

今日、私たちは卒業致しますが、これから高校、そして社会へと歩んでいく上で様々な困難に出会った時にこの3年間で学んだ事を思い出し進んで参りたいと思います。

本日、お集まり戴きましたご来賓の方々、3年間厳しくも優しくご指導賜りました先生、お父さん、お母さん、在校生のみなさんに深く感謝を込めまして答辞と致します。

本日はありがとうございました。三年A組、卒業生代表、高木健介。』


(やれば出来る子じゃない?)


高木は一度も噛まずに堂々答辞を読んだ。


木田先生の涙腺が式の途中から崩壊して、そのまま教室に戻るとクラス中の生徒たちが泣き始めたが、知香は泣かない。


『悲しい気持ちはあるけど、新しいスタートの日に涙は流さないものだから。』


そんな知香だったが、雪菜がまず握手を求めた。


『ありがとう。ともちのおかげで忘れられない中学生活を送れたよ。』


『きな、私の方こそありがとう。』


温かい雪菜の手に少しうるっと来る。


(だめ。泣かないって決めたんだから。)


『チカ、ありがとう。最後にまたチカと同じクラスになって良かった。』


今度は美久が握手を求めた。


『美久、看護師の勉強、頑張ってね。』


美久は看護師養成のための桜高校に進学する。


(ヤバい。もう出そう。)


次から次へ、クラスメイトたちと握手を交わしているうちに木田先生並みに涙腺が崩壊してしまった。


『みんなずるいよ。泣かないって決めていたのに。』


知香の中学生活は涙でその終わりを告げた。


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