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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学三年生編
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清水の舞台

奈良に宿泊した翌日、一行は私鉄の特急で京都に行き、そこから4人一組となってタクシーで各々観光をして行く。


『おはようございます、宜しくお願いします。』


『宜しくお願いします。』


タクシーの運転手は宮本という優しそうな中年男性だ。


知香が助手席に座り、後部座席に美久、雪菜、紀子が座った。


知香が行動予定表を宮本に渡し、それに従って運転手が目的地を1ヶ所づつ回っていく。


知香たちのグループは全員歴史が苦手なので定番コースを回る事にしている。


『このタクシー、背が高いし乗りやす~い。』


みんなタクシーに乗った経験は少ないが、昔からよく見るセダンタイプの車両ではなく最近の主流の形は評判が良い。


一行は最初に三十三間堂、それから清水寺に向かった。


『ここでお待ちしています。何かあったら連絡下さいね。気を付けて行ってらっしゃい。』


宮本に見送られ、知香たちは清水寺に向かう坂を上がった。


『おー。』


坂を上がると朱色の仁王門が出迎える。


『みんな並んで!』


知香がカメラを構えて撮影した。


『チカも入りなよ。』


今度は美久のカメラに3人が収まる。


仁王門を潜り、三重の塔を抜けると清水の舞台と呼ばれる本堂が見えてきた。


『大きいね。』


本堂は平成の大修理が終わり、屋根も葺替えたばかりなので美しい景観となっている。


4人は清水の舞台から京都の市街を眺めた。


『良い眺め。』


『昔から清水の舞台から飛び降りると願いが叶うんだって言われているんだよね。』


美久が解説した。


『じゃあ私、ここから降りたら女の子になれるかな?』


知香が飛び降りる振りをした。


『止めてー!』


突然、紀子が叫び出して踞った。


『どうしたの?』


只事と思えず知香たちが紀子に寄り添う。


『知香お姉ちゃんが死んじゃう!』


『知香……お姉ちゃん?』


雪菜は理解出来なかったが、知香と美久はフラッシュバックだと思った。


自分が交通事故にあった事と知香への思いが一気に沸き上がっのかもしれない。


『のりちゃん、大丈夫だよ。私はここにいるよ。』


知香が紀子に優しく語り掛けたが紀子は気を失っている。


『ともち……のりちゃんって?』


事情を知らない雪菜が知香に聞いたが、とりあえず紀子を落ち着かせなければならない。


『美久、先生に連絡して。』


『もうしてる。』


紀子を膝に抱えた知香が指示をする前に美久は木田先生に電話を掛けていた。


雪菜はタクシー運転手の宮本に電話をすると、宮本が車を駐車場に入れて直ぐに駆け付けてきた。


『大丈夫ですか?』


『混乱しているだけだと思います。先生からは旅館に連れて行く様指示がありました。』


宮本が紀子を背負い、清水の舞台を降りてタクシーに乗せた。


旅館は清水寺から10分ほどの場所にあり、到着すると直ぐに紀子は部屋に運ばれた。


『ご苦労さま。まだ午前中だし、あなたたちは残りの観光に行きなさい。』


木田先生が知香たちを促す。


『でも紀子さんが心配で……。』


『こういう時は先生に任せるの。せっかく京都に来たんだから、楽しみなさい。』


知香たちは再びタクシーに乗って観光を続ける事になった。


『ねぇともち、紀子さんの症状って?』


『幼児退行。紀子さん、事故で一時記憶障害になった時の症状よ。チカの介助で記憶が戻って普通の生活をしているけど事故のトラウマが残っているのかもしれないわね。』


雪菜の問いに知香では無く美久が答えた。


美久も紀子の事故の時に病院に同行し、担当看護師の母・美子を通して紀子の症状は知っている。


『きな、黙っていてごめんね。紀子さんは私に甘える事で安定を維持してたの。』


知香の言葉に雪菜はショックを受けていた。


『でも木田先生も浅井先生もいるし修学旅行なんだから楽しもう!その前にお腹空いたね。』


知香の一声で暗い雰囲気が少し明るくなった。


『運転手さんのお薦めランチってありますか?』


『僕のお薦めは豆腐料理だね。京都の豆腐を食べたら暫く普通の豆腐は食べたくなくなるよ。』


宮本がお薦めの豆腐料理屋を案内した。


『ここはランチなら1000円ちょっとだから中学生でも大丈夫だと思うよ。』


お昼ごはんはなるべく京都ならではの食事をする様に言われているのでちょうど良い。


宮本も一緒に食べようと勧めて4人での昼食になった。


『無理に誘ってすみません。』


大人相手の観光タクシーならお客持ちで昼食を摂る事も出来るが、中学生から昼食代を出してもらう訳にもいかず、宮本は普段より高い昼食代を出す事になった。


『胸が大きくなる様にいつも豆腐を食べているんだ。』


『だからともち、発育が早かったんじゃない?』


女子中学生の生々しい会話に宮本はたじたじだ。


『運転手さんもやっぱり胸が大きい方が良いですよね?』


中学生の露骨な質問に困りながら宮本は答える。


『そりゃあ小さいより大きい方が良いと思うけど、それは関係ないかな?』


とりあえず優等生的な答えで凌いだ。


『運転手さん、この子どう思います?』


雪菜が知香を指して宮本に問うた。


『……可愛いと思うよ。……まさか、男の子?』


宮本が知香を男の子と当てた事で3人は驚いた。


『えー、凄い!なんで分かったんですか?』


宮本は何故知香を男だと分かったのか?


『いや昨日ね、別の学校の生徒さんたちを乗せたんだよ。その中にも同じ様な子がいてね。』


(え、もしかして?)


『その生徒たちって何処から来たって言ってましたか?』


『千葉県のM市だって言ってたよ。その生徒さんはかなり背が高かったから直ぐ分かったけど。』


智美の事だと知香と雪菜は思った。


まさか、同じタクシーに乗っていたとは驚いた。


知香は何かの縁を感じる気がした。


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