三年A組のシンデレラ①
文化祭初日の朝、新旧執行部の役員が生徒会室に集合した。
集まったのは現会長の知香、副会長の吉村と現書記で新会長の佐藤しおり、副会長の村田義人、それに書記になる吉田早紀である。
『おはようございます。この5人が揃うのは今日明日の2日間だけです。事故なく無事に文化祭を終えて佐藤さん始め新執行部にスムーズに引き継げる様、頑張りましょう。どうぞ、宜しくお願いします。』
知香が挨拶をして、5人が輪になって右手を重ねて吉村が気合いを入れた。
5人はその後手分けをして、校内の最終チェックに向かう。
各教室は最終準備に向けてどのクラスもばたばた動き回っていた
8時30分に体育館で開会式を行なうが、三年A組は直ぐに舞台の準備をして9時15分スタートの劇に備えなければならない。
『あ、ともち。着替えどうするの?』
衣装担当の雪菜が知香を見付け、声を掛けた。
『どうするのって開会式が終わってから直ぐ着替えるよ。』
『それじゃ間に合わないよ。開会式は劇の衣装で出ちゃいなよ。』
確かに忙しいが、雪菜が言う様に間に合わない訳でもないと思う。
『なんでシンデレラの格好で生徒会長が開会宣言をしなきゃいけないの?またいろいろ言われちゃうよ。』
何かにつけ目立つ知香だが、これ以上目立つ事はないシチュエーションである。
『良いじゃん、最後なんだし。伝説を作れば?』
『そうだよ、やっちゃえ!』
作業をしていたクラスメイトたちがみんな一斉に囃し立てる。
『謀ったな~。』
知香がいない時にクラス全員で謀った様であり、知香は文化祭開会式の挨拶をシンデレラの衣装を着て行なう事になった。
『早く、先生や他の生徒が来るから着替えて!』
雪菜は知香を舞台袖に追いやり、制服から舞台衣装に着替えさせられる。
『恥さらしだよ。』
『舞台挨拶みたいで良いじゃん。』
文句は通用せずもう8時30分が近付いてきた。
他のクラスの生徒たちが集まってきて、舞台で準備を進めていた三年A組の生徒たちも列に並んだ。
文化祭実行委員長の北野が舞台袖に上がり、知香に声を掛ける。
『生徒会長、いますか?……わ、もう舞台衣装?』
『クラスのみんなが先に着ろってうるさくて負けちゃった。ごめん、段取り通り挨拶して。』
知香に促され、北野が出ていく。
『みなさん、おはようございます。今日、明日の文化祭、準備は宜しいでしょうか?今年は目玉対決などもあり各クラス盛り上がっていますので事故等がない様頑張って下さい。では、白杉生徒会長、開会宣言をお願いします。』
長いスカートの裾を掴みながら知香は舞台袖からマイクがある中央に向かった。
『おおーっ!』
まさか生徒会長がシンデレラの格好で挨拶をするとは思わなかった生徒たちが歓声を上げる。
ただし、他のクラスの生徒たちの中にも制服ではなく出し物に合わせた衣装を着ている生徒もいて、このみもメイド服を着ているのが壇上から確認出来た。
『只今より、2021年度市立第三中学校文化祭開会を宣言します!』
歓声が大きくなり、知香はすごすごと逃げ帰る様に舞台袖に下がった。
開会式が終わると生徒たちが自分の教室に戻り、体育館に残ったのは三年A組の生徒だけになった。
『ともち、最高だよ。』
『頭から火が出るかと思ったよ。』
準備する時間は10分足らずなので知香たちキャストは最後のセリフチェックを行ない、その他の生徒は大道具の設置に追われた。
『三年A組さ~ん、開場しま~す。』
9時になり、実行委員の合図で開場になると一般客が体育館に雪崩れ込んできた。
『どんどん集まって来るよ。』
三年A組の劇は今日も明日も朝一番の1回づつなので他のクラス展示より先に観ておかなければならないが、それにしても多すぎる。
『先生たちも結構いるし。』
開会式の後職員室や自分の教室に戻ったはずの先生の多くが劇を観るために体育館に引き返してきた。
『さ、みんな集まって!』
寧々が号令を掛け、作業を終えた生徒全員が集合し輪を組む。
『一生懸命準備した成果を見せよう!』
『おーっ!』
変身前のシンデレヲ役の藍が舞台の中央に立ち、ナレーションの紀子が第一声を発した。
『只今より、三年A組の創作劇シンデレヲを開演致します。』
幕が引かれると来客から大きな拍手が巻き起こった。
藍は見窄感じの男の子風にメイクをしていてほうきで掃除をしていて、そこにそれらしく女装メイクをした継母役の本間たちが現れる。
『シンデレオ、しっかり掃除している?』
『はい、お義母さま。』
『ワタクシたちはこれからお城の舞踏会に行って参ります。貴方には一生縁のない場所ですからお留守番頼みますね。せいぜいしっかりお掃除なさい。』
『今日は王子さまがお妃を決める大事な舞踏会ね。王子さまに見ていただける様、目立つ装いをしましょう。』
『お姉さま、抜け駆けはいけませんわ。王子さまのハートを射止めるのはワタクシでございますわ。』
義姉役の瀬川と冬木がシンデレオに言い捨てて幕尻に退場した。
『本当は私もきれいに着飾って美しい女性になりたい。でも私は見窄らしい男の子。このままお義母さまやお義姉さまにこき使われていく運命……。』
そこに、魔法使い役の高木が現れる。
『誰?』
『私は魔法使い。お前の話は聞かせてもらった。お前の願いを叶えてあげよう。』
高木が杖を上げ、床に敷いていた黒い幕の両端をスタッフの生徒が引っ張りあげて観客には藍の姿が見えなくなる。
そこに知香が後ろから中腰で出てきて藍と入れ替わり、黒い幕が下ろされた。
知香が登場すると会場は大いに沸いた。
(なに、この盛り上がり様?)
知香の演技が始まった。




