別れの時
受験をする高校が決まり、知香は毎日こつこつと勉強をして受験に備えていた。
また、高木に告白をされて以来、日に日に高木への思いは募り、同時に萌絵との距離を感じる様になっている。
(せめて一緒に勉強をしてくれたら良いんだけど。)
学力が劣り、志望する高校も危なくなってきている萌絵だが、一緒に勉強を誘っても一向に応じてくれないのだ。
(強行突破するしかないか?)
知香は次の土曜日に勉強道具を持って直接萌絵の家に押し掛ける事にした。
呼び鈴を押し、萌絵が玄関に出てくると萌絵はこの世の終わりの様な顔をしている。
『こんにちは。』
『なんで来たの?』
酷い出迎えの挨拶だ。
『なんでって一緒に勉強やろって思ってさ、ほら。』
知香は持っていた鞄を開けて教科書やノートが入っている中身を見せた。
『……いいよ。知香の足手まといになるだけだし……。』
『そんな事ないよ。教えている事で復習になるんだから。』
『いいって言ってるでしょ!』
なんでそこまで拒んでいるのか知香には分からなかった。
『ごめん、帰るよ。』
知香は萌絵の家を後にしたが、あれだけ自分を愛してくれたのにと思うと胸が切なくなった。
週明け、登校して教室に入ると気になるのはやはり高木の視線だ。
知香は確実に高木への気持ちが強くなっているのを実感している。
『おはよう。』
『おはよう、元気ないね。』
雪菜はすぐに知香の顔を見て言った。
『萌絵に嫌われた……。』
『いいかげんこっちから振っちゃえば?ともちはもう女の子なんだし、いつまでも萌絵に合わせる事はないんじゃない?高木もいるんだし。』
この際高木は関係ないが、萌絵と別れるのもありかもしれない。
しかし、知香は萌絵を傷付けたくないと思っている。
『その辺はともち、男の子なんだよ。女の子ってさ、うじうじしているみたいで男の子よりドライだから。』
割り切れと言われてもそう簡単に割り切れるものだろうか?
知香が悩んでいると、教室の外から奈々が知香を呼んでいるのが分かった。
『どうしたの?』
『一昨日、萌絵んちに行って追い出されたでしょ?あの時、私萌絵んちで一緒に勉強していたの。』
だったら余計に一緒に勉強すれば良いのに水臭いと知香は思った。
『萌絵ね、本気で服飾デザイナーになりたいって言ってる。勿論私もそう思っているんだけど、だから今のままじゃいけないって。』
『今のままじゃいけないなら勉強いくらでも教えるって言ってるのに。』
『そうじゃなくて、知香に甘えたくないみたいよ。知香の顔を見ると、つい甘えちゃうからだって。』
それは分かるが、ではどうすれば良いのか?
『放課後、萌絵と会ってくれる?』
来た!これは覚悟を決めなきゃならないヤツだ。
『二人だけで会うの?』
『知香が良ければ私立ち会うし。』
『なら、こっちからも私が行くよ。このままともち一人に寂しい思いをさせたくないから。』
話を後ろでずっと聞いていた雪菜が言った。
雪菜は気が利きすぎて怖いと思う。
放課後、知香と雪菜、萌絵と奈々の4人はスノーホワイトの隅の席に集まった。
『みんなで勉強するって言ってあるからさ。今の時間ならほとんど客来ないし。』
雪菜はそう言ってジュースを配ったが、萌絵は俯いたまま、知香は俯いた萌絵の頭を見ながらなにも話さない。
『萌絵、どうするの?』
奈々が急かすが萌絵はこういう場で積極的に話をする事が出来ない。
『……萌絵は自分の夢を叶えるために私が邪魔なの?』
仕方なく知香の方から切り出した。
『……邪魔じゃあないよ……。』
か細い声で萌絵は答えた。
『じゃあなんで私を避けるの?』
ここははっきり聞かねばならない。
『……知香は誰にも優しくするし、気になってダメなの。学校が分かれたらもっと辛くなると思う……。』
『だから無理に忘れようとするわけ?』
萌絵は黙って首を縦に振る。
『分かった。私も萌絵の事忘れる。それで良い?』
萌絵は知香の目を見て、それは嫌だと目で訴える。
『ごめんね。萌絵を見ていたらそれしか結論が出てこないんだよ。……別れよう。』
たぶん、萌絵は自分の口から別れようと言うつもりだったはずだ。
どちらにしても傷は付くのであればはっきり自分から引導を渡した方が良い。
萌絵は再び俯いて、嗚咽した。
『知香、ごめん。私が萌絵を送るから。』
奈々は立ち上がって萌絵の肩を支え、二人で店を出た。
『仕方ないよ。道が違うんだから遅かれ早かれそうなってたと思うし……。』
雪菜が知香を励まそうとすると、知香も俯いて泣いていた。
『ううっ……バカ萌絵……。』
知香自身、覚悟をしていたとはいえ、別れるのは辛かった。
雪菜は知香が落ち着くまで知香の傍に寄り添っていた。




