ファーストキス
知香は雪菜の家に来ていた。
『20人も集まるんだ?』
卒業後のパーティーの話を雪菜にすると、そんな言葉が返ってきた。
『実はウチのクラスもやるの。一人1000円でサービスランチと飲み物付き。』
通常飲み物付きで税別1200円のハンバーグとパスタのサービスランチだが、小学生からそんなに取れないし娘の頼みなので破格値となった。
『お店に行っておとうさんに頼んでみよう。』
雪菜は知香を連れて自分の部屋から同じ建物の中にあるお店の厨房に降りていく。
『ゆき、どうした?お、ともちゃん。聞いていたけどびっくりしたよ。ホント普通の女の子だ。』
仕込みをしていた雪菜の父、猛は手を休めて振り返った。
『こんにちは、おじさん。ユッキーから聞いて、ウチのクラスもここでパーティーやりたいんですけど。』
『同じ条件で……と言う事だよな?』
猛は考えた。
希望の日は卒業式の翌日で雪菜たちと重なる。
あまり卒業式から日を空けてしまうとみんなのスケジュールが合わなくなるからだ。
『だとすると、11時からと1時からの二回に分けるか……人手も足らんな……。』
『私たちが手伝おうか?』
雪菜が申し出た。
『何言ってんだ?小学生のくせに。だいいちお前たちも参加するんだろ?』
猛が呆れて雪菜を見る。
『だから、私たちのパーティーの時はともちが手伝いをやって、ともちたちの時は私が手伝うの。ともち、この前ウチの制服着たいって言ったでしょ?』
着たいと思ったのは事実だが、雪菜が着たいんでしょと言ったから答えただけだ。
『どうせ4月から同じ学校になるんだからお互い顔見せ出来て良いかもな。』
娘の提案に乗る父・猛。
『それぞれ3・4人づつホールに立ってもらって、後洗い場もお願いするかな?』
『おとうさん、調子乗り過ぎ!』
会場は決まった。
雪菜の家と萌絵の家は近いので帰りに寄ってみる。
あれ以来どうも萌絵の事が気になって仕方ない。
『……こ、こんにちは。』
連絡も無く急に知香が自宅に来たので萌絵は驚いていた。
さすがに今日は普通の服だ。
『卒業式の日、ホントに男の子で出るの?』
元はと言えば萌絵が未練があるかもと言ったからだ。
『……女の子のチカちゃんと一緒に卒業式に出たかった……。』
『私は私だよ。』
萌絵は、女の子としての知香に拘っていた。
『その為に次の日にパーティーやるって言ったんだから良いじゃない?』
『……お願いがあるの……。』
知香は嫌な予感がした。
『チカちゃん、パーティーの時に私のドレス着てくれる?』
あの、姫ロリと呼ばれるドレスをみんなの前で披露しろというのだ。
たぶん、他のみんなは着飾っても卒業式で着る服くらいだろう。
さすがにそういう場所であのドレスは浮いてしまうのが分かる。
『だったら、やぎっちも一緒に着てくれる?』
せめて、萌絵と一緒なら恥ずかしさも半減する。
萌絵の顔が真っ赤になった。
やっぱり、萌絵は知香一人に着てもらうつもりだったみたいだ。
逆に萌絵が人前で目立つ格好をしたらみんな驚いて見直してくれるかもしれない。
『一緒に着ようよ。』
『……恥ずかしいよ……。』
人に着てくれって言ったくせに、自分は恥ずかしいから嫌だという。
勝手なものだ。
『じゃあ、この写真みんなに見せちゃうよ。』
知香と萌絵がロリータの格好で抱き合っている写真。
脅迫しているみたいだが、売られたケンカの様なものだ。
『ダメだよう〜。』
なかなか敵は陥落しない。
『じゃあさ、一緒に着てくれたらやぎっちの言う事何でも聞いてあげるよ。』
『……ほんと?』
萌絵の目が突然輝いたように見えた。
(地雷踏んだ?)
知香が焦った。
『じゃ、キスして良い?』
突然の萌絵の変化に知香はうろたえた。
『……ちょ、ちょっと……女同士……じゃなくワタシ男で……ああ、なんだか分からない!』
知香はパニックに陥った。
萌絵の唇が知香に触れる。
柔らかくてほんのり甘い香り……。
別に男の子が好きで女の子になったわけではないけれど、女の子にファーストキスを奪われてしまった。
『チカちゃん、好き……。』
知香は萌絵の世界へ引き込まれそうな気分になった。
『一緒にドレス着てにパーティー出るよ。』
萌絵は知香の手を握るが、知香は萌絵の顔を直視出来なくなっていた。
自宅に戻った後も知香の胸は張り裂けそうだった。
『どうしたの?ともちゃん。』
『なんでもないよ。』
由美子に問い詰められ、知香は顔が赤い。
まさか萌絵に唇を奪われたとは言えない。
『ユッキーのところで卒業パーティーをやる事に決まったから。』
『あらそう。雪菜ちゃん、知っている子結構いるんじゃない?』
『どうかな?ユッキーたちのクラスでもパーティーやるから、お互いのパーティーを手伝うの。』
そう言って萌絵とのキスの話とは別の話題に逃げる知香だった。




