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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
小学六年生編
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知之の卒業式

ファーストキスを奪われた日から卒業式の前日まで萌絵は毎日知香の家に迎えに来た。


萌絵は一緒に居てももともと喋らないので、他のメンバーに怪しまれる事は無く、知香一人で意識していた。


『チカ、どんな服着るのかな?楽しみ。』


卒業式は[知之]として男子の恰好で参加するので、パーティーで知香がどんな服装で来るのかが話題の中心になっていた。


『幹事だから司会もやるんでしょう?ど派手に行こうよ!』


知香は苦笑いした。


(いっそ、やぎっちと二人で司会やる事にすれば…)


知香が萌絵を見るが、果たして萌絵が司会など務まるのだろうか?


そういう知香だって少し前までは人前で会話する事も出来なかったのだから何とかなる……


『やぎっち、一緒に進行やってくれないかな?』


突然振られて萌絵は戸惑った。


『……え?……私が?』


『その方が言い訳出来ると思うの。一緒に頑張ろ!』


知香の誘いに、萌絵は顔を赤らめていた。


(あ、喜んでる。)


これはこれでありだと思う。



ついに六年間通い続けた青葉台小学校の卒業式の日がやって来た。


久し振りに男の子らしく、ワイシャツに黒い長ズボン、女の子としても着れるベージュのベストを身に着ける知香。


だいぶ伸びた髪はポニーテールにした。


『どう見ても男装した女の子にしか見えないわね。』


由美子はいろいろ知香の髪をいじってたが、結局妥協したようだ。


『おはようございます。』


お隣の島田さんに挨拶をした。


『おめでとう。ともかちゃ……ともちゃん?』


どちらの名前で呼ぶべきか、島田さんが戸惑っていた。


『ありがとうございます。』


由美子はグレイのスーツ姿で歩いて一緒に学校に向かう。


『おはよう、チカ!』


奈々が母親と一緒に歩いてきて元気に挨拶した。


『おはようございます、いつも奈々がうるさくて申し訳ございません。』


奈々の母親が謝まりながら挨拶をするが、実は奈々から知香の事をいつも聞いていたので興味本位で付いてきたのである。


『ねぇねぇチカ、今日パンツってどっち穿いてんの?』


『今日は男物だよ。ブリーフ久し振りに穿いてみた。』


奈々の問いに素直に答える知香。


『奈々!聞いているわよ!』


奈々の母が怒るが、[知之]も奈々も由美子も笑った。


10分ほどで学校に到着して綺麗に装飾された校門を潜り、五年生の生徒からリボンを付けてもらう。


その奥にいつもの白衣ではなく緑色のスーツを着た保健室の山本香奈子が立っていた。


『おめでとう、知香さん。今日は白杉くんね。』


香奈子は保健室に居た時はずっと[知香さん]と呼んでいたが通常は生徒を呼ぶ場合は苗字で呼んでいる。


『ありがとうございます。先生のおかげでここまで来れました。』


由美子と一緒に[知之]は深くお辞儀をした。


玄関の前で体育館に向かう母たちと別れて[知之]たちは教室に向かった。



『チカ、おはよう!今日はかっこいいね。』


直接母親と一緒に登校したはずみと教室で挨拶するのは久しぶりだ。


知之だった時、一応同じ班の生徒には挨拶だけはしていた。


『おはよう。いつもはカッコ悪い?』


『そうじゃないよ、いつもは可愛いって言ってんの。』


知之の姿で以前はこんな会話を交わした事は無かった。


体育館に向かう時間となり生徒全員が立ち上がった。


『いよいよだね。』


のぞみに声を掛けられる。


『うん。』


みんなの顔が引き締まった。


体育館に入り、音楽と拍手に迎えられて入場する[知之]たち。


知香が保護者たちの席の前を進むと、ひそひそ話をする親たちも居てその声も漏れて[知之]の耳にも入ってきたが気にせず堂々と歩いた。


由美子や親友の母たちは自分の子供と同じ様に応援するようなまなざしを送ってくれているのが分かった。


校長先生や来賓の眠くなるような挨拶が続いて、卒業証書の授与式へと移る。



男女混ぜ合わせで五十音順に生徒の名前が担任の佐藤から呼ばれ、一人づつ壇上で校長先生から卒業証書を受け取る。


『白杉…知之!』


他の生徒を呼ぶ時と違ってほんの一瞬苗字と名前に間があったような気がする。


『はい!』


前日の練習通り、校長先生から卒業証書を受け取る[知之]。


『知香さん。これからも頑張ってくださいね。』


小声だったが、校長の声はマイクを通して体育館中に響いた。


校長先生とは話をした事が無かったけれど、学校が知香を受け入れてくれるのには校長を始め先生たちの陰の尽力があった筈である。


『はい!』


感謝を込めて[知之]は返事をして壇から降りた。



式が終わり、生徒たちがおのおの親が構えたカメラに収まる。


生徒からも親からも[知之]は人気の的だった。


『女の子の白杉さんも撮ってみたかったよ。』


美久の父親、原田徹が自慢の高級一眼レフ機を構えて言った。


山や自然の撮影が好きな徹は登山中にケガをして看護師をしている母・美子に出会ったという。


美子は美久には『看護師になっても入院患者には騙されない様に』といつも言っているとの事だった。


男子からも女子からもモテモテの[知之]であったが後日、貰った写真を見たら黒川がみんなに紛れてかなりの枚数で写っているのに気付いた。


これで悪夢から解放されるとは思ってはいなかったが、無事[白杉知之]の卒業式は終わった。




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