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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学三年生編
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萌絵の嫉妬

修学旅行の最終日は昼食の後、新京極で土産を買う自由時間が最後の行程となる。


『これ、受験勉強に良いよね。』


合格とか必勝などと書かれた鉢巻きを見て笑うが買う生徒はいない。


『麗さん、こういうの食べるかなぁ?』


京都土産の定番、生八つ橋は試食もあり、知香は試食を食べながら考える。


『お嬢さまだからね。』


『こちらは昭和天皇にも献上された一品なんですよ。』


知香の腕にしがみ付いていた紀子は目で自分も試食したいと催促するので食べさせると満足そうな顔をしている。


『こんな姿やぎっちが見たら大騒ぎするんじゃない?』


美久が心配そうに言った。


『でも言って分かる娘じゃないから。』


嫉妬深い萌絵は下手に言っても理解出来ないのだ。


『ごめんね、面倒臭いのに付き合ってくれて。』


せめての救いは紀子自身が分かっている事だ。


八つ橋を買って4人は店を出たが、紀子が知香にしがみ付いた状態のところに萌絵や奈々、ありさたちが通りがかった。


『あ。』


知香と萌絵は一瞬目が合ったが、萌絵は直ぐに振り返り走って行った。


『萌絵!』


知香が叫ぶが萌絵は商店街の中に消えていく。


『萌絵は私に任せて!』


『奈々は事情分からないから私も行くからチカはのりちゃんと一緒に居て!』


奈々と美久が萌絵を追いかけて行った。


『どうしたの、これは?』


ありさも学級委員なので多少は知香と紀子の事故後の関係は知っているが、露骨に抱き付いている姿は普通の関係ではないと感じた。


『話すからあそこでかき氷でも食べて落ち着こう。』


知香が指差したのはかき氷の屋台だった。


『ありささん、ごめんなさい。迷惑をお掛けして。』


『なんだか変だよね。こうやって普通にいられるのに甘えないと落ち着かないって。』


ありさは詳細を聞いたが不審に思った。


『でも我慢し続けると昨日みたいにパニックになっちゃうんだって。』


『それが続くとなると、高校に行ったらどうするの?』


三年生はもうすぐ受験が始まる。


『のりちゃんと一緒の高校に行こうかな?』


紀子の目が輝いた。


少なくとも成績はふたり共同じくらいである。


『やぎっちはどうするの?』


『萌絵はなぁ……。』


勉強嫌いの萌絵はどう考えても知香の同じ高校に行く事は出来ない。


『それに、私を受け入れてくれる学校かどうかも問題なんだよね。県立の共学は大丈夫そうなんだけど、萌絵は女子高志望だから。先生が言うには女子高は表立って拒否はされないだろうけど難しいって。』


『私は知香さんと同じ高校受けたいってお母さんに言ったらその方が良いって言われたの。高校に行っているうちに病気が治せるならだけど。』


いつかは完治してもらわなければ自分の身が持たないと知香は思った。


『お、いたいた。』


萌絵を追い掛けていた美久と奈々が萌絵を連れて戻って来た。


『萌絵、ごめんね。』


知香は立ち上がり、萌絵に謝った。


『……なんで謝るの?……高野さん、病気なんでしょ?……だから知香……。』


萌絵は泣いて言葉にならなかった。


『萌絵さん、ごめんなさい。私、萌絵さんから知香さんを奪うつもりはないの。でも、たまに甘えないと自分でも分からなくなっちゃうから、許して。』


『……私だって、高野さんが病気だって分かるけど……でも嫌なの。』


病気とは関係なく少なからず紀子が知香を好きなのは萌絵も分かるのだろう。


でも当事者の知香にはどうする事も出来ない。


『萌絵、いいかげんにしなさいよ。もう少し大人にならなきゃ。一度知香に振られなさい!』


奈々が耐えかねて萌絵を叱り飛ばした。


『大体知香は優しすぎるの!萌絵が鬱陶しいならちゃんと言いなさいよ!そしたら私が萌絵と一緒に傷を舐め合うから。』


(え、そっち?)


奈々流の慰め方だと思う。


確かに優しすぎるのは時として罪になる。


(進学もあるし、いずれはそういう事になるかもしれないな。)


知香は萌絵と別れの予感がした。


『萌絵に変な思いを抱かせた事には謝りたいと思う。改めてごめん。』


(今はまだ考えない様にしよう。)


『3人とも疲れたでしょ。かき氷、私が奢るから。』


『さすが知香!気が利くわね。』


奈々が直ぐに反応する。


『もう、奈々は上げたり下げたりどっちなの?』


『私は知香に振られたんだから良いの。』


奈々には助けられた。


たぶん普段、教室でも萌絵を慰めてくれているんだろう。


『早く食べて!もうすぐ集合時間だよ。』


『うわっ、頭が!』


奈々は急いでかき氷を口に入れたので頭に響いた様だ。


かき氷を食べながら一行は急ぎ足でバスに向かった。


『なんかハプニングだらけだったよね。』


帰りの新幹線で雪菜が行った。


『そうだね。でもその分思い出には残るだろうね。』


知香は流れる車窓を眺めながら修学旅行で起こった出来事を噛み締めていた。



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