最後の審判
知香たちはこのみのいる二年C組に向かった。
『このみさん、生き生きしておりますね。やはりあの子はメイドのままの方が良かったのでしょうか?』
麗は自宅で窮屈そうにしているこのみを不憫に思っているのだった。
『大丈夫ですよ、こうちゃんは一生懸命麗さんの妹になるために頑張っているんですから。文化祭が終わればちゃんと切り替えるはずです。』
二年C組の教室に入ると、すぐにこのみが出迎えた。
『いらっしゃいませ。……田中くん。』
深くお辞儀をして、別の生徒を呼んだ。
『いらっしゃいませ。』
田中という男子生徒はこのみと背格好が同じくらいだが声が低い。
既に変声期は終わっている様だが無理に高い声を出している訳ではなく、心地よいトーンである。
『知香さん。』
『はい。』
知香も麗もこのみが田中を二人の席に付けた理由を理解した。
声は低いが無理に女性っぽく高くするのではなく接客を受ける側が一番心地よく感じる高さをこのみと田中は練習していたのだ。
『たぶんあの男子、女の子になりたい訳じゃないと思うけど、素質は充分ありますね。』
女装男子が一番苦労するのは声である。
しかし、無理に高い声を出すより相手が違和感なく聞こえるトーンを堂々と話す方が自然なのだ。
『あれ、男の子なの?』
知香やこのみを見て目が肥えているはずのいずみも迷った。
田中の接客は麗が見ても知香が見ても完璧なものだった。
『このみさんに脱帽ですわ。』
自ら接客をするのでなく、田中を付かせたこのみに麗も知香もこのみのメイドとしてのスキルの高さを感じるのだった。
このみは麗や知香を見て軽く微笑んだ。
二年C組の教室を出て、知香は麗たちを玄関まで送る。
『このみさんにはしてやられましたわ。』
『麗さん、大丈夫ですよ。こうちゃん、あれだけのスキルを身に付けるために努力したんだからお嬢さまになる努力だって惜しまないと思いますよ。』
『チカねぇが卒業したら私が学校でこうちゃんを見て麗さんに報告します。』
『いずみさん、頼みますわ。』
麗といずみはすっかり仲良しになった様だ。
『知香さん、集計の方は大丈夫なの?』
生徒会の先輩であるひな子が心配する。
これからアンケートの集計を行ない閉会式での表彰をもって知香の生徒会長の役目は終わる。
『はい。このまま受付に行って集計箱を回収します。』
『最後のお仕事、頑張ってね。』
3人を見送り、集計箱を持って急いで生徒会室に向かった。
『ごめんね、遅くなって。』
『もう、ほとんど集計終わってますよ。』
しおりに叱責され、急いで集計箱を開ける。
アンケートの数に、生徒会の減点票を合計して計算し、各賞が決まる。
決定した賞のクラスをパソコンに入力して、表彰状を印刷するのは新しく書記になる早紀の役目で、その間に知香たちは体育館に向かった。
体育館には既に全校生徒が集まっている。
知香は壇上で最後の挨拶に臨んだ。
『みなさん、お疲れさまでした。今年は例年以上に盛り上がったと思います。生徒会も只今を持ちまして新しい執行部に代わりますが来年以降ももっと盛り上がる様、期待しています。ありがとうございました。』
体育館が拍手に包まれた。
知香にはもうひとつだけ仕事が残っている。
壇上には新副会長の村田が立った。
『それでは、各賞の発表を行ないます。今回は生徒会特別賞としてメイド喫茶対決がありました。三年C組も二年C組も好評で、特別賞に相応しい内容でした。』
村田が一呼吸おき、発表する。
『厳正な審査の結果、メイド喫茶対決の勝者は二年C組に決まりました!』
勝負を分けたのは後半だった。
お互い、最終盤のだらけムードを一掃したこのみの意地が萌絵たちを上回ったのだ。
知香が二年C組の学級委員・古谷美奈に表彰状を渡す。
『次に、個人賞を発表します。これはクラスの枠を越えて個人として頑張った生徒を表彰するものです。まず、三年C組の菊池奈々さんと八木萌絵さん。』
知香はなんとか萌絵たちの頑張りに報いてあげたいと、無理やり賞を新設したのだ。
『もう一人、一年B組赤坂直樹さん。』
ここからは知香ではなく新会長のしおりから表彰状が授与された。
『次に企画賞、一年B組!』
赤坂は個人賞と2冠である。
『今年の最優秀賞は三年A組!』
知香がシンデレラを演じた三年A組が大賞を受賞した。
高木が表彰状を受け取り、そのまま壇上でマイクを持った早紀からインタビューを受ける。
『それでは、最優秀賞を受賞した三年A組の学級委員、高木さんにインタビューをします。……高木さん?』
高木は真っ赤な顔で幕尻にいた知香を呼び寄せる。
(ばか!なにやってんの?ここは学級委員の役目でしょ!)
『あの~、高木さん?……どうやら隠れている主演の白杉さんを呼んでいるみたいです。』
(早紀ちゃんまで余計な事を!)
早紀は生徒会室で知香から状況判断をしろと言われたので高木の気持ちをくみ取り、アドリブで実況した。
『白杉さん、みんな待ってますよ~。』
『しっらすぎ!しっらすぎ!』
早紀の呼び掛けで白杉コールが起こった。




