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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学三年生編
231/304

受験当日の朝

埼玉県の県立高校の試験前日となった。


単願で私立高校に入学が決まった生徒が3分の1近くいるが、その他の生徒がそれぞれ願書を提出した高校を受ける事になる。


そのため、三年生の授業は午前中だけで給食が終わったら下校する。


『今日は早く寝て明日寝不足とかにならない様にして下さい。』


木田先生も三年生を受け持つのは初めてなので生徒以上に舞い上がっていた。


『いよいよだね。』


『頑張ろうね。』


知香たちのみどり高校も美久の桜高校も他の生徒たちより遠くにあるため6時台の電車に乗らねばならない。


そのため4人は駅で待ち合わせをする事にした。


自宅に帰り、軽く復習をして持ち物をチェックしたが、なにか落ち着かない。


なにかやり残した事がないか心配なのだ。


『ただいま。』


由美子も早く帰ってきた。


『今日は鳴海でとんかつ買ってきたわ。明日試験だからってコロッケおまけしてもらっちゃった。』


鳴海精肉店は放課後見守り隊でも世話になった商店街の店で、ここのコロッケは知香も大好きだ。


お風呂に入り、早めに夕食をとって後は寝るだけだ。


『緊張してるみたいね。』


ごはんがあまり喉を通らないのを由美子に見透かされてしまった。


『ちょっとね。』


私立高校の試験の時も緊張はほとんどなかったが、ここに来てかなり緊張しているのは自分でも分かった。


『やっぱり彼氏と同じ学校に行きたいよね。』


『彼氏じゃないもん。』


近頃すっかり女の子になった知香をからかうのが楽しい由美子である。


その晩、知香はなかなか寝付けなかった。


朝、4時に起きたが最悪の寝起きだ。


『おはよう。』


父の博之は毎晩遅く帰宅するのに朝はちゃんと起きて同じ時間に家を出る。


『お父さん、眠くないの?』


『毎日繰り返していると身体が慣れるんだよ。()()も高校に行く様になれば慣れるさ。』


最近ホルモン治療の影響か、以前より朝の目覚めが悪くなっている様だが、みどり高校に通う様になると早起きをしなければならないのだ。


『ちょっと苦いけど青汁を飲むとすっきりするぞ。』


知香はいつも博之が飲んでいる青汁を分けてもらう。


『う……にがっ。』


『どうだ?』


『うん。味はともかく目は覚めたみたい。』


これでなんとか1日戦えそうだ。


『ともちゃん、お弁当忘れないでね。』


試験は午後まで続くので、由美子は暗いうちからお弁当を作ってくれている。


『ありがとう。行ってきます。』


知香は博之と共に家を出て徒歩で駅に向かい、到着すると美久が先に着いて待っていた。


『じゃあお父さん、先に行くからな。頑張れよ。』


『うん、行ってらっしゃい。』


博之を見送り、美久と挨拶を交わす。


『おはよう、チカ。』


『おはよう、美久。ちゃんと寝た?』


『あんまり寝られなかったよ。』


美久は、子どもの頃から母・美子の後を追って看護師になる夢を持っているが、今日はようやくその入口にたどり着いたのだ。


『みんな合格出来ると良いね。』


紀子と高木もやって来て、ホームに降りる。


『チカのお父さん、毎日こんな朝早くに会社に行くんだね。』


『そういう人、結構いるんだって。毎朝、同じ人が同じ電車に乗るから覚えたって言ってた。』


晴れて合格すれば知香たちも毎日通勤電車に乗る事になるのだ。


1時間掛けてO駅に到着し、ここからは美久と別れてバスに乗り換える。


『バス、分かる?』


埼玉県で一番大きいO駅はジェンダークリニックに通う時にいつも乗り換えるから多少は分かるが、改札を出てバスに乗り換えるのは初めてである。


『あ、プラカード持っている人がいるよ。あそこみたい。』


プラカードには[みどり高校行き]と書かれて、違う学校の生徒たちが並んでいた。


『みんなライバルなんだね。』


『他人は関係ない。良いか、敵は自分の中にいるんだ。』


高木が真面目な顔で言うので知香も紀子も笑う。


『ははは、おかげで緊張が解けたよ。』


バスは中学生でいっぱいだが、緊張のせいか、私語を交わす生徒は少ない。


たぶんいつもは高校生たちが賑やかに話しながら乗っているのだろう。


バス停から少し歩くと、校舎が見えてきた。


『三中より大きいね。』


『ビビっているのか?』


こういう時、どちらかと言えば高木の方がビビるのだが、私立高校2連勝の余裕なのか、意外に落ち着いている。


受付で受験票を出し、指定された教室に向かう。


『知香さん、一緒の教室ね。』


『なんだよ?二人ともそっちか?』


高木だけ別の教室と分かり、急に不安になったみたいだ。


『じゃ、頑張ろうね。』


知香と紀子は高木を廊下に残して教室に入った。


『高木くん、大丈夫かしら?』


『放っておいても大丈夫だよ。』


番号を確認して、知香は席に着いた。


ここが今日1日、知香の戦場となる。


(人は人。敵は自分の中。)


高木の言葉を胸に秘め、知香は試験に望んだ。

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