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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学三年生編
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俊之の企み

終業式の翌朝、俊之と一郎が車で知香たちを迎えに来た。


『ずいぶん早いね。』


まだ7時であるから、俊之たちはまだ真っ暗な5時前には長野を出たはずだ。


『きみらは初めてだな。』


『高木健介と申します。』


『高野紀子です。宜しくお願いします。』


知香とはずみを合わせて4人が車に乗り込み、一路長野に向かう。


『いっちゃんは受験勉強でだいぶストレスって聞いたけど実際どうなの?』


知香が従兄弟の一郎に尋ねる。


『ストレス?まあ、普通だけど。』


俊之が電話で言った事と違う。


(なにを企んでるんだか?)


途中、車は一度サービスエリアに立ち寄ったが、やたら急いでいる様子にも見える。


『あれ?長野インターで降りるの?』


実家に行くにはひとつ先のインターが最寄りだが、車は長野インターで降りてそのまま長野市内に向かった。


『おじいちゃん、どこに行くの?』


『みんなせっかく長野まで来たんだからお昼でもごちそうしようと思ってな。』


『お昼って言ってもまだ10時だよ。』


車は市街地に入り、大きなアンテナがある建物の駐車場に停まった。


『ここって……。』


建物から見覚えのある人物が出てきた。


『萩原さん?』


萩原は知香が二度の現場中継のインタビューに応じた時に会ったシナノテレビのディレクターである。


『白杉さん、わざわざありがとうございます。知香さん、はずみさん、お久し振りです。』


インタビューの時に知香は高校生になったら番組のリポーターをすると言ってしまったのだ。


『みなさんも遠路はるばるお疲れさまです。中へどうぞ。』


萩原の手引きでテレビ局の中に入る。


『おじいちゃん、どういう事?』


『私の方から説明致します。その前にこれから生放送が始まるスタジオを案内します。』


萩原がわざわざ生放送番組の現場を案内する。


スタジオに入ると、スタッフたちが放送前の慌ただしさを見せていた。


『広いねぇ。』


スタジオの中央で番組担当のディレクターと司会らしき男性二人が打ち合わせをしている。


『今やっているのは、[週末シナノスクランブル]と言って毎週土曜日の11時から3時までの生ワイド番組です。あの二人はピンチ&チャンスという若手芸人です。』


『知ってる?』


『さあ?』


ローカル番組に出ている若手芸人の名前など知らなくて当然だと思う。


『もうすぐ本番なので、会議室に行きます。』


一行はスタジオを出て会議室に向かった。


会議室に入ると、直ぐに萩原が口を開いた。


『単刀直入に申しますと、白杉知香さんと松嶋はずみさんのお二人に、シナノスクランブルの後番組のMCをお願いしたいのです。』


『MCって、私たちが司会をやれって事ですか?』


夏の話で高校生リポーターにという話をしたのは覚えている。


それがどうやって司会になってしまったのか?


『実は今のピンチ&チャンスは評判が今一つの割にギャラが高いんです。番組をテコ入れするか新たに違う番組にするかは検討中なのですが、知香さんとはずみさんの評価が高くて抜擢しようという話になったのです。


『ちょっと待って下さい。私たち、まだ高校も決まってないし、毎週長野に通うなんて出来ません。』 


知香もはずみも寝耳に水の話に否定的だ。


『もちろん、出演料とは別に往復の新幹線代は出します。後、知香さんのおじいさんが協力して戴けるとの事です。』


やはり俊之が一枚噛んでいたのだ。


『おじいちゃん!』


俊之は知香と目を合わさない。


『今のところ、高校生リポーターは新規に募集します。あと、アシスタントに田中を付けたいと思います。』


田中は二度知香にインタビューをしたリポーターだ。


『彼女もスタジオアシスタントは初めてですが、二人とも知っている方がやりやすいでしょう。』


なんか勝手に話が進められている。


『すみません、親に相談しないと返事が出来ません。』


知香は祖父が協力するが、はずみはまだ親の承諾を得ていない。


『すでに電話で仮承諾を貰っています。あとで書類をお渡し致しますので署名捺印して送って戴くだけです。』


外堀は埋められていた。


『どうしよう?』


『私は二人を応援します。』


『俺も。』


紀子と高木は部外者だから気楽だ。


『あと、坂井一郎さんもサブMC兼高校生リポーターをお願いします。』


『え?俺も?』


一郎は俊之を睨むがやはり目を背けた。


『一郎さんの評価も結構高いので、例えばはずみさんが来れない日は従兄弟MCとか、知香さんが来れない時は恋人MCという形でやって戴きたいです。』


前回のインタビューの時、放送では言わなかったが、萩原と田中にははずみが一郎を彼氏と紹介していた。


『ともやはずみたちは埼玉だから良いけど、俺は友だちとかに見られるか困りますよ。』


『一郎さんはすでにご両親の捺印も戴いています。』


萩原がファイルから一郎の契約書を出して見せた。


『くっ……じじい!』


どこまで俊之と萩原は話を進めているのか?


『みんな、よく聞いてほしい。』


俊之が急に真顔になった。


『おじいちゃんは単に孫たちをテレビで観たいとかの理由でこの話を受けた訳ではないんだ。』


知香もはずみも一郎も俊之の目を見た。


『とも。お前は性転換の手術に掛かる費用を自分で稼ぐと言っているそうじゃないか?バイトだけで2年半で稼げるのか?』


放課後と土日にフルでバイトをしても厳しい数字だ。


『一回の出演料は4時間で2万5千円だそうだ。1年間にするといくらになる?』


毎週出たとして約50週だから125万になる。


『高校生でこれだけ稼げる話はそうない筈だぞ。』


最初、萩原は俊之に2万円という提示をしたが、俊之が知香の事情を訴えてその金額になった。


それでも売れない芸人よりはるかに安い出演料なので萩原は了承したのだ。


『一郎もはずみちゃんと毎週会えるじゃないか?』


俊之は知香の親友であり、一郎の彼女であるはずみを大層気にいっている。


知香だけのMCなら萩原に断るつもりだったが、はずみも一緒だと聞いて乗る事にしたのだ。


『はずみん、どうする?』


『チカも一郎くんも一緒だし、私は断る理由がないよ。』


知香も諦めずを得なかった。


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