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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学三年生編
193/304

このみのシンデレラ物語

『隣は母の部屋なんですが、こちらも凄いんです。』


このみの案内で康子の部屋に行ってみる。


『お母さん!』


康子はふかふかな絨毯の上にへたり込んでいた。


『こうちゃん、もう帰ろう。お母さんこんな部屋で生活なんて無理。』


康子の部屋はこのみより少し狭いが勉強机の代わりに立派な鏡台がある。


『もうアパート解約したし、無理だよ。』


一流ホテルでもスィートルームに匹敵する内装だ。


『上田さん、どうされました?』


ドアを開けた状態で康子とこのみが話していたので頼子が駆け付けてきた。


『私たち、こちらには使用人として参ったのにこんなに良いお部屋だなんて住めません。』


『使用人で無ければ良いのでしょうか?』


『は?』


頼子は何か知っている様だ。


『もうすぐ旦那さまも戻られますしお嬢さまもいらっしゃいますので下でお茶でも如何ですか?』


全員で1階のリビングに移動した。


『ここも凄いね。』


豊と遥はきょろきょろしている。


『皆さまお疲れさまです。知香さん、お久し振りですわね。そちらはこのみさんのお友だちかしら?』


自力で車イスを動かしてリビングにやって来た麗は初めて会う豊と遥に声を掛けた。


『同級の清水豊くんと一年下の西山遥さんです。』


『今井麗と申しますわ。どうぞよしなに。』


『麗さん、母が目を回しています。せめて、二人で一部屋にして戴けませんか?』


このみはさっそく麗に訴えた。


『ご不満かしら?これはお父さまの指示ですの。』


知香は何か言いたそうだが第三者の立場で余計な口は挟めないと思った。


『旦那さまがお帰りになりました。』


源一郎がリビングに入って来た。


『康子さん、このみくん、お疲れさま。おお、知香くんもお手伝いに来てくれたのか。これはちょうど良かった。』


『年末年始はお世話になりました。』


知香にも聞いて欲しい様だ。


『あの、待遇が良すぎて困ります。私たち、親子二人で狭いアパート暮らしでしたからそれなりの部屋で結構です。』


康子が訴えた。


『申し訳なかった。本当は康子さんには私の部屋に来て欲しかったのだがまだ根回しが充分に出来なくてね。』


『は?』


『上西に聞いたと思うが、私の前妻は麗が小さい頃に亡くなってね。このみくんがうちに来てからもし妻が居てくれたら麗にもこんな弟か妹がいただろうにと思って最初はこのみくんを養子に出来ないか考えていたんだ。』


『ワタクシがこのみさんを養子にするならお父さまに再婚をお勧めしたのですわ。』


源一郎と康子が再婚をすればこのみも子どもになるが、会った事もない相手に突然求婚する事は出来ない。


『それで食事に呼んだのですわ。』


『最初は様子を見るつもりだったのだが年甲斐も無く康子さんに一目惚れしてしまったんだよ。その場で直接言うのも野暮だし、上西にそれとなく匂わす様に伝えたんだ。』


全ては茶番だったのだ。


それなら野暮でも最初から言った方が良かったのではないだろうか?


『こう見えて私も度胸がなくてね。改めて康子さん、私と結婚して戴けないだろうか?』


源一郎はみんなの前で求婚した。


『私の様な者で宜しいのですか?』


唐突にプロポーズされて康子は困った。


『私にはあなたしかいません。女手ひとつでこのみくんの様なしっかりした子を育てた貴女を尊敬しています。』


『……少しお時間を戴けないでしょうか?』


とはいえ、既に外濠は埋められているし断る事は難しい。


それでも康子は時間が欲しかった。


『旦那さま。』


『うん?』


二人が結婚すると源一郎の次女となるこのみが尋ねる。


『仮に母が断った場合と受けた場合の事ですが。』


今まで通り今井家で働く事が出来るかが問題となる。


『良い返事を貰えなかった場合でもこのみくんさえ良ければ今まで通りここで頑張って欲しいと思う。結婚を許して戴けるならお手伝いではなく私の娘として振る舞って戴きたい。』


『私は、旦那さまと母には一緒になってもらいたいと思います。しかし、そうなった場合でも今まで通りここで働く訳にいきませんか?』


『それは無理だ。娘に働かせるなんて。』


『そうですわ。このみさんは働くより勉強をしてほしいですわ。』


このみにしてみれば勉強より働く方が良いだろう。


『分かりました。このみには私から説得します。中学生の子どもに働かせるなんて本来あってはならない事ですが、私はこのみに甘えていた様です。その代わりに私がこちらで働きます。』


『ちょっと待って下さい。そのお言葉はプロポーズを受けるという事で宜しいのでしょうか?だとすると貴女を働かせる訳にはいかない。』


結婚をしたら気楽に過ごせという訳だ。


『いえ、甘えて過ごす訳にはいきません。』


二人の結婚に対する考えが違う様だ。


『私は聡子……麗の母にもう少し気遣ってあげればと後悔しているんだ。出来れば康子さんには自由に過ごして戴きたい。』


源一郎が昔を思い出しながら辛い表情で訴える。


『私の自由は家事をする事ですよ。』


今まで堅い表情だった康子がにこやかに言葉を返した。


『康子さん……宜しいのですか?』


源一郎は返事として受け取って良いのか尋ねる。


『はい、このみ同様、頼子さんに鍛えて貰います。頼子さん、宜しくお願い致します。』


『はい、奧さま。覚悟して下さい。』


みんなが笑顔になった。


『あの~。』


恐る恐る遥が手を挙げた。


『どうなさいました?……えー……。』


麗は遥の名前を失念している。


『遥です。こうちゃんがやっていたお仕事、私が代わりにやりたいんですけど……。』


『貴女のお家は大変なのでしょうか?普通の中学生を働かせる訳にはいきませんわ。』


(以前私をメイドにしようとしたくせに。)


知香は心の中で麗に毒付いた。


そもそもこのみが麗の家でメイドを始めたのは麗が知香にメイドになって欲しいと言った事がきっかけである。


『本当にお手伝いで良いんです。こうちゃんのそばに居られれば。』


『なんだ、抜け駆けか?』


豊が文句を言ったがここは男の出る幕ではない。


『分かりました。とりあえず夏休み中は試雇期間にしましょう。ワタクシもバスケの練習がありますので2学期からは土日だけでも来て戴ければありがたいですわ。制服は……。』


麗はぽっちゃりした遥を見て一瞬考えた。


『後でサイズを測って直ぐに注文致しますわ。遥さん、宜しくお願いしますね。後、こうちゃんではなくこのみお嬢さまですわ。』


『はい、麗お嬢さま。宜しくお願い致します。』


今回は知香の出る幕はなかったが、源一郎と康子を結び付けたのはこのみを麗に紹介したからである。


(こうちゃん、良かったね。)


知香はシンデレラになったこのみの幸せを喜んだ。

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