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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学三年生編
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賑やかな大晦日

お互いに切磋琢磨して勉強に勤しんだ5人は大晦日と元旦は一切勉強を忘れ、田舎の年末年始を堪能しようという事になった。


『2日も勉強しないで良いのかよ?』


高木は勉強をしないと不安らしい。


『休む時は休んだ方が良いのよ。特に高木くんみたいな勉強バカは。』


日々の積み重ねが大事だという高木と、やる時は一生懸命やって休む時は勉強の事は忘れようという知香との考え方の大きな違いがある。


『健介、長野がなんで夏休みや冬休みが少ないか分かるか?』


いつの間に一郎は高木の事を健介と呼んでいる。


『田植え仕事で家族が協力しなきゃいけない時期があるからなんだよ。その時期は学校も休みになるが俺たち田舎の人間は勉強だけすれば良いわけじゃないんだ。』


長野県は以前から田植えや収穫の時期と寒い2月頃に休みがあり、その分夏休みや冬休みが他府県より短い。


田植えや収穫休みがなくなった今も夏休みや冬休みは短いままである(※)。


学生は勉強だけすれば良いというのは長野では通用しない様だ。


『分かったら餅つき頑張ってね。リッキーがいなくなって戦力不足なんだから。』


知香は三角巾を頭にかぶり、エプロンをしている。


『お、おう。』


知香のエプロン姿に戸惑いながら高木は応じた。


蒸籠で蒸された餅米を臼に入れ、高木は杵を握った。


『間違っても手を搗かないでよ。』


最初に杵で餅をこねた後、高木が杵を振り下ろし知香が水を付けた手で餅を返す。


『息合ってるじゃん。』


『夫婦みたいね。』


知香の気持ちを言わないと言っているわりにはずみと紀子は知香たちを冷やかす。


『健介は体育5の癖に腰が入ってないな。ちょっと代われ。』


一郎が杵を持つと、餅を返す役もはずみに交代するが知香と高木以上に良いコンビネーションである。


最初に搗き上がった餅で鏡餅を作り、次からは適当な大きさに丸める。


細かく潰したくるみを混ぜた餅も例年通り作るが、高木や紀子は初体験だ。


『紀子ちゃん、ひとつ食べてみる?』


『ありがとうございます。』


くるみの入った餅はナッツが入ったチョコレートみたいな食感であった。


『美味しいです。病み付きになりそう。』


『気を付けないと太るからね。』


紀子もこうした田舎の年末年始は初めてなので何時になく燥いでいる。


『はずみ、ちょっと良いか?』


『なに?』


一郎がはずみを呼び寄せ、二人で一郎の自宅に帰り、暫くして高志たちと一緒に戻ってきた。


『二人で仲良くなにしてたの?』


『お蕎麦打ってたの。私も少し手伝ってきた。』


高志はすでに玄人と言える腕だが、一郎も去年あたりから一緒に打っているらしい。


『すっかり奥さんしてるね~。』


『将来お蕎麦屋さんやるからみんな食べに来てね。』


はずみも冷やかされるのは慣れてきた。


夜になり、打った蕎麦を茹でる。


他にも天ぷらやお焼きなどが食卓に並び、みんなでテレビを観ながら大人たちは酒を飲む。


『お母さん、あんまり飲まないでよ。』


『とも、そう言うな。由美子さんがなにをしてくれるかが大晦日の楽しみなんだから。』


俊之が変な期待をするので逆に由美子は自重した。


『高木くん、どうしたの?』


高木は静かに蕎麦をすすったかと思うと、黙って丼を見つめている。


『いや、大晦日もそうだけど普段もこんな賑やかに食事をするなんてなかったからな。こんなのも良いなと思ったんだ。』


普段食事の時はテレビも観ないし全く会話をしないのだという。


『うちだって普段はこんなに賑やかじゃないけど普通に会話はするし、テレビだって観るよ。』


お行儀が良いとは言えないが、夕食時の会話は大事な家族のコミュニケーションである。


『たまには良いでしょ?』


大人たちは相変わらず飲み続けているが、食事が終わった子どもたちにはリンゴが出された。


『去年はさ、タイのホテルで麗さんたちと歌合戦を観てたんだけど、それから年越しの番組観てテレビのカウントダウンに合わせておめでとうって言ったの。そしたらまだ早いって言われてさ。』


日本とタイは2時間の時差があり、日本が新年を迎えた時、タイではまだ午後10時だったのだ。


『チカらしいよね、普段はしっかりしているくせにたまに抜けるんだから。』


テレビは歌合戦が終わり、年越しの番組に切り替わった。


『あけましておめでとうございます!』


2022年、礼和4年が始まった。


『チカ、誕生日おめでとう!』


『ありがとう。』


『え?白杉、今日誕生日なのか?』


高木も紀子もびっくりして尋ねた。


『今日は私の女の子としての誕生日なの。はずみんはその時の証人だから。』


高木も紀子も知香が3年前の正月から女の子として生活を始めたのは知らなかった。


『そうなの?おめでとう、知香さん。分かりやすい記念日って良いわね。』


『…………。』


紀子とは対照的に、高木がもじもじしている。


『高木くん、どうしたの?』


『……実は俺、……今日誕生日なんだ。』


『えー?!』


これには酔っぱらっていた大人たちも驚いた。


『高木くん、おめでとう!』


『よし、祝おう。ばあさん酒!』


すでに正月祝いをしているので状況は変わらないが俊之は調子に乗って佐知子に請求する。


『なに言ってるのよ?健介くん、改めて今夜お祝いするからね。子どもたちは早く寝なさい。』


『自分だけ受かれちゃってごめんね。高木くんと誕生日一緒って事だね。』


知香も少し照れながら高木に言った。


(※)礼和元年現在、長野県の春休みは他府県より長く、夏休みや冬休みは短いが、近年は夏休みを他府県並みにしようとする動きがある。

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