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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学三年生編
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萌絵の涙

人に懐くのが得意ないずみは麗の心まで掴んだ様で、バスケの練習を見てもらうばかりか、いずみが好きなライトノベル小説まで麗が興味を抱く様になった。


『私、一度生徒会室に帰るけどいずみちゃんはどうする?』


10時近くになり、生徒会室にもどる時間になった。


『麗さんやこうちゃんたちと一緒に回って良い?』


『じゃあ昇降機の鍵はこうちゃんに預けるから。職員室にも言ってあるから使う時は回りの人に気を付けてね。』


3人と分かれ、知香は生徒会室に戻った。


『ただいま……いっ?』


生徒会室は毎年部屋の一部を休憩室として開放していて普段はあまり用のない生徒も入る事が出来るが例年はあまり生徒が立ち入る事はなかったが、今日はやたらと大勢集まっている。


『やっと帰ってきた……知香先輩!みんな先輩を待っていたんです。』


留守番をしていた早紀が助けを求めた。


どうやらその多くが劇を観た一年生の様だ。


『白杉会長、来たぁー-。』


『握手して下さい!』


なにを勘違いしているのだろうか?


『これじゃあ父兄のみなさんが休憩出来ません。自分たちの教室に戻るか、他のクラスの見学に行って下さい。』


なんとか生徒たちを追い出して、特別な用事のない生徒は入室出来ない様に扉に張り紙をした。


『なんでこうなったの?』


知香は早紀を問い詰めた。


『最初は私の友だちの二人だけ生徒会室に連れてきたんですけど話を聞いてどんどん増えてきちゃって。』


『早紀ちゃんは今回初めてだけど状況を判断しないとダメだよ。』


二年生のしおりたちは大丈夫だが、一年生の早紀はまだ不安に感じる。


『すみません。』


『私も最初はこんなだったけどね。でもひな子先輩って他の人には優しいのに私にだけは厳しい先輩がいて鍛えられたの。大丈夫だよ。』


落ち込む早紀を慰めるのも先輩の役目である。


『まだ鍛え方が足りないのかな?』


『ひな子先輩!』


どこに隠れていたのか、勝手知ったる生徒会室の隅から樋田ひな子が出てきた。


『会長なのにクラスの劇の主役とか相変わらずだよね、知香さんは。しかもパンフレットの別刷りなんて前代未聞だし。』


ひな子はパンフレットをソファのテーブルに置いた。


『すみません。私の見ていないところで勝手に……。』


『と言っても最終判断は会長なんだからね。暴走するくせに他人には甘いんだから。』


早紀がくすくす笑っている。


『せんぱ~い、もう止めてくださいよ。』


生徒会長最後の日なのに知香は怒られた。


『でもメイド喫茶対決だなんて知香さんらしい発想だよね。こういう目玉、今までなかったから面白いよ。』


『三年C組も二年C組も中心になっているのが私の知っている子だから焚き付けるのも良いかなって思って。』


『このイラストって知香さんの後輩男の娘の上田さんと彼女の八木さんだよね。どうせならそこまでパンフレットに書いて煽れば良かったのに。』


萌絵が知香の彼女と聞いて早紀が驚いた。


『先輩だってそうやって人を出しにして遊んでるんじゃないですか?』


『知香さんはそういう宿命なんだから良いの。』


生徒会の役員になった時から知香はこの先輩には勝てない。


『先輩はメイド喫茶に行かれました?』


『まだよ。知香さんが案内してくれるんでしょ?』


『私、最後の見回りが1時からでその時に両方回るんですけれどそれまで大丈夫ですか?』


『今日は1日いるつもりだから大丈夫。宜しくね。』


こういう先輩が一人だから良かったが、何人もいたら早紀に示しが付かないと知香は思った。



1時になり、いずみが麗の車イスを押して生徒会室にやって来た。


『こうちゃんは?』


『自分の教室に行ったよ。チカねぇ待ってるから宜しくだって。』


『じゃあ3年C組を先に回りましょうか?』


今度はひな子と麗、いずみの3人と一緒に行く事になった。


『チカねぇ、鍵。』


いずみはこのみから預かった昇降機の鍵を知香に渡して3階に移動する。


4人が3年C組の教室に到着するとだいぶ賑わっていたが、一部の男子は疲れたのか少しだらけていた。


『メイド服を着てあの態度は良くありませんわね。』


さすがにお嬢さまの麗の目は厳しい。


『確かに、目立ちますね。』


知香はチェック表に減点1を入れた。


『いらっしゃいませ。』


ありさが4人を出迎えた。


『ちょっと酷くない?あの男子たち。』


『面目ない。やぎっちは男子に物言えないから拗ねちゃうし、奈々はキレちゃってもう大変。』


学級委員のありさは責任を痛感していた。


『自分のクラスなら言っちゃうんだけどなぁ。』


あくまで生徒会は中立の立場なので直接指導したり手伝う事は出来ない。


『萌絵はいるの?』


『うん、ベランダでふさぎ込んでる。』


知香が立ち上がり、ベランダに向かおうとする。


『知香さん、中立!』


ひな子が余計な事をしてはいけないと制止する。


『先輩!これは生徒会じゃなくて萌絵の恋人として個人的に言うだけです。』


『まあ。知香さん、相変わらずですわ。』


麗も知香の出方を見守っている。


『萌絵、しっかりしてよ。』


ベランダの扉を開けると萌絵が蹲っていた。


『知香……。』


半べその萌絵が振り返った。


『何のために頑張ってきたの?萌絵がちゃんとしなきゃ!』


知香が萌絵を抱きしめると教室の生徒や父兄がどよめいた。


『だって、みんな……。』


『みんなじゃないの。萌絵が頑張ったのは私が知っているんだから。夏休み私に会おうともしないで一生懸命縫ったんでしょ?』


『………うん………。』


萌絵は蚊の鳴くようなか細い声で答えた。


『涙を拭いて、びしっとしたメイドさんやってよ。麗さんも樋田さんも待っているから。』


『……分かった……。』


萌絵は立ち上がって涙を拭いた。


『……いらっしゃいませ……。ご注文は何になさいます?』


麗たちの前で萌絵はしっかりとオーダーを取った。


『オレンジジュースを4つお願いしますわ。』


『畏まりました。』


萌絵が立ち上がったことで、奈々も戻ってきた。


『やっぱり知香さんね。でも贔屓はダメよ。』


ひな子は感心しながらも釘を刺すのを忘れない。


『飲み終わったら2年C組に行きます。向こうはこうちゃんだしどっちかに偏るなんて出来ませんよ。』


知香は涼しい顔でひな子に応えた。


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