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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学三年生編
201/304

豊の決意

『お嬢さま……。』


このみを見た豊は呟いた。


そこにいるのは困難にめげず女の子になりたいと願う親友ではなく、紛れもないお嬢さまである。


『ごきげんよう、知香さん、豊さん。お母さま、お姉さま、遅くなって申し訳ございません。』


このみが座ると康子が目で頼子に合図をして頼子と遥がスープを配り始める。


『いただきます。』


5人は静かに食事を始めた。


(ただの昼ごはんなのにこんな事しているのか。)


豊は味すらも分からない。


『お母さま、とても美味しいですわ。』


『麗さん、ありがとうございます。』


麗と康子の会話が儀礼的なものなのか本当に美味しいのかよく分からない。


ただ康子の事は以前から知っているが、このみ以上に別人に思える。


『このお料理は自分で覚えたんですか?』


知香が康子に尋ねる。


『ここに来てやる事がないので勉強したのよ。』


そんなものなのかと豊は思う。


やる事がないから料理の勉強をしているなんて自分の母親は言うだろうか?


『このみさん、本日のお勉強は如何でしたか?』


こっちも勉強か。


『はい、お姉さま。本日は短い時間でしたので数学と英語だけを学びました。』


豊は勉強嫌いのこのみが頑張っているのを聞いて、会話に加わってみようと思った。


『このみさんは勉強頑張っていらっしゃるのですね。』


(あれ?)


必死にこのみや遥を真似て言ってみたがたどたどしいし、頭が痒くなってきた。


『清水さん、無理しないで普通にお話しても宜しくてよ。』


生まれついてのお嬢さまである麗に笑われる。


『私も普通に喋っているから大丈夫だよ。』


知香も豊をフォローしてくれた。


『は、はい。すみません。う…こ、このみさんは学校でもこんな感じでお話しするの?』


どうしても上田と呼びそうになる。


『お姉さまがおっしゃるには、私次第だそうです。使い分けが出来るなら中学では今まで通りの話し方の方が良いと言われております。』


このみなら使い分けは出来るだろうし、こんな歯の浮く様な喋り方をしていたら友だちも困るだろう。


『高校はそうはいかなくてよ。このみさんにはミッション系の女子高を受けて戴きますから。』


麗がとんでもない事を言っている。


『女子高ですか?』


知香が驚いて聞き直した。


『私も進路指導の先生と話してますけど、敢えて女子高を選ぶ事はないって言われましたが、果たして大丈夫なんですか?』


性的少数者が社会的権利を獲得しつつある昨今、表立って反対する高校はほとんどないと思われるが、試験を受けても意図的に落とされるかもしれない。


その行為が良いか悪いかではなく、仮に女子高に入学出来たとしても他の生徒がどう受け入れるかが焦点となるだろう。


『その為にあらゆる手段を考えておりますのよ。先ずはこのみさん自身がが完璧でなければいけませんわ。』


あらゆる手段といってもこのみに完璧を望むなら裏口という訳ではない様だ。


あくまで正々堂々試験に合格する成績を修め、これでも落とすのかという今井家らしい正面突破のやり方なのである。


『ところで知香さんはどちらの高校に行かれるのですか?』


話題は受験生の知香に振られた。


『まだ決まっていませんが私はさすがに女子高は行けないので、県立の共学が第一志望です。』


『それは勿体ないですわ。知香さんなら少し頑張ればワタクシの学校に入れますのに。』


さすがに知香は無理だと断った。



知香と豊は帰り道、話しながらゆっくり歩いていく。


『緊張したねぇ~。』


『白杉さんも緊張していたんですか?そうには見えなかったけど。』


豊は知香が堂々としているのを見てどこが緊張しているのか分からなかった。


『毎日あんな食事はしていないみたいだよ。今日は私がこうちゃんの友だちを連れて行くって言ったから特別みたい。』


『……なんか、手の届かないところに行っちゃった感じですね。』


豊は寂しそうに呟く。


『清水くんもこうちゃんと釣り合いが取れる様になれば良いんじゃないかな?』


『ちょ、白杉さん!馬鹿な事言わないで下さいよ。』


『でもね、全然可能性がない訳じゃないと思うよ。今から勉強頑張れば良いんだし。』


このみみたいに優秀な家庭教師が付くか、塾で猛勉強するしかない。


『ダメですよ。部活やっているから来年引退するまで塾とか行かれないです。』


『部活ねぇ。……そうだ!野球頑張って、高校に行ったら甲子園に出て、プロ野球で活躍すれば良いんだよ!』


『白杉さん、プロ野球で活躍だなんてもっと大変ですよ。まだ勉強頑張った方が可能性あるかもしれませんよ。』


『じゃ、勉強頑張ろうか?さすがに一緒に女子高は無理だけど、今からなら進学校には行けるよ。』


知香は一瞬女子高を目指せるこのみを羨ましく思った。


一方の豊はとりあえず今やれる事をやるしかないと決意を新たにしていた。



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